25.双子の母の仇討ち。
窓の外を見ると、スカーフを巻いたゴブリンが群れを率いていた。
「あの色、あの模様...、母ちゃんが作ったスカーフだ。
相棒っ!今すぐエスポワールを降ろしてくれ!
アイツだけは...、絶対に殺す...!」
「待ってくれヒルク!
この海岸沿いは入り組んだ岩場になってる!
着陸できそうな場所を探すから少し時間をくれ!」
「それじゃダメなんだよ!
運転しながらでも聞いてただろっ⁉︎
アイツは母ちゃんの仇なんだ!見失っちまったら、俺...、悔やんでも悔やみきれねぇ...!」
「気持ちは分かるけどよっ!
無理なもんは無理なんだって!」
「...分かって...たまるかよ...。」
「...え?」
聞き返すと、怒りが高じて涙が出ているヒルクが迫ってきた。
「どきやがれっ!
目の前に自分の母ちゃんがいるお前なんかにっ!
俺の気持ちが分かってたまるかってんだよっ!!」
ヒルクはそう言うと、俺から操縦桿を奪って海の方へ進路を取った。
「お前...!何する気だよ!」
「...じゃあな、相棒。
俺は行かなきゃなんねぇんだよ...。」
ヒルクは後部席のロックを破壊し、ドアを開けた。
「待てっ!無謀すぎる!!」
俺の声は届かず、叫んだ頃には既にヒルクは飛び降りていた。
「ヒルク君っ!!」
「...うぅ...待ってユータンっ!落ち...着くのよっ!!」
ミズナはユータンも飛び降りようとしているのを察して、腕を掴んでくれていた。
「おいユータン!お前は行くなよ!
ヒルクにはテレパシーで落ち着くように伝える!
多少は雑にでも着陸させるから、その後で助けに行くぞ!」
「悪いね、コウ。
今だけは聞けないさね...。」
「...ぐうぅ、絶対に...行かせないのよっ!ユータン!」
「ミズナッ!その手ぇ、放すんさっ!」
ユータンはミズナの手を思いっきり振り払い、ミズナは尻もちをついてしまった。
「キャッッ!」
ユータンはミズナにすまないねと言いたげな目をしている。
「ウチは...、冷静じゃないかもしれない...。
でも、あのバカ弟を直接止めなきゃならんのさ...。
...これ以上、家族は失いたくないさね...。」
そう言い残し、ユータンも飛び降りた。
ヒルクは海から奇襲をかけようとしてるのか。
しかしあの剣幕では、テレパシーを送っても、ユータンが制止しても無駄だろうな。
エスポワールを着陸させてる暇はないぞ...。
「よし!作戦変更だ!
エスポワールに残った俺たちは、このまま壊れたドアから援護を行う!」
「く、空中から支援するって...!コウ本気なのよっ⁉︎」
「他に手段が思いつかないんだ!
ミズナはアクアタンク、母さんは弓を!」
「分かったわ...!やるしかないのね...。
出よフレイムアローッ!」
「コウっ!開いてるドアは一つしかないけど、どうやってサヤカさんと同時に援護するのよ?」
「いつも使ってるガラスのテーブルあるだろ?
それをドアの前まで運んでくれ!
母さんは下から、ミズナは上に乗って狙撃するんだ!」
「分かったのよっ!」
「しゃがむ事になるから重心が低くなってバランスは取りやすいと思うが、絶対に落ちるなよ!」
「了解っ!気をつけるのよっ!」
ミズナがガラスのテーブルの上にしゃがむと、何故か母さんが申し訳なさそうにミズナに言う。
「ミズナちゃん...、その、ガラスのテーブルだから、下からパンツ見えてるわよ...?」
「ご、ごめんなさいっ!
まさかこんな体勢になるとは思ってなかったのよっ...///」
おいっ!母さん特等席過ぎるだろっ!
俺と変わってくれよ...!
「あっ!コウ見てっ!
ヒルクがそろそろ海岸に着きそうなのよっ!」
「ユータンちゃんは潮の流れが悪くて、かなり遅れちゃってるわよ!」
くそっ...、しばらくヒルク一人で戦わなくちゃならないのか。
対するゴブリンは...、多いな、十体以上はいるぞ。
「仕方ない、今はユータンの事は信じるしかない。
それよりもヒルクだ!
海岸沿いに機体を停滞させるから、ミズナと母さんは狙撃の準備だ!」
俺はエスポワールを鋭い岩肌ギリギリまで近づけた。
風が強く吹き付ける中で、精神が擦り切れるような操縦を強いられた。
「グギ...ギ、キ...カイ、飛ンデル。」
...あのスカーフを巻いたゴブリン、今言葉を話したように聞こえたぞ。
「コウっ、ゴブリンたちがエスポワールに気づいたみたいなのよっ!
それに、もっと機体を安定させないと、間違ってヒルクに当たっちゃうのよ!」
「海風が激しくてこれが限界だ!
けど、ミズナの狙撃なら最悪ヒルクに当たっても死にはしないから大丈夫だ!」
いや、もしかしたら誤射する事でかえって冷静にさせられるかもな...。
「コウ!ヒルクがゴブリンたちに突進して行くのよっ!
あの数相手じゃ、返り討ちにされちゃうのよ!!」
ヒルクは重い盾を鈍器のようにして振り回している。
あんな攻撃じゃ隙だらけだろっ!
(落ち着けよヒルク!俺の声、届いてんだろっ?)
ヒルクは頭に届いた俺の声を振り払うように、頭を振って一心不乱にスカーフを巻いているゴブリンに突っ込んで行く。
「うおぉぉぉぁ!!母さんのっ!仇ィィ!!」
...ダメだ、アイツ止まらねぇ!
エスポワールで体当たりを仕掛けるしか...!
いや、落ち着け俺!そんなの無理に決まってるだろ!
「母さん!ヒルクからは大きく外して矢を大量に放つんだ!とにかくゴブリンの気を引くしかない!」
「分かったわ!ファイアアロー連射ッ!」
「ミズナはアクアスナイパーの出力を抑えてヒルクに当たるように照射するんだ!」
「えっ⁉︎ヒルクに当てるって事なのよっ⁉︎」
「ああ、アイツには少し頭を冷やしてもらう...!」
ゴブリンの周囲に母さんの放った燃え盛る矢が降り注いだ。
「グッギャァ!ナ!ナンダァ!」
ミズナのアクアスナイパーはヒルクの足に直撃し、転倒させた。
「いってぇ...!ミズナッ何しやがんだっ!
お前は俺たちの母ちゃんの事覚えてんだろ?
仇が目の前にいるんだよっ!」
「ヒルクとユータンのお母さん、アタシも大好きだったのよっ!
でも、今はお願いっ!そろそろユータンも合流するから、せめてそれまでは待ってて欲しいのよっ!」
ヒルクはその言葉を無視した。
体勢を立て直し、もう一度ゴブリンに向かって突進を開始した。
その時、母さんが渾身のテレパシーをヒルクに飛ばした。
(ヒルク君っ!どうか落ち着いて...。
このままじゃヒルク君はやられてしまうわ。)
母さんのテレパシーが届いたのか、ヒルクの突進は徐々に速度を落とした。
(ヒルク君はどう思ってるのか分からないけど、私は息子のように思ってるのよ...。
だから、私に悲しい思いはさせないで...。)
そしてやがて、ヒルクの足は止まった。
(無事に帰って、またみんなでお寿司を食べましょう?
ヒルク君みたいにたくさん食べてくれる人がいなきゃ、作りがいがないわよ...。)
母さんは伝え終わるとその場で倒れた。
やはり母さんのテレパシー能力は体力の消耗が尋常じゃないんだな...。
「サヤカ様...。俺...、」
ヒルクはハッと我に帰り、怒り狂った瞳が冷静の色を取り戻した。
「みんな、すまなかった!
ここからはいつも通りの俺で行かせてもらうぜっ!」
ヒルクは重い盾を地面に突き立て、ゴブリンの群れに向かって衝撃波を飛ばした。
その時、ビショビショに濡れたユータンがやっとの思いで合流した。
と思いきや、いきなりヒルクに飛び蹴りをかます。
「みんなに迷惑かけてんじゃないよっ!バカ弟ッ!」
ヒルクへの喝に思えたユータンの飛び蹴りは、ヒルクの盾を足場にして鋭く軌道を変えた。
ヒルクが作った衝撃波の合間を縫うようにユータンのしなやかな剣が次々とゴブリンの首を絡め取る。
最後の一体。
残ったのはスカーフを巻いたゴブリンだった。
ユータンが流れるように首をはねて終わりかと思ったが、その剣は首を避けて空を切った。
そう、首には双子の母が作った世界にたった一枚のスカーフが巻かれていたのだ。
「ナ、ナンダ!オレ、殺サレナカッタノカ...!」
うろたえているゴブリンをよそ目に、ユータンが大きな声を出した。
「コウ〜ッ!最後にもう一回、わがままを聞いてくれないかいっ!
コイツはウチら二人にやらせてくれ!!」
(あぁ、分かった。お前たちなら必ずやれるさ。
俺たち三人は上から見守ってるよ。)
「ありがとうね...。」
「みんなっ!さっきはすまんかったっ!
じゃあ、やっちまうか!姉貴っ!」
「ああ!行くよっ!ヒルク!」
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