19.ネコを継承した魔族。
目の前に姿を現した魔族の少女に、俺は絶句した。
いや、俺だけじゃない、みんな足がすくんで時が止まっている。
そして、雨が降り始めた。
振り始めた雨音の中のビチャビチャと言う音が、再び時を動かす。
ゴブリンが魔族の少女に向かって突進してきたのだ。
そう見えたのも束の間、彼女はその爪でゴブリンの心臓を的確に引き抜き、それを喰らった。
「ざぁこ♡もうおしまい?♡ボクって凄く強いでしょ?
ミィって言うんだよ?覚えてくれたら嬉しいにゃん♡
ま、覚えた所ですぐ殺されちゃうんだけどね♡」
「名前を覚えるのは得意なんだが...、殺されちゃうのは残念だな。」
「んー、ボク的には生かしておいても良いかなって感じだけど、魔王さまの命令は絶対なのにゃ〜ん♡」
ミィはパチクリと大きな瞳を瞬かせた。
尻尾のようにも見える長い髪を左右に振りながら、俺の方へ距離を詰めてくる。
その姿はジャポルネに伝わる妖怪、猫又のようだ。
「ねぇ、イケメンさん、ボク気になるにゃん♡
アナタ、魔族なのにどうして人間と手を組んでるにゃん?♡」
「俺は...、魔族なんかじゃない。
俺もお前もゴブリンも、元は人間だったんだ!」
(みんな!伝わってるか?
俺が会話でこの魔族の女の注意を引く!
その隙にエスポワールに戻れ!)
「あっ!今アナタ目が光ったにゃん♡
それどうやったにゃん?カッコよかったから教えて欲しいにゃん!」
「さぁな。日の当たり方で光って見えただけじゃないのか?」
「えー?絶対に光ったにゃん!てか、日出てないし!
本当のこと教えてくれたら楽に殺してあげてもいいにゃん?♡」
「そうか。じゃあ俺は殺される心配はないな。」
ミィは不思議そうな顔をして更に近づき、くんくんと鼻をならしながら俺の周りを一周した。
そして、愛らしい仕草で首をこてんと傾げて俺を見つめる。
「ねぇ、アナタの目的は何なのにゃん?どうしてボクたちを裏切るのにゃん?
ボクたち、ペアを組んだらきっと人間を全滅させられるにゃん♡
もしかしたら、魔王も倒せるかもなのにゃん♡」
「お前、やっぱり昔の事とか思い出せないのかよ?
人間だった時の記憶...。」
「んー、アナタさっきから何を言ってるのにゃん?もしかして人間に洗脳されちゃってるにゃん⁉︎
それならぁ、ボクがキスして目を覚まさせてあげるにゃ〜ん♡」
やはり、ほとんどの魔族は自分が生まれながらの魔族で、人類は敵だと思っているみたいだ。
俺や母さんが千年前を思い出せたのは奇跡なのか...?
「キスは勘弁してくれ、大切な人が居るんだ。」
その瞬間、ミィの瞳から輝きが消え、身体が小刻みに震え出した。
「へぇ...。それってやっぱ、さっきそこにいた白衣を着た女?
...ボク、アナタを殺して食べたくなった...、
にゃんっっ!!」
その瞬間、ミィの爪が俺の喉めがけて襲いかかってくるが、俺はその動きを読んで避けた。
「にゃー...、ザコ相手に失敗したにゃん...。
じゃあ、もし戦ってボクに勝てたら、アナタがボクのこと裸にして食べてもいいにゃん?♡」
この女、惚れやすい上に嫉妬しやすいのか。
「なぁ、お前。千年くらい前、片想いの彼に逆上して殺してしまったとか、そんな記憶はないのか?」
「うっさいにゃんっ!
やっぱりお前は半殺しにしてから、目の前であの白衣の女を残虐な方法で殺してやろうかにゃん!」
...くそっ、コイツかなり素早いな。
俺はミィの攻撃をなんとか受けつつ、エスポワールへ向かった。
だが、戦闘で勝てるわけないし、エスポワールまで逃げ切れる気もしない。
「あ...、しまっ...!」
俺は地面のぬかるみに足を取られ、転倒した。
ミィは勝利を確信した顔で俺に詰め寄りトドメを...、
その時、近くの木からヒルクが一切の躊躇なくミィに飛びかかった。
「うぉらっっ!!
ふぅ...、無事かっ!相棒!」
ヒルクはミィの上に乗り、体重をかけて抑える。
「ザコが!邪魔にゃぁぁぁ!!!」
つんざくようなミィの叫びと共に、ヒルクはいとも簡単に剥がされた。
そのタイミングで、
パァンッ!!
木の影からユータンも姿を現し、ピストルでミィの肩を撃ち抜いた。
「ギニャァァァ!」
直後、ユータンは間髪入れずにミィに向かって突進し、剣を振り下ろす。
が、虫でも払うように爪で弾かれた。
「ぐはっ...!
コウ!今のウチらじゃ勝てない!何か...、何か作戦を指揮しなさいっ!頭を落ち着かせなっ!」
そうだ、ユータンの言う通りだ。
俺らは勝てない。ならどうする...。そうだ...!
(ミズナ!母さんの目の前の地面にアクアタンク発射だ!母さんはそこに向かって最大火力!)
俺は能力を発動させた。
豪雨で姿は見えないが、二人が指示通りに動いてくれている音が聞こえる。
ボォッッ...モァァ...
次の瞬間、目の前は細かい水しぶきと、ぬるい湿気のある空気に包まれた。
「喰らえネコ女っ!冷気寒波ァァ!」
俺はミィの泥だらけの美脚に向かって冷気を放ち、凍結させた。
どうせすぐ壊されるだろうが、本命はそれではない。
俺は冷気を周囲に向けても放出した。
すると、みるみるうちに辺りは煙幕のような濃霧に包まれた。
(奴はしばらく動けない。濃霧に紛れて今のうちに撤退するぞ!)
俺は能力で全員に指示を伝え、エスポワールに向かって全力で逃げた。
「ザコ共逃げるにゃぁ!
次見つけたら絶対に殺してやるにゃぁぁぁ!!」
濃霧の中からミィの叫び声だけが響いていた。
「全員乗ってるな?
エスポワール、緊急離脱!!」
さっきまで見えていた湿地帯は、厚い雲に覆われていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
俺たちはミィと名乗る魔族の女から逃げ、ミズナの家に帰ってきた。
みんな様々な感情が入り混じり言葉を失っているが、共通している感情は、やはり絶望だろう。
そんな中、ヒルクが口火を切る。
「あれって...、やっぱり魔族なのかよ、相棒。」
「ああ、間違いない。
魔族ってのはゴブリンよりも知性があって、しかも狡猾で、さらに魔力も強くて、特殊な能力を一つは継承して持っている。」
「そうね。私が見たところ、あの魔族はネコの能力を継承していると見て間違いないと思うわ。」
やはり、動物の能力を継承した魔族...。
俺や母さんみたいに、人間を継承した魔族とは戦闘力が段違いだ。
俺は気落ちして、つい口から漏れてしまう。
「...ゴブリンをやっとの思いで倒してるような俺たちには、到底かなわない相手なんだよ、本物の魔族っていうのは...。」
その時、ユータンが俺をビンタした。
「アンタがそんな弱気でどうすんだいっ!
ウチらはアンタを信じて、命懸けで戦ってるんだよ!
それなのにっ...!もう知らないっ!」
ユータンは玄関から飛び出して行った。
...。
「コウ。こういう時は女の子を追いかけるもんだよ。」
母さんは俺にそう言った。
「コウ。ユータンの事、頼んだのよ...。」
「ミズナ...。ごめん、俺行ってくる...!」
何のごめんだったのか分からないが、俺はユータンを追いかけるため玄関に手をかけた。
「相棒!姉貴はきっと、コイのいる公園だぜ...。
喧嘩した後は必ず行くんだ。」
「恩に着る...。」
俺は無我夢中で駆け出した。
・・・・・・・・・・・・・・・
公園に着くと、ユータンが独りベンチに座っていた。
「...隣、いいか?」
「あぁ。」
「さっきは、すまなかった。
俺、お前の気持ち全然分かってなかった。
指揮をすればその通りに動いてくれる、それって生半可な覚悟じゃ絶対にできない事なんだよな。」
「そりゃそうさね。
アンタの指揮一つで、ウチの命が終わる事だって考えられるさ。
ウチだけじゃない、みんなそうさね。」
「ああ、そうだよな。
俺、みんなの覚悟を理解できてなかったんだな。」
「あぁ、それに気づいてくれればいいさね。
それと、もう一つ。
ウチの気持ち、アンタは全然分かってないよ。」
「それって、どういう事だよ?」
「ウチね...、アンタのこと本当は好きみたいさね。」
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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!




