表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

4.作戦変更!

最初にすこしだけ他者視点が入ります

それ以降は主人公視点に戻りますので、他者視点が苦手な方は本当に少しだけスクロールして飛ばしていただければ

《sideエルグ・ニパ》


使えない。

お嬢がそう呟いた後の判断は早かった。周囲の貴族たちは誰もが恐怖し焦りどう逃げるかを考える中、お嬢だけはしっかりと前を見て、


「エルグ。周囲の貴族に声をかけて、私たちが1番前に出られるように調整してくれるかしら?後ろにいる方が危険だわ」


「分かった!今すぐに」


初めての戦場。そしてそこで見る奇術公と言う絶対的な存在。

しかしお嬢はそれに耐え、今自分にできる最善を探している。


俺だってここで前に出るという判断はできない。しかし、お嬢には何かが見えているみたいだ。

なら俺は、その指示に従うまで。

やはり、お嬢は俺が忠誠を捧げるにふさわしい相手みたいだ。




《sideムク・パール》


周囲が撤退をすることを考えれば、前に反転してくる仲間がいることは良くないこと。

これで周囲がこんな状況でも動かないような堅物なら別として、すぐに逃げていくような者達なら私たちが逃げる時に邪魔になるということはないはず。

だからこそ前に出ることにした。味方の撤退の波にのまれず、安全に逃げるために。


この提案は逃げることで頭がいパイな周囲からすれば受け入れない理由がない話。あっという間に話はつき、私たちは前に出ることができる。

そうすると移動の際に周囲の貴族から感謝の言葉を小さいながらもかけられるわけで、それを私は勘違いだと心の中では笑いつつ、


「子爵家として役割を果たさねばならないと考えたまでです。あなたたちも、生きて帰れたならその役割、しっかりとは足してくださいね?」


「も、もちろんですとも!」

「誇り高き子爵を忘れることはありません」


恩を売る。

貴族は貸し借りと面子でできていて、こうして一度恩だと思わせることができればその後確実に助けになってくれるはずなのよ。しかも譲ることはこそこそやらずに周囲のいくつかの家を巻き込んでいるから、その恩を売るというところを見ている人間も多い。面子を大事にする貴族としては、証人もいる以上踏み倒すことはできない。


「この借りを返してもらうためにも、生きて帰らないといけないわね」


「こんな時に政治的な駆け引きをするとかお貴族様らしくはあるが…………」


「何よ。何か文句でもあるの?」


「いや、ないけどよぉ」


エルグは何か言いたげだけど、睨んで黙らせる。

政治の話が絡む以上黙るしかできないんだろうけど、エルグをこうして黙らせるのは気持ちいわね。普段からもっと政治の話をして二度と私に生意気な口をきけないようにしてやるわ!

こんなことを戦場でも正常に考えられるなんて、私もしや天才なのでは?


ちなみに、そんな天才の私だからもちろんこの後どうするのかも考えてある。

当然ながら前に出たら戦場である以上被害を受けることになるわけだけど、逃げるまでの時間を稼ぐ間被害を最小限に減らすつもり。

そんな方法はと言うと、


「エルグ。あの紫色の旗が見えるかしら?」


「ああ。見えるぞ。それがどうかしたか?」


「弓を持つ全員に、開戦したらまずあれを狙わせなさい」


「分かった。通達しておく…………とはいっても、もうすぐ始まりそうだから全員に伝えるのは間に合わなさそうだな。伝わりきらなかった他の連中には好きなように放たせていいか?」


「構わないわ。何も攻撃しないよりはマシでしょ」


私の見た、軍略を持っているローブの人。

それを狙いに行くつもりなの。

恐らくだけど、近くに旗があることなどから考えてあの人はある程度の人数に指揮を出す権限のある貴族か何か。見た目のボロボロ具合を考えると、男爵家の人間なのではないかと思われるわ。


であるなら、あの人さえ始末できれば一時的な物ではあるだろうけどその指揮下に入っている人間は指揮官の消滅により混乱するはず。

そうなれば連携してこちらの攻撃をするということも難しくなるだろうから、正面にいる私たちの被害を減らせるという考えなわけ。

完璧な作戦だとは思わないかしら?


「お前たち!あの紫の旗が見えるか?俺が指示を出した時に、見えた奴らはその旗を狙って欲しい!ただ、もし狙っても届かなさそうだと思ったり旗を見つけられなかったりしたなら好きに他の敵を狙って良い。できると思った奴だけ狙っておいてくれ!」


私の指示通りにエルグが通達をする。

ただこれをすべての私の連れてきた者達に伝えることは難しく、それをしきる前に敵の方から色々と声が聞こえてくる。


「突撃せよぉぉぉ!!!!!」


声の発生源は、中央のあたり。

奇術公ではないだろうけど、かなり地位の高い人間のものではないかと思われる。

さすがにそれは戦場の端の方までは届かないから、聞こえた範囲にいる中央の部隊がまず動き出す。

その動きに呼応してこちらも中央の公爵家の人間が迎え撃つために弓を放たせる指示を出して、


「もう少し引き付けて…………今だ!放て!!」


エルグも指示を出し始める。

先に出しておいた通達通り一定数が私の狙うローブの人のいるところに矢の雨を降らせて、その周囲をひるませる。

ローブの人に届いたかどうかはさすがに分からないけど、ひるませる効果はあったはず。

もう何回かやれば仕留められるかな、なんて思っているとそうなっても対応できるとでもいうように敵の軍が動き始める。

ローブの人の指揮下にあっただろう部隊の前に、大きな盾を持った騎馬隊が猛スピードで現れたの。


「は、速い!?」


「あれって奇術公の操る本体の一部じゃないかしら?なんでこんなところに!?」


奇術公の持つ配下の騎士の一部で、数こそそこまで多くないものの防御力と機動力を兼ね備えた非常に強い力を持つ部隊。もちろん攻撃力だってあるから、このまま私たちに突撃してこられるとマズい。全く以て突進を止められる自信がないんだから。

ただ、何を使用にもその機動力があるから間に合わせられる時間はない。

私たちはおとなしく蹂躙されるだけ。


一瞬で私の作戦が崩壊したぁぁぁ!!!!!終わったぁぁぁ!!!!!

何でこんなにピンポイントで強い敵が出てくるのよぉぉぉぉ!!!!

こんなに強い相手だと一矢報いることもかなわないんだけどぉぉぉぉ!!!!!

どんどん敵がこっちを向きながら下がっていくぅぅぅ!!!




「…………あら?」


「なんだ?来ないのか?」


どうにもならないと思ったけど、なぜか向こうは引いてくれた。

まるで最初から駆けつけることが目的でこちらに攻めてくる気などなかったのかと思うほど、あっさりと引いた。

それに合わせて例のローブの人がいた部隊も私の前からいなくなる。


それどころか、


「引け!ついてこい!!」

「作戦変更だ!左翼に集まれ!!」


敵の後方の方から聞こえてくる指示はそんなもの。

それに合わせて敵軍も動いて、敵の左翼、こちらから見れば私たちがいる左側とは反対の、右側の戦場へと移動していく。


何か、意図していない事でも起きたのかしら?それとも、奇術公が何か新しい策を思いついたとか?

とはいえ、今それは私にとってどうでもいい事。とりあえず大事なことは、私たちの前から敵が消えて行っているということ!


「エルグ。敵が何を考えているのか分かる?」


「悪いがさっぱりだ。こんなに陣形を崩すなんて、攻められたらどうにもできないぞ?…………1人もこれをチャンスだと考えてないみたいだから意味はないけどな」


「そうよね」


急遽計画を変更したのか、敵の動きは明らかに悪い。こんなもの通常ならば敵に攻められて痛い被害を受けるだけだと思う。あまりにも無茶な作戦の強硬ね。

しかし、それをまかり通せるのが奇術公。

誰もが恐れ、誰もが敵が帰っていくところをチャンスだと思わず、帰ってくれて助かったラッキーだと思って終わる。


そしてもし攻撃を仕掛けられるような人間がいたとしても、さすがにあの数を前にするとどうにもならない。

さすがにすこしの兵力で崩しきれるほど向こうだって少なくはない。

ならば私にできることは、そうやって全体が動いて9割以上の敵が移動してなおまだ残っている、本当に動きの悪い部隊を見つけて、


「このまま命が助かっても、功績無しで終わるわけにはいかないわ。狩りをするわよ」


「了解。さすがにあの動きが遅い判断力のない奴らが相手なら、負けることはないな」


ここからは戦いなんてしない。

私たちがするのは、無能とそれに振り回される配下を相手にしたただの狩り。

初戦が狩りに変わるなんて、ラッキーだと思わばいいのか結局戦場を理解しきれなったと落ち込めばいいのか。

本当に、最近の私の周りはいろいろとありすぎるわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ