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3.戦場に立つ!

挨拶回りをして、空いた時間で領地経営をして。

ついでにそれでもどうにか作り出した時間でむかつくエルグの言葉を無視しながら連れて行く徴兵された民と騎士の連携を視る。

そんなことをしていたらあっという間に時間は過ぎて行って、


「お嬢!もう数分で到着する予定だ!用意をしておいてくれ!」


「了解。そっちの準備もしておいてね」


「分かってる。もう部下に通達はしてあるからお嬢は気にすんな」


私たちは戦場へと赴いていた。

相手側が兵を集めているということは掴んでいて大まかな出撃のタイミングも予想していたから、軍と一緒に近隣の貴族が兵を連れてすでに集まりきっている。


これから私たちも戦場に到着して早速準備を始める…………というわけではなく。すでに準備は整っていて兵士たちが陣形まで組み終わっている。

では、何が到着するのかと言うと、


「敵が簡単に引いてくれると良いのだけど」


「あんまり強いと逃げなきゃいけないからな。初めて戦場に立つお嬢にはきついか」


もう敵の本体が到着する予定なの。

私たちが到着してから数日もしないうちに敵側もやってきて、その間隔の短さにすこし意識は飛びかけた。もうちょっと、戦場にの空気と言うものになれさせてほしかったわ。

ただ、そんなことを言うと戦場になれを感じたら緊張感を失って油断しかねないからダメだって怒られるんだけどね。普段緊張感なんてないエルグが何を偉そうに言ってるんだか。ちょっとイラっとしてるわ。


なんてことを考えながら待っているとすぐに遠くに敵の影が見え始めて、


「ん~。ちょっと待って。あの旗、あまりいい物に見えないのだけど」


「旗?…………ああ。確かに。こりゃマズいな」


敵影が見え、私たちは表情を引きつらせることになる。

そこで見たものが、あまりにもこの後に良くないことを引き起こすことが見えているものだったのだから。


今回、敵の大将は若い王子だという話を聞いていた。拍付のためにこちらを軽く攻めてほどほどに勝利をしたということで終わらせるつもりだという予想も立てていた。

けれど、その油断していた心が大きく揺れる。周囲も少しざわめいているような気がした。


「あれ、噂の大公の旗だよな」


「こっちに王子の初陣だと思わせて油断させ、強力な手駒を使ってこちらを壊滅させに来るってことかしら?いやらしい手を使うわね」


隣国には、有名な大公(公爵の中でも大きな権力を持っている特別な身分)がいる。通称、奇術公。

その戦術眼と手腕はもの凄い物で、敵を手玉に取りまるで狐に化かされたかのような感覚を味わわせると言われている。当然それだけでなく首を取ることも多くあり、負け知らずと言われる圧倒的な強者。

それがこうして前線が出てきたということは、つまり向こうもかなり本気でこちらを攻めてきているということ。


「こんなことなら子爵家のメンツのためとか考えずにお兄様でも送り出しておけばよかったぁぁ」


「お嬢。それはそれでひどいぞ。坊ちゃんなら捨て駒にしてもいいみたいに言ってるじゃないか」


「あら?そんなことは言ってないわよ。私はお兄様ならこの危機的状況でもどうにか生き残れると考えていたのだけど?」


私たちは軽口をたたくけど、それは焦りによるものじゃない。どちらかと言えば、まだそんなことを言っていられるような余裕があると兵士たちに思わせるためのもの。指揮官の焦りなんて表に出したら配下も焦るし、焦り以上の物を抱えることになりかねない。

そうなったらまともに戦いなんてできるわけでもなく、戦う前から敗北が決まってしまう。


だからこそ私たち指揮官に求められることは、余裕を見せる事。

私たちだけでなく他の貴族などの指揮官も当然同じように落ち着かせるために手を打っているはずで、


「お、お前たち!ボクチンの事を守れぇ!壁になれ!!」

「おおおおおおお、落ち着け!焦ってはならぬぞ!少し儂はここから離れるが、落ち着いて行動するのだ!!」

「爆弾を抱えろぉぉ!!!今すぐあっちに自爆特攻してこい!!!」


おおおおぉぉぉぉぉいっ!!!!何をしてるんだお前たちは!?

私と違って、結構経験者は多いはずだよね?戦場の空気とか慣れてるはずだよね?なんで私より焦ってるのよ!?

同じ貴族として恥ずかしすぎるわ。こんなんじゃ今回の戦いで向こうに痛手を与えることすら難しいわよ?それなりの頻度で隣国とは戦争しているというのに、なんでこんなにも味方は頼りないの!?


「我先にと逃げていきそうなやつらがいるわね。おいて行かれて捨て駒にされるなんて言うことは避けないと」


「もうちょっと端の方なら別方向に逃げることもできたんだろうけど、中途半端な位置にいるせいでどうにもならなさそうだな。俺は対応を考えておく」


「頼むわ」


周囲の反応を見る限り、今回敗北することは間違いないと思う。そういうことなら撤退のための順路などを先に作っておく必要があると思うんだけど、それをするには私たちの配置されている場所が悪い。

左翼の付け根部分、分かりやすく言うなら中間より少し左側にいるという程度で、周囲にはそれなりの数の味方がいる。

もしこれが一斉に撤退するとなるとその勢いは強く、自分たちだけのルートを通って逃げるというのは難しそう。


奇術公がこうなることを予想したうえで出てきたのなら、こうしてうまくは逃げさせなくすることも狙いだと思う。

これで実は本人は来ていなくてただ旗を持ってきていただけでした~となればまだどうにかなるかもしれないんだけど、視えちゃったのよねぇ。さっき、向こうの方に文字と数字が。



・軍略 87



こんなものが出てきたのよ。

普段適当なことしか言わないのに、こうして嫌なところで本当の事っぽいものをを出してくるのがいやらしいわ。

その数字はじわりじわりと近づいてきて、私の背中に冷たい汗が流れる。

向こうの旗が、人が、兵器が大きく見えてくるごとにこちらは小さくなっていくような気がして、周囲の混乱も大きくなっていく。


それでもまだ誰も逃げ出していないのは、正規の軍人がここに入るから。

もし戦わずして逃げ出したとあれば、国から派遣されている軍人たちはそれを国へと報告し、何らかの処罰を将来的に下されることになる。平民ならともかく、貴族にそれをする勇気はなった。

ただ、戦いになったら見えない程度に混乱したところでどさくさに紛れて逃げようと考えている人が多いんだろうけど。


「来たわね」


「来ちまったか」


敵の本隊。奇術公がいると思われるそれはそれは豪華な武装に身を包んだ兵士を中央の戦闘にし、こちらと違い一切ひるんだ様子のない大勢の人と数字が近づいて来る。

そして当然本陣には先ほど見た軍略と言う文字とそれに付随する数字が、


「…………ない?」


何度も確認するけど、ない。本陣と思われる中央には、どれだけ確認しても先ほど見たあの圧倒t京な才能がありそうな数字と文字はない。

敵も数が多いから見つけられないのも仕方ないかと思いここでいらない能力の更にいらない機能、数字が大きい人の文字を数字の大きさに合わせて大きく見せるという機能を使用しても、本陣にそれは見当たらない。

一番大きいのは、



・人材発掘 83



とかいう羨ましい文字だけ。

私もその能力が欲しいわ。こんな使えないものが見えるんじゃなくて、純粋な人を見る力とかが欲しい。

一体こんなもの、誰が持っているのかしら?


気になるところだけど、もっと気になるところ。つまり誰が肝心の先程見えていた軍略を持っていたのかと言うと、その人は丁度私たちの正面にいる人。

ボロボロのローブに身を包み、浮浪者、もしくはあまり優秀ではない魔法使いと言った風貌にも見える。それが、私の視るモノが伝える軍略の持ち主だった。


「使えないわね」


使えない!本当に使えない!

たまには本当のことも伝えてくれたのねって思ってたら平然と嘘をつきやがったわ!

期待した私が愚かだった。

むかつくから、あの軍略を持ってるとかふざけたことを書かれてる人には悪いけどこのストレスをぶつけさせてもらいましょう。

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