30.今度こそ撤退
さすがに敵の対応は早かった。
すぐに敵がこちらを深追いしてくることが無くなり、指揮官が狙いやすくなるなんて言うことはなくなってしまった。
本当はもっとできるうちに首を取ってしまいたかったけど、結局は4人くらいが限界だったわ。
「しかしこれは、悪い事ばかりでもありますまい」
「そう?敵が動いてくれないとこちらも街から出にくいんだけど?」
「それはそうですが、深追いしてこないというのは逃げやすいという事でしょう?」
悪い事ばかりではない。
実際公国兵があえてかなり敵の近いところに居ても向こうは向かっていくという判断ができず、にらみ合いに近い形で終わったらしい。
逃げる背中を追うこともなく、奇襲後に退散するのには都合のいい状況なのだとか。
これにより最初が1番被害を大きくできる奇襲と言うものを何度も繰り返すことができて、一般の兵士が相手ではあるけど帝国側の数をさらに削ることにも成功しているのだとか。
更にそれだけでなく、私たち王国の人間は兵士ではないものを狙って、
「今日狙いやすいのは食糧かしら?」
「そうですねぇ。昨日兵器を徹底的に狙ったので逆にそちらの守りは薄くなっている様子」
物資。そこを徹底的に狙った。
すでに私たちはここで一夜を明かしたんだけど、昨日は兵器を徹底的に狙う形で行かせてもらった。奇襲を仕掛けて火を放ち、敵が反応すれば即座に逃げる。
そしてまたほとぼりが冷めたところで狙ってという事を繰り返していたら今日は敵も本格的に対策をするつもりのようで兵器の周りの兵が増員されている。
しかし逆に兵器を守ることに集中しすぎていて他の増員はされていない。
食料に関しては昨日と同じような状況だから、狙うにはちょうどいい。
さらに言うと兵器よりも食料の方がダメにさせるための手立ては多いから、こちらとしてもやれることはたくさん。
「まずは火を放ちましょうか。そして向こうの兵士に紛れて水を持って行き思い切り関係ないところにもかけていく、とかすればいいんじゃないかしら?」
「なるほど。食べれなくはないでしょうが、水分を含んだ携帯食など味が最悪に決まっておりますからなぁ」
この街の中であれば、短時間に限定しておく必要はあるけど敵機の中に紛れ込んでもバレにくい。だからこそ消火活動を手伝うように見せかけて接近し、他の食料をダメにすることも可能。
とは言っても水をかけるだけだから、食べようと思えば食べることができるというのもまた事実。
帝国兵も文句を言いつつも食べていたりする。
しかし、それはある種の油断。
私たちの本命は別にある。
やることは他の人のパクリと言えなくもないんだけど、
「は、腹が痛ぇ!」
「うごぉぉぉ!!!さ、最悪だ!」
「なんでこんなときに!やっぱり濡れた携帯食食べたことがまずかったんじゃないか?」
聞こえてくるのは、腹痛に苦しむ悲痛な声。
実は、今回濡らす時にちょっとした毒を混ぜて置いたの。以前、目立ちたがりの伯爵が使って奇病と間違える症状を引き起こしたモノね。
あえて敵の物資を濡らすだけと言う程度の事を繰り返したことが上手く効果を出してくれたみたいで、毒入りのものも嫌そうな顔をしながらだったけど気づく様子もなく口に入れてくれたわ。
ただ、どうしたこうしたことを最初からしなかったのかは気になるかもしれない。
最初だと油断を誘えないとはいえ、その後水をかけただけでもてきが食料を廃棄してくれるという可能性は十分に考えられる。そうなれば物資の損失を激しくさせられるし、敵の消耗を誘うならいい手だという意見も納得できるわ。
でも、今回は狙いが少し違うの。
確かにこの後の物資の廃棄率を高めることも狙っているんだけど、今回はその食料を口にした兵士たちが重要。
「さあ。きっかけは作ったわ。後はあなたたちの腕次第、と言ったところよ」
「ええ。ご期待に応えて見せましょう」
「公国としてもこのチャンスは逃すつもりもありません」
狙ったのは、敵の指揮官の中でも特に上の方の立場の人間がいるという情報が入ってきているところ。
本当はその重要人物が腹痛を訴えてくれればもっと楽になったんだろうけど、さすがに濡れた物資は他と交換になった様子。
でも、その交換先がその周囲を固める兵士だったことがこちらのラッキーな部分。
指揮官は健康だけどそこを守る兵士が不調となれば、
「ギャアアアァァァ!!!!」
「今は、今は無理だぁぁぁ!!!!」
「あっ、マズい。耐えたら限界が」
崩すことは容易。
すこし臭いが不快ではあるけど、それでも敵の指揮官の首を取れるというのなら問題なし。
王国と公国の部隊が手を組んで突撃してみればあっさりとお偉いさんたちのもとまでその刃は届き、
「敵将、討ち取ったぁぁぁ!!!!」
「「「「ウオオオオオォォォォォォ!!!!!!」」」」」
悪くない成果が得られたと考えて良いでしょうね。
さすがにこんなことをすれば帝国側も激しい追撃はしてくるけど、それでも得られた成果とは釣り合いがとれる。お釣りの方が何倍も大きいくらいよ。
ついでにというわけではないけど、これによって帝国兵の配置なども少し変更されて、
「どうも我々がここから脱出することを許すつもりのようでして」
「あら。そうなの?罠ではない?」
「それなりの被害は出る試算ではありますが、それでも食料など物資面の事を考えましてここで半分ほど部隊は撤退するという指示が上からも来ています。罠と言えば罠なのでしょうが、それでもかからないよりはマシであるとのことです」
「そう。では、乗っかるとしましょうか」
帝国側も現状の私たちの数のまま公国兵を放置はしておけないと考えたらしく、わざと出口に向かう方面の守りを弱くしたらしい。
とは言ってもこちらに与える損害は大きくなるように設定してあるようで、公国側も相応の被害は覚悟している。
幸い私たちは公国兵が守ると言ってもらえたのでありがたくそうしてもらい、街からの脱出を図った。
全体でみれば、敵の不安を煽るような手口も敵の数を減らす計画も実行できたし、当初の目的の達成はできたのではないかと思う。
上々の結果だったのではないかしら、なんて思いながら私たちは街を後にして引き続き街に残り市街戦をする公国兵に思いを馳せた。
「結局どのくらいの人数残ったのかしら?」
「さて。分かりかねますね。半数とは聞きましたが、思いのほか公国兵の数が減っていることを考えますと………」
私の呟きに周囲が難しい顔をする。
私たちはそれなりに安全な場所へ逃げ込ませてもらっていたらしいんだけど、公国兵も全員が全員安全な場租に隠れられていたわけではないらしい。
そのため帝国兵から奇襲されることもあり、それなりに痛手を受けていて数も減ってしまったのだとか。
そうした報告は受けていたけど予想以上にその減少量は大きく、正直驚いている。
そして、その減少量を考えれば残してきた兵士も意外と人数が少ない野ではないかなんて風にも思えてしまった。
「次も来ると想定して準備をしなければならないかしら?」
「そうですね。私たちが見えていたものと実際の全体の状況には大きな差があったのかもしれません。用心はしておくべきでしょう」
敵に損害を与えた。
それは間違いのない事だと思う。
しかし、こちらの受けた損害もまた大きい。そこから考えて次に敵がどう動くのかは分からない。
帝国の損害の大きさを重く見るのなら奪い返した街で一先ず満足するだろうし、こちらの損害の大きさをチャンスだと考えるのであればまた別の場所に責めてくる可能性も高い。
「時間をかければこちらが作る兵器の種類も数も増えると分かっているでしょうし、敵が焦らないと良いんだけど」
「まだ私たちの仕事がなくなるという事は考えにくそうですな」




