29.閉じ込められました
敵は穴に向かって集まってくるけど、ここで予想外なことに変化が起きた。
急いでいるからなのか突入を確実に成功させたいからなのかは知れないけど、一部の兵士が少し特殊な形の盾を上に掲げて近づいて来る。
「なるほど。あれが長距離射程の弓への対抗策なのね」
「盾と言うのがまた何とも普通だと思ってしまいますが、考えてみたことのないような形と大きさ。しかもあの構え方であることを考えますと、本来は全体でああして盾を構えることで上からの攻撃に対して完璧に対処できるようにすると言ったところなのでしょう」
「盾の規格を合わせておくことで天井のようなものを作れるようにするというわけね。さすがに投石機で攻撃されたら耐えられないでしょうけど、矢を完璧に防げるというのは良いわね」
始めえて見えた、対抗策と思われるもの。
数を使わずに済むこの方法は、私たちが取り入れるべきものだと思う。
「あの兵士たちは慌てるともっと手の内を見せてくれる可能性があるわね。前方の方に矢を放ちましょうか。焦らせるわよ」
「かしこまりました!」
帝国も全員が全員精神の強さを持っているわけではないみたい。さすがにこの大事な状況で矢を雨を降らされると焦りが出てしまったりするんでしょうね。
もしくは、自分よりも前にこちらは崩せているだろうという予想をしていたのに自分まで順番が回ってきてしまって焦ったか。
後者だとすればこちらの狙いは上手くハマったという事になるからいいんだけど。
そうして私たちは敵の観察と焦りを増やすことに夢中になりすぎていたのかもしれない。
だからこそ、いつの間にか近づいてきていた敵の攻城兵器に反応が遅れて、
「ぐえっ!?また隠れて敵が全体に突撃かける準備してやがった!」
「マズい!崩れるわよ!着地できるように準備を!」
私たちのところだけではない。全体的に攻城兵器が近づいてきていて、こちらの壁は大きく崩れることになる。
ただ公国兵は慣れたものと言った感じですぐに着地体勢に入り、王国の兵士たちも精鋭なだけは合って対応が早い。
そして、私はエルグがお姫様抱っこと言う形で抱えられる。
「ちょっと?」
「いいだろ?お嬢だって、さすがにこれができるほど身体能力は高くないんだから」
「いや、そうかもしれないけど」
文句は言うけど、言いたいことをすべて言い切る前に壁が崩れていく。
ふわりと体が浮く感覚はあるけど、抱えられている影響でそこまで恐怖はない。
エルグに安心させられるとかむかつくんだけど?
「……よっ、と」
私が腕の中でむかついている間に着地は完了。
でも、当然ながらこれで終わりと言うわけではない。
壁だったものの反対側にはもう帝国兵が大勢いるから。
「走れ!こっちだ!」
「隠れるぞ!」
「矢を放ちながら後退しろ!敵の装備は大したことないぞ!!」
逃げる必要がある。
エルグは何故か私を抱えたまま、王国兵と一緒に公国兵の誘導のものと避難していく。
本当はここで一気に街を抜けて別の都市まで行く予定だったんだけど、
「げっ!帝国兵が中央を通り抜けていますね。素直に逃げることは難しいですか」
「被害は受けてるみたいだけどお構い無しって感じね」
なんと帝国兵が先にそこを通り抜けて長い列を作っていた。
帝国は数を使って逃げ道をふさいだつもりなのかしら?
確かに逃げ道はふさがれたけど、これでは市街戦で戦う公国側の戦力が増えただけのような気がするんだけど。
実際、すでに相当な骸の山ができあがってしまっている。
侵入した帝国の戦力はかなり損害を受けた様子で、たまに公国側の兵士が奇襲を仕掛けると反応が遅れて反撃がなかなか間に合っていないようにも見える。
ただ代わりに逃がすわけにはいかないと追手を大量に送り込んでいるから仕留められる時には仕留められるのかもしれないけど…………
「ふむ。敵の今の対応は使えそうね。公国側の指揮官と連絡を取って上手く作戦に組み込めないかしら」
「でしたら、私が連絡をとれると思いますので伝達役になります」
「本当?それなら心強いわ」
近くにいた公国兵が幸いなことに指揮官と連絡を取り合えるそうなので調整をしてもらう。
その間に私は王国兵とも調整をして話し合っていくわけなんだけど、
「エルグ。いい加減おろしてもらって良いかしら」
「あっ…………すみません」
私をずっと抱きかかえていたエルグにジト目を送って下ろしてもらう。
もうすっかり私の状態になれてしまっていたみたいね。なぜ不自然に思わなかったのかしら?
なんて思いながら地面に足で立ってから全体を見回し、
「ん?エルグ?」
「っ!?」
違和感に気がつく。
あまりにもおかしい。
「エルグ、あなた足くじいたわね」
「…………すみません」
「あれだけ自分に任せておけみたいな顔をしておいて…………しかし、逆にそれなら敵が逃げ道をふさいでくれていて良かったわね。あのまま逃げていたら途中で限界が来ていたわ」
エルグの立ち方があまりにも不自然。
という事で指摘してみれば案の定だった。こんなことなら他の王国兵に手伝ってもらった方が良かったんじゃないかと思うんだけど、なんでエルグはわざわざ私の事を抱きかかえたんでしょうね?
もっと自分の実力ぐらいしっかり把握しておきなさいよ。
色々と言いたいことはあるけど、それ以上は口にしない。
今の状況で必要なものではないわけだし。せいぜいいうとしても、
「他の者は大丈夫?何か不調があるなら言いなさい」
これくらい。
さすがにエルグとは違って精鋭の集まりだから皆かすり傷程度なようで問題ないとのこと。
結局エルグだけが大気と言う話になって、私の考えた策もエルグ抜きのメンバーで行なわれることになる。
とは言っても、特に問題はないわね。
エルグがいないとできないようなことは特にないから。
公国の兵士とは割と仲良くなってるみたいだけど、今はそれが必要な状況でもないしおいて行くとしましょう。
幸いもう向こうとも連絡が取れたし、
「子爵。2分後に仕掛けるとのことです。ポイントは私が誘導しますのでついてきていただければ」
「分かったわ。逃げ道も確保できる?」
「問題ありません」
早速仕掛けられるタイミングがやってきた。
ただ、最初に何かやるのは私たちではない。
まずは中央にある大通りにいる敵に対して、それで仕切られた私たちとは反対にいる側の公国兵が敵に仕掛けていくことになる。
公国兵は数人だけど奇襲を仕掛ければ敵もまだ対応が間に合わず混乱することになり、
「敵は少数だ!逃がすなぁ!」
「逃げ道をふさげ!」
「隠れられる場所を押さえろ!!」
すぐに撤退する彼らを帝国兵が追っていく形。
逃げる公国兵は少数だけど、帝国兵の数は多数。
その部隊の8割程度だと思える程度の人数が追手になり、残りもほとんどが逃げて行った方向の監視に当たっている。
仕掛けてきた相手は徹底的に追い詰めてつぶすという帝国側の意図が感じられた。
しかし、
「背中ががら空きよ~」
「なっ!?」
「て、敵襲!背後からです!!」
「こ、こんな数の敵どこから!?」
逆に公国兵が攻めた方向とは反対側。
つまり私たち側の兵がものすごく薄くなる。
これは指揮官の不慣れによるものなのか、それともこちらの奇襲は少数でしか行われないという今までの経験則による行動なのか。
どちらかは分からないにしても明確な隙であるため、全体として修正が入るまでに利用させてもらった。
あっさりと指揮官らしき人間の首は取れたし、他の兵士が戻ってくる前に戻らせてもらえば追手も特になく簡単に逃げることが可能。
私たち以外にも他の地点で3か所ほど同じようなことをしていて、一気に敵が占拠していた部分の統制が緩くなる。
お陰でさらに奇襲が通りやすくなり、かなり大きな被害を出すことに成功した。
「さて、ここで帝国側も私たちの逃げ道を作ってくれるなら話は早いんだけど」
「今回の作戦はこちらの数が多いからこそですからね…………しかし、そううまくいくとは思えません」
「そうよねぇ。深く追い過ぎなければそれでいいとか思われそう」




