27.甘くない現実
私が兵を率いて1番防衛能力の高いところに接近し職人を誘拐してきた数日後。
失敗したら困ることではあったけど、公国の本体の方が目的の街の奪還に成功した。
そして現在その奪還した街の方に私たちはいて、
「いやぁ~。さすがですな子爵」
「都市の奪還ができたのも子爵のお陰です!」
「子爵様様ですな!」
「いえいえ。奪還は皆様のお力によるものですよ。私はただ運よく補助ができただけにすぎません」
またヨイショをされていた。
ただ、今回のヨイショに関しては割と本心によるものも多いのではないかと思う。何せ、現在この街には新たに作成できるようになった兵器の数々が送り込まれてきているのだから。
どうやらこの奪還した街はもう次に攻めて来られたら放棄するしかないという状況ではあるらしいけど、それでも今までよりも圧倒的に大きな損害を攻めてくる帝国兵に与えられる算段なんだとか。
それなら市街戦まで含めて考えれば敵も撤退にまで追い込めるのではないかと思えるかもしれないけど、さすがにそんなに甘い話はなく、
「それで、敵が大軍で攻めてくるというのは本当ですか?」
「ええ。間違いないかと。どうやらこちらの勢いを落とさせるつもりのようでして、今までの十倍の兵力で攻めてくるつもりだとか」
「と言いますと、何人くらいでしょう?」
「5万人、ですな」
敵兵5万。
大国が中小国に出すにしては大きすぎるその数字に、私は眩暈さえしてしまう。
これで街を守り切れるなんて主張する方がおかしいわよね。
最初に攻撃される地点は間違いなくここらしいから、すぐに放棄するつもりであるというのも当然の事。
「ならば今回やりたいことは、できるだけ敵兵をここで削って次をさせないこと、と言う認識で良いでしょうか?」
「ええ。物資でも人間でも、とにかく削って次に攻めて行けるような数ではなくさせる。それがここでのたたきの目的です」
装備は良くなっても、さすがに今までと変わりすぎた人数の差はどうしようもできない。
ただそれでもどうにか他の場所までその流れで奪われたりしないようにするというのが今回の目的。決して勝利は狙わないという事ね。
「食料さえ失わせることができれば兵数の維持は不可能になるとは思うのですが」
「おそらくそれは敵も理解しているでしょうし、物資方面にも相当な兵数を割いているはずですので無理でしょうな」
純粋に数で攻められるとこちらは弱い。
どうしても小細工だけでは対処しきれない物。
ここで広範囲に攻撃できるような兵器の事も情報を引き出せていたならばまだ希望は持てたのかもしれないけど、残念ながら今のところ効き出せたのは弓と鎧とクロスボウだけ。
まだまだ聞き出せてない情報も多いし、これに完璧に対応するというのは不可能に近い。
ということで、繰り返しになるけどこうなったら数をできるだけ減らしてみるしかないという事になり、
「久々に指揮する相手が少なくて心が軽くなったわ」
「ハハハッ!これでも一応大きな部隊ではあるのですけどねぇ。さすがに今まで経験したものとの差は大きすぎますか」
私は王国の兵だけに指示するという形で収まった。
しかも、装備は帝国から盗んだ最新のものではなく、一般的な弓。最新式に切り替えるにあたっていらない弓が大量に出るだろうという事を私は予想してそれをこちらに回してもらったの。
向こうはゴミを押し付けるみたいで申し訳ないとか言ってたけど、特に問題はないわね。
何せ、あまりそれが目立つことはなかったけど、これでも連れてきた兵は王国の中でも精鋭。
弓だって当然上手い人が多いから、使い慣れた物を持たせることによって活躍できるようにするというわけよ。
最新式なら確かに飛距離は出るし良い事もあるのでしょうけど、あまり練習の機関もこちらにはなかったから使い慣れたものの方が役に立てると思うわ。
「おぉ。あれが5万ですか。圧巻ですな」
「そうねぇ。王国ではあの規模の相手なんてしたくないわね」
私たちの視界に映り込み始める敵の大軍。
今までとは比べ物にならない規模で、それこそ私は初めて見たと言ってもいいような人数に内心圧倒される。
これで私が最新式の弓を持たされる弓兵だったりそれらをまとめる指揮官だったりしたのなら失神している可能性があるわ。
実際、周囲の公国兵の顔はかなり険しい。
特にそれは重要な役目を果たすことになるモノほどひどく、もう顔面に汗がダラダラと垂れていたり震えが見えていたりするものもいるわ。
弓の場合そんなことで大丈夫なのかと心配してしまうけど、それを見れば逆に私の焦りは少しだけ緩和される。隣で自分より焦ってる人がいれば逆に落ち着くってことね。
「さて。今回は観察の場になるわ」
「観察の場、ですか?それはいったいどのような?」
「私たちは初めて戦場で帝国式の装備を使用する。でも、当然ながら私たちと違って帝国側はその装備の事を良く知っているはずよ。だから、ここでそうした装備に対する対応策と言うものを見せてくれるはず」
「っ!なるほど!ここでそれを学び、次から帝国と戦う時に行かせるというわけですな!」
「そういう事よ。だから、しっかりと見ておきなさい。もちろん防衛には必死になってもらわないといけないけど、その中でどういう対処が嫌だったかはきっちりと覚えておくのよ」
ここで負けるのは必然。
しかし、そこの中で私たちは学ぶことができる。帝国の武装の大公の仕方を帝国から教えてもらうなんてまさに最高の学び方。これができれば、次の戦いから私たち、と言うか公国は帝国に対して野戦などがとても仕掛けやすくなる。
少しでも学べそうなところがあればじっくりと観察する。私はそういう意気込みで来た。
そしてそんな思惑は数十分後に公国側が矢を打ち始めたところから始まって、
「…………へぇ。なるほど。私の考えが甘かったわ」
「そのようですな。だからこその大軍、と言うわけですか」
対策を学ばせてもらう。そんな考えで私たちがいることなど最初から向こうも分かっていたのだとよく分かった。
そして今回大軍を連れてきた目的も何となく理解する。
恐ろしいことに、敵は逆に対策をしなかったの。
どれだけ矢の雨にさらされようが、どれだけ降ってくる石が直撃しようが。一切対策をせずに隊列を保ったまままっすぐにこちらへと向かってくる。
それはつまり、数の暴力。
敵はあえて数で押し切るというこちらにできない対策だけを見せて攻撃をし始めた。
ただ一応その中でも対策として分からなくもなかったものが、
「指揮官が非常に分かりにくくなってるわね」
「そうですな。あえてどうでもいいことを叫ぶものが所々に居ますし、それが指揮官と誤認されるための囮なのでしょう」
近づいて来る敵兵の中で、誰が指揮官なのかが分かりにくい。
その理由は単純に周囲に何かを言っていたり叫んでいたりする兵士が散見されるからであり、そうした理由で指揮官を見つけるという事が困難だから。
「こうなると全体に攻撃するしかないから、指揮官に攻撃が集中するというリスクは減らせる。考えは分からなくもないわね」
対策としては理解できる。
でも、真似はできない。これができるのは、圧倒的な人数差がある帝国だから。これと同じやり方をしても公国は兵を失い指揮官が残ったとしてもその指揮下で動かせる兵の数が非常に少なくなっている。それでは勝つことは難しい。
「子爵。そろそろ私たちも敵を射程内に入れることになります」
「あら。早いわね。さすがに射程の伸びた弓があると言えど、この数を処理するには数が足りなかったかしら」
「まさか数分でここまでこられてしまうとは思いませんでしたな」
よいお年を~




