24.アドバイザーみたいな?
しびれを切らして一部がこちらへと攻めてきた。
向こうは主に騎馬隊を中心としているみたいだから、こちらからすると悪い相手ではない。
射程の長い弓を持つ人間は少ないうえに、
「おい!走れ!言うことを聞け!!」
「なんでこんな穴に落ちるんだよ!」
これはある種の弊害と言うべきか。
突っ込んできた敵は、どうやら平坦な道しか知らずこうして穴だらけのところを馬で走るという経験は初めてみたい。
きっとこれを簡単に対処する道具と言うものを毎回使っているから穴に対する警戒度がそこまで高くなかったんでしょうね。簡単に埋められてしまうものだし、自分の馬なら簡単に突破できるとでも思ったのかもしれないわ。
「ハチの巣にしてやれ!」
「全身の毛を矢に変えてやるんだ!!」
「や、やめろっ!」
「走れ!走れよぉぉぉ!!!」
すぐに愚か者は消え、これのお陰で迂闊なことをする敵は減った。
目の前で味方がやられているわけだから無視もできないでしょうし、このままただこちらの様子を指をくわえて眺める事しかできないのでしょうね。
「どこまでやろうかしら?あえて一部は掘ってない地点を残すことで敵側の穴を埋める場所の把握を難しくできたりするかしら?」
「多少ではありますが嫌がらせにはなるでしょうな」
こうしたにらみ合いを、私たちは煙が完全に向こうから消えるまで続ける。
意外と数時間近く煙が上り続ける場所なんかもあったし、物資面で悪くない被害を出せたんじゃないかしら?
ただいい加減時間が経って日も暮れてくるころにはそうした煙も見えなくなり始めて、
「それでは、私たちは撤退しましょうか。どうせ近くにこっちへ戻る機会をうかがっている敵兵とかもいるでしょうから、そうしたものを見つけて処分しながら帰りましょうか」
これにて私たちの今日の主な活動は終了。
奪われた街を1つ取返し、ついでにどれだけの規模かは分からないけど敵の拠点に1つ損害を与えたというのは悪くない結果だったとは思うわ。
「ついでにいい加減指揮系統もどうにかしないと困るわ。公国の偉い方をお呼びできないかしら?」
「かしこまりました。使者の方を出しておきますが、おそらく上層部も報告はすでに受けているでしょうから使者が到着する前にこちらへやってくるかと」
「そうだと良いわね。私が指揮権を持っている間に問題が二度と起きないことを祈るわ」
こんなことを言っていたら本当にトラブルは起きそう。
そう思いはしたけど、翌日。
勝利(?)を祝ってほどほどに騒いでいると、非常に焦った様子の伝令から呼び出しを受け、
「まさか街を取り返してくれるとは!子爵には足を向けて寝られませんな!」
「すべては兵の皆様と、私の前に指揮をとられていた方のお陰です。あの方が敵の指揮官を打倒したことによって私が指揮をしても倒せるほどに帝国軍はまとまりがなくなったのですから」
本当に何もしないうちにお偉いさんが来た。
一緒にかなりの数の兵もつれてきていて、今この街は防衛能力がかなり高くなっているんじゃないかと思える。
ちなみに、私たちがいる場所は取り返した方の街よ。さすがに市街戦を担当していた兵士たちだけに任せるとまた帝国軍に侵入されてしまう恐れがあったから、ここで私たちは休憩を取らせてもらったわ。
他国の人間が勝手に兵士をまとめて指揮を執ったことは謝罪したけど、それは勝利したという事で許してもらえた。
それどころか、
「実は1番の激戦地でもどうにか敵の撃退に成功いたしまして、今帝国を食い止めることに成功しているのですよ」
「そうだったのですか?それはおめでとうございます…………と言ってもよろしいですか?」
「ええ。食い止めるだけで喜ぶことは悲しい事ではありますが、その言葉は素直に受け入れさせてもらいます。ただ、やはりこちらとしてもそれだけで終わるつもりがないというのもまた確かでしてなぁ」
「なるほど?何かやりたいことがある、と?」
「ええ。話が早くて助かりますな」
私にまた何か仕事が任されるらしい。しかも先日のような急な必要に駆られたものではなく、今回は依頼される正式なものとして。
ただ、その仕事内容はこの場では告げられない。
それどころか、
「お手伝いいただくことは間違いないと思うのですが、それをどこにするかと言うのは今はまだ決められておりません」
「へ?」
ということで。
私はその後お偉いさんに連れられて別の都市まで移動していくことになった。そこは公国の首都と言ってもいいような堅牢な守りの場所で、今まで見てきた中でも1番と言って良いほどの分厚く高い壁を持っている。
警備もかなり厳重な様子で同じ公国の兵士も念入りにチェックされていたけど、王国の人間はスルー。
滅茶苦茶歓待ムードで、チェックではなくサービス付きでお出迎えいただいてしまった。
そんな場所まで来て何をするのかと言えば、
「やはりここで我々は反転攻勢に出るべきだ!」
「まさに今が好機!帝国から領土を奪い返してやりましょう!」
「この時間を無駄にするというのはあり得ない選択ですな」
今後の軍の方針を決める幹部会議。これに参加することになった。
私を除いて出席している人間は55人。これが現在公国で軍のトップの方を占めている人達らしい。
元は100人いたけど、ここに来ていない人間は散っていったのだとか。
すでに到着したところではそれなりに議論が熱くなっていて、私の耳に聞こえてくるのは反転攻勢に出るべきだという声。
今すぐにでも帝国側が抑えている元公国領を取り返したい様子。
実際、今叩いて追い返すという公国にとっては初めてと言ってもいいような状況にできているらしいから悪い選択ではないと思うわ。
実力差があることは間違いないけど、ここで強めに叩いておくことで向こうも迂闊なことはしたくないと思ってくれるはず。特に今後帝国側が無理な侵攻をしようと言う気にはならないだろうから。公国が完全に侵略されるまでの時間をかなり先延ばしにできると思うの。
「あまりここで無理をし過ぎると逆に今後の守りが不安になりますからな。できれば、ほどほどの消耗で落とせるところが良い」
「それでしたら、向こうに取られたばかりの街があったはずでは?あそこならまだ向こうも街の構造を把握しきれていないでしょうし、場合によっては内部への侵入経路が残っている可能性も」
「なるほど!いいですな…………ああ。そうだ。しかし今まで耐えるだけだった我々が意見を言うだけでは何も変わらない可能性もありますな。という事で子爵。ぜひとも何かご意見をいただきたく」
おっと。私に来てしまった。
出来るだけ話を聞いて情報を集めようなんて思っていたんだけど、予想より早く話を振られたわ。本当はもっと情報を集めてからの方がこちらとしても提案などはしやすいんだけど。
「おお!子爵に話を聞かねば始まりませんな!」
「うむ。今回の立役者である子爵の意見をまずは聞くべきだったか」
「いやはや。これは愚かなことをしてしまったな」
「あら。私の意見にそこまでご期待頂いても困ってしまうのですが」
周囲からも完全に期待の眼差しを向けられているし、断れるような雰囲気ではない。
何かしら意見は言っておかないと周囲からの私に向けられる感情、更には王国に向けられる感情に影響を与えかねないから注意して発言しないといけないっていうのに。
「まず確認したいのですが、ここは絶対に攻めることはないという場所はありますか?主に、攻めても落としきれないといった理由で」
「ふむ。嘆かわしいことながら1つありますな。我々が1番長く持ちこたえていた防衛拠点があるのです。そこは攻めきれる気がしませんな」
「うぅむ。こちらの持ちうるすべての力を注ぎこんだだけに、我々の突破も難しくなってしまったな」
「ふむ。なるほど…………私も基本的な方針としては敵の防衛能力が低い場所に襲撃をかけるのは悪くない選択だと思います。攻撃に出る大半の兵はそこに差し向けてもいいでしょう。ただ、それとは別にその1番敵の防衛能力が高いところにも兵を向けたいという気持ちもあります」
「は?」
「し、子爵?」
お前正気か?という目で私が見られる。
そういう目をしたくなる気持ちはよく分かるわ。まるで無駄に命を捨ててこいと言われている様にも聞こえるでしょうからね。
だから私は何のためかを詳しく説明していく。
そうすれば一定の理解は得られて、
「では、子爵にその計画はお任せいたします!兵はできる限りつけますので、どうぞご自由にお使い下され!」
「子爵に責任は問いませんので安心して実行してください!失敗しても、敵に警戒はさせられるでしょうからな!」
こうなってしまった。
成功確率はそこまで高くない作戦だと思うんだけど、まさか私に押し付けられてしまうとは。
でも、自分で提案した以上私が1番作戦を理解していると言われると何も反論はできない。そのうえで何人かサポートの人員とそれなりの兵力も一緒に来ると言われれば、やる以外の選択肢なんて存在しないのよ。
ということで、数日後。
「あそこが1番に厄介な敵の拠点ですか」
「ええ。警戒して下され。壁の高さの影響で思いのほか矢などの射程は伸びますからな。特に風に乗るとかなり遠くまで届くもので」
「それはまた…………」
私たちは分厚く高い壁の前まで行き、それに圧倒されることになるのだった。
ここ、公国側が取り返すなんてできるのかしら?




