21.代理ですか?
野戦が決定してから数日。
ついに本番が来たわけだけど、事前情報として聞いていた通り敵の武装はかなり少なくなっていた。本当に広範囲に一方的に攻撃できるような兵器は1つもなく、弓を持つ敵も非常に少ない。特に射程の長い弓に関してはほとんど私の見える範囲には存在を確認できないわ。
だからこそここからは帝国兵との兵士の力を比べるところ。
お互いの兵の強さと、指揮官の能力の差が明確に出てくるはず。
そう思っていた矢先の事だった。
「子爵!しばらく中央の防衛はお任せします!」
「え?」
「皆の者!突撃だぁぁぁ!!!敵将の首を取るぞぉぉぉ!!!」
なんてこの戦場での総大将が敵将の隙を見つけたという事で突撃していった。
確かにそこには明確な隙があったけど、まさか総大将が自ら出ていくとは思わず驚愕。
ただそれだけのことをしただけの事はあるようで、敵の全体をまとめている指揮官ら式相はその首を取られた。
しかし、お返しとばかりに突撃していった公国兵に降り注ぐ矢の雨。それは帝国側が味方も気にせず降り注がせたもので、突撃した者達もろとも周辺言った一体に安全圏が消滅。
どうにか近くの兵士がカバーしようとはしたけど手が足りず、私のもとにはこちら側の総大将も討ち死にしたという報告が届いた。
お互い総大将を失った状況だから条件は同じなわけだけど、復帰の速度でこちらが勝てるかどうかは分からに。
副官も突撃について行ってしまったかナンバー2もこちらは失っていて、次に誰が指揮を引き受ければいいのか分からないのよ。
「全体に討ち死にの情報は回ってしまっているかしら?」
「いえ。まだ知る者はわずかのはずです」
「なら、まだ情報は伏せておいて。私が今は引き継ぐわ。その間に、次の引継ぎ候補を探しておいて」
「かしこまりました!」
苦肉の策として一時的に私が受け継ぐことにする。
もちろん、次に指揮をする人が見つかったら即座に指揮権は渡すつもりよ。他国でこんなことをしたら暴挙どころではないもの。
ただ今は、戦場が混乱しているからと言うことで勘弁してもらいましょう。
「まずは全体に、馬に乗ってる敵を狙うように指示しなさい。狙えるなら弓兵を狙ってもいいけど、難しければ馬を優先するのよ!!」
「かしこまりました。通達します!!」
ここで次の引継ぎ先を見つけるための時間稼ぎも兼ねて、私はあえて敵の弓兵から狙う先を変更する。
本当は射程も長くて厄介な弓兵を放置するのはマズいんだけど、逆にそれは敵も理解していて対応が上手いのよね。だからこそあえて、こちらが突破されるリスクを減らすために馬を狙わせてもらうわ。意外と騎馬兵が突撃してきて混乱するという事も多いような印象があるし、これが無くなるだけでもかなり安定はするようになるはず。
くわえて言えば馬に乗っている敵は割と地位の高い人間だったりすることも多いから、指揮の混乱をより狙えると思うの。
総大将が打ち取られたことを敵が認識しているのだとしたら、ここで自分に狙いが変更されたと感じた敵は危機感を強く感じるはず。
ならその中には、こちらに責められることを恐れて少し下がったり消極的になったりする者が現れてもおかしくはない。
「理想を言えば撤退していくものが出てくることで完全に崩壊させてしまいたいのだけど…………まだ難しそうね」
味方が総大将の喪失を認識しているのかは分からにけど、今のところ私の指示通りに動いてくれて敵の騎馬隊が目に見えて慌てていることが分かる。
近くの敵から攻撃されるという事はあっても、あまりこうして積極的に自分が狙われるという事は想定していないのでしょうね。目に見えてこちらに突撃してくる馬の数が減ったわ。
「でも、それは握手。作戦を立ててスペースを作ったうえで突撃するチャンスを待っているならともかく、ただ逃げて味方の中に入れてもらうという形にすると馬なんて邪魔になるだけよ」
馬は大きいうえに、人間ほど周囲への配慮もしてくれない。
だから、どうしても無理矢理陣形の中に入り込もうとすると周囲の兵士は移動することになったり影響を受けるの。
そしてそれこそが、隙になる。
「あなた達、正面が突破しやすそうに見えるけど突撃して弓兵まで食らいつけるかしら?」
「もちろんできますな。お任せ下され。ただ、御身の守りが減ることになりあますがよろしいので?」
「構わないわ。公国兵はある程度残ってもらうから、突撃に敵の目がいっている間は大丈夫でしょう。そっちが暴れ続けてくれればこちらは安全でいられるわ」
「左様ですか。それは頑張らなければなりませんな!」
ここで私が声をかけるのは、今までずっと私の周りで中央の防衛に参加していた王国兵。
丁度良く馬のお陰で向こうの陣形を崩しやすく成っているし、ここで上手く崩して突破できれば向こうの背後の弓兵へ牙をむくことができると思うの。
暫く押し合いタイミングを見て、丁度王国兵全体に突撃の用意の言葉が行き届いた辺りで、
「行くぞ!突撃ぃぃぃ!!!」
「「「「「ウオオオオオオォォォォォ!!!!!!」」」」
向こうは突撃で総大将がやられているためか、こちらから発せられる突撃の言葉に目に見えて怯んだ様子を見せる。
それで守れるほど王国の精鋭も弱くはなく、私の目論見通り敵の中央に大きな穴をあけて王国兵が突き進んでいく。
そのまま弓部隊に食らいつく様子がここからでも見えるほど、綺麗に突撃が刺さったわ。
これで敵の弓兵の数はより減らせるでしょう。
「綺麗に敵を中央で分断できたな」
「そうね。これは最初に突撃が成功したおかげだと思うわ。あの人がここに残ってくれていたらもっと楽だったと思うんだけど」
「それは確かにな。もっと敵将を打ち取ったことを大々的に宣言で来てただろう」
周囲から王国兵と公国側で位の高い人間がいなくなったためか、エルグが久々になめ腐った言葉遣いで声をかけてくる。
エルグの言う通り突撃によってできた空間で敵は2つに分断された。このまま公国軍の中央を前に押し進めさせれば分断を継続できるでしょうね。
やらないけど、そうしようとする素振りくらいは見せておきましょうか。
「周辺にすこしだけ前に進むように言っておいて。ただ、敵の部隊を2つ以上は超えないようにすること」
「かしこまりました!」
ここで私たちに分断されることを阻止しようと考えれば、敵は必然的に移動することが必要になる。
それは当然ながら、陣形の乱れにつながるわ。
そんなものを逃す王国軍の精鋭ではないでしょう。
「前から貫くことを防ごうとしても、後ろからの突貫に耐えられるような力はあるかしらね?」
突撃で穴をあけられるような敵が自分たちの後ろにいる、という事は近くの敵将なら理解しているはず。だから、さすがに同じような場所に突撃をかけても再度の突貫は難しいと思うわ。
でも、少し離れた場所なら別。
なんでかは分からないけど近くの兵が中央に寄っていくから自分たちも合わせないと、なんて思っているような状況の理解が足りていない指揮官ならば、後ろからの脅威に備えるにはあまりにもいろいろなものが足りない。
「分かりやすいくらい向こうから飛んでくる矢の量が減ったな。そろそろ戻ってきてもおかしくはないか?」
「そうね。受け入れられるように調整しておきましょうか」
そこまでうまくやって敵の陣形を崩して穴をあけても、戻ってくる時に公国側とぶつかりそうになってもたつくなんてことになったら目もあてられない。
だからこそここで私たちに必要になるのは、近くの指揮官と打ち合わせをして調整しておくこと。
「ちなみに、まだ任せられる指揮官は見つかってないのかしら?こういう調整とか、外様の私がやるよりも関係が深くて理解もある公国側の指揮官の方が簡単にやれると思うのだけど」
「あっ、そのぉ~…………いないわけではないのですが、もう少しお任せしたいと申しますか」
ここまでで結構な時間を私の指揮に使ったけど、それでもまだ交代はできないみたい。
このあっまだと最後の最後に交代して戦果だけを奪われることになったりするんじゃないかしら?




