20.もっと持ち上げろ
「いや~。さすがは子爵ですな!まさかあの帝国の足止めをここまでうまくやって頂けるとは!」
「王国から戦上手な方がいらっしゃるとは聞いておりましたが、よもやこれほどとは!」
「ふふふっ。お褒め頂き光栄ですが、私たちの行動から学習し作戦に取り入れられていらっしゃるのは兵士の皆さんですので。そちらの方が私などよりよほど活躍されているかと」
撤退後、次の防衛拠点となるらしい街に到着した数時間後には私がものすごく持ち上げられていた。どうやら王国側をヨイショする良い材料として私が行なった弓での牽制が選ばれたみたい。
嘘か本当かは知らないけど、公国側でも取り入れてより足止めの時間を長く、奇襲を通りやすくなったらしい。十中八九お世辞だとは思うけどね。
だから私は表面上喜んだ風にしながらお礼を言っておき、ついでに公国側を立てておく。
もちろんそれだけではなくもっと重要な方面にも目を向けて、
「今後私たちはどのように動けばよいのでしょうか?市街地での戦闘には参加しにくいように思うのですが」
「ふむ。それなのですが、あの市街地を突破してきた後の野戦に参加していただきたいのです」
「野戦、ですか?もちろんお断りはしませんが…………」
私たちの今後の予定に、少し問題を感じてしまう。
帝国の戦力を考えると、野戦で相手をして良いような敵だとは到底思えないの。もちろんそれをしないとジリ貧になるのは分かってるけど、あまりにも格が違い過ぎてまともな戦にできるとは思えない。
特に敵の弓は射程が長いみたいだから、接敵する前にかなりの被害を出してしまうのではないかと思うわ。
ただ、そうした懸念にも公国の人達は安心させるように応えてくれて、
「市街戦の後は、攻城兵器の類など敵の使える兵器と言うものは減るのです。市街戦で兵たちがそういったものは最優先で狙いますからな。さすがに弓はすべて失わせるという事はできませんが、それでも半分以上は毎回破壊や奪取が成功しています。ですので、そこまで戦力差が圧倒的とはならいのですよ。逆に、野戦ができるチャンスと言うのはそこしかないのです」
「なるほど。時間をかければ街の支配が進み兵器の製造も進んでしまうから、戦いが難しくなってしまうわけですか」
市街戦での被害を嫌がって、基本的に帝国軍は一度突破した街は占領する前に通過してしまうらしい。そして野戦などで近くの都市の兵士を抑え込んでから余計なちょっかいをあまり受けないようにして完全な制圧に乗り出すらしい。
だから、ここでの野戦によって私たちが撤退してきた街が完全に向こうの手に渡ってしまうかどうかという部分も決まってしまうらしい。
しかもこの野戦は、帝国側の戦力が大幅にダウンする。ここくらいしか野戦を仕掛けられるタイミングはないという見方もある。
だからこそ私たちにも参加してほしい、と言うわけね。
「かしこまりました。私たちの役割なども協議させていただけると」
「もちろんです。一応配置は中央の方になるとは思いますが、細かい役割などは話し合うと致しましょう」
まだ公国側の事を私たちは深く知らないし、公国側も私たちがどの程度戦えるなのか等は知らない。
だからここで情報を共有して、出来るだけ連携に問題が起きないように調整する必要がある。
という事で私や王国から派遣された軍の指揮官は公国側との協議を重ねて方針を決めていくことになるのだけど、
「なるほど。そりゃスゲェな!」
「でしょう?エルグ殿もどうせならこうしてみたり」
「いやいや。エルグ殿に似合うのはそんなものではないだろう」
「ハハハッ!俺も初めての事だからよく分かんねぇからとりあえず色々試してみる。意見をくれ」
「もちろんですとも!…………どうでしょう?もう少しお話を深めるのにあたり一緒に飲みに行くというのは?」
「おお!良いじゃねぇか!おススメの飲み屋を教えてくれよ!」
手持ち無沙汰なエルグは少し階級が低めの公国側の兵士たちと仲良くなって飲みに行く約束などをしていたわ。本当に戦いの前だというのに何をやっているのかしらね?
もちろん公国側の兵士との関係を良くしておくというのは悪い事ではないけど、それはこんな形ではないと思うのよね。
なんて思っていたら私の隣で協議していた王国の兵の指揮官が、
「すみませんな。そちらの飲み会、私も参加してよろしいですかな?」
「おお。もちろんだ!皆もいいよな!」
「もちろんです!」
「楽しくなりそうですねぇ!」
アンタもかぁぁ!!!
いつ戦いが始まるのかは知らないけど、戦いのときに二日酔いになるのだけは勘弁してほしいわ。
公国側の協議相手も何とも言えない顔をしているじゃない。
私に向かって困ったような笑みを向けてきた後に、私が頭を軽く下げるとそちらの盛り上がっている方に顔を向けて、
「よし!であれば、今日は私のおごりだ!良い店を紹介するから、皆楽しむと良い!」
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
「良いんですか!?」
「最高だぜぇぇぇ!!!!」
嘘でしょぉぉぉぉ!!!????
アンタもそっち側なの!?この周囲にもうちょっと戦争の方に集中できる人間はいないのかしら!?ここまでの人数が参加するとなると、もう完全にセッティングされた国の人間同士の会合みたいになるじゃない!
飲み会っぽいから私は参加したくないけど、そうも言ってられない雰囲気になってしまったわ。
と、思っていたら、
「お嬢様は作戦など考えることが多いでしょうから、お土産を沢山持って帰りますね。楽しみにしておいてください」
丁寧な言葉を話すちょっと変なエルグが私を制限してきやがったぁぁぁ!!!!
確かにいきたくはないけど、行かないとマズい物じゃない!なんでここで邪魔するのよ!!
……と、思ったけど、たぶんあれね。
私がいるといけないようなお店にみんなで行くつもりなんだわ。なんとなく考えが読めた気がする。
こいつらぶん殴ってやりたいわ。
「…………と言うわけで私たちは暇になったけど、何かあるかしら?」
「何か、ですか。難しいことをおっしゃいますね」
夜。やることがないならせっかくだしと使用人の子と話をすることにする。
私の無茶振りに困った顔をしてはいるけど、本格的に慌てているというわけではない。所詮は戯れだと思っているのでしょうね。
だからこそ出てくる話は無難なものとなり、
「子爵様はこの戦いをどのように見ておられるのですか?」
「この戦いと言うと、これから私たちが参加する戦いの事よね?それだったら、そこまで難しいことは考えていないわ。単純に、向こうの数と質がこちらの物を上回れるかどうかという程度の話だと思うわよ」
「数と質が上回るか、ですか。私は実際の戦場を見てはいないため何とも言えませんが、帝国の武装は段違いに質の良い物なんですよね?それでこちらを上回れないという事があるでしょうか?」
「ないとは言えないわよ。話によると物資の類を公国側は市街戦で積極的に狙っているらしいし、その結果次第では満足に質のいい武装を生き渡せることができない可能性だってある。さらにそこから人数が減っているのだとすると、こちらが勝つ可能性だってないとは言えないわよ」
「物資が潤沢にあるはずの市街地で物資を狙うんですか。少し無駄なようにも思えますが」
この子の懸念は、私たちが勝てるのかどうかという事でしょうね。もちろんその先にある、王国の危機と言うものも長期的な視点で考えているんじゃないかとは思うわ。
戦術的な話は無理でも、長期的な影響などはこの子と話せるかもしれないわ。
話し合って王国への影響が少なくなりそうな公国のあり方のようなものを探してみるとしましょうか。
そしてそんな無駄に壮大な木っ端貴族が考えるようなものではないことまで適当に語り合った数日後。
「そ、総司令官がお討ち死になさいました!!」
「え?これ、誰が軍の指揮を引き継ぐの?」
「そ、それが。先ほど副官の方も矢で射抜かれてしまいまして」
私たちの思い描いた道筋はものは完全に無駄なモノへと変わろうとしていた。




