19.撤退だぁ!
「弓の射程が圧倒的ね」
「あれでは迂闊に近づけませんな」
「あの投石機も問題です。攻撃範囲が広いだけでなく、射程も正確性も高い」
戦闘開始から数時間。
果敢に攻めてくる帝国兵に私たちは唖然としていた。
やはり1番感じるのは、装備の差。見覚えがある武器でもその性能が段違いで、まともに戦っても勝てる気がしない。
そしてそれだけの装備があっても兵の動きはそろっていて、人の質と言う面でも勝てそうにない。
もちろん雑兵に比べれば王国の主力部隊としても動いている今回私たちと一緒にいる兵士も腕はいいんだけど、帝国の主力部隊とみられるところはそれ以上の力がある。
一緒に帝国軍の動きを見ている指揮官もかなり表情を引きつらせているわ。
「分かりやすい弱点がありませんな。ここで我らが動いたところで、奇襲と呼べるものもできません」
「多少予想外の事をするくらいではどうにもならない力の差ではあるわね」
私も、エルグも、指揮官も、そして周囲にいる兵士たちも、敵の実力を確認できた。
ただその認識が今、私たちの枷となりそうになってしまっている。勝てると思えないんだから、恐怖してしまうというのも当然の事ね。
そして恐ろしいことに、その感じている力の差はより大きなものへとなり始める。
公国の兵も頑張って攻城兵器を優先して狙っていたわけだけど、あまりにもその数が多すぎるがゆえにすべてを破壊しきれなかった。
結果として1つの車輪の付いた何かが壁まで接近して、直後ゴッ!という何か鈍そうな音と共に、
「壁が、壁が崩れています!!」
「うそでしょ!?今の一撃で崩したの!?」
「これが攻城兵器ですか?恐ろしいですね」
強いとは聞いていた。でも、ここまでとは思わなかったわ。
まさかたったの一撃で壁を粉砕して見せるなんて誰が予想できたかしら。
まだ数人しか通れそうな隙間はできていないけど、逆に言えば敵の侵入経路ができ上がってしまった。
「今の兵器は破壊が完了したようですが、既に追加も来ていますし完全な崩壊も時間の問題でしょうな」
「敵が内側に入り込む以上そっちの対処にも人員は割かなきゃいけないし、苦しくなるわね」
あまりにも圧倒的。
それが初めて帝国との戦いを目撃した私の感想だった。
もしこれが王国にまでやってきたら、到底止めることなど今のままではできない。
「すみません、王国の皆様。そろそろここも撤退しないとマズい状況ですので移動の準備をお願いします」
「了解したわ。撤退はそちらの誘導に従えばいいかしら?」
「はい。案内はお任せください。避難経路は確保しておりますので」
私たちはただその圧倒的な力を目撃し、何もできないまま帰ることになるのだった。
何かしら敵の短所など見つけられるつもりでいたけど、予想外の結果になってしまった。それこそ、今回はさすがに街まで侵入されることはないだろうと正直油断していた。
撤退しながら当然私たちはこの圧倒的な戦力差のある帝国の事や今後の事が気になるわけで、
「これから兵士の皆さんは撤退しながら交戦を?」
「そうですね。すでに市民はほとんど非難が完了しておりますので、この都市の中で抗戦を続ける予定です。この戦いが、1番帝国兵を削るチャンスですので」
「市街戦が、ですか?」
「はい。そもそも、私たちはあの壁を突破されるという事は敵の攻城兵器の性能の問題からしても仕方のない事だと考えています。ですのであえて突破させ、とはいっても最大限壁は固くしているのですが、それでも突破されることは前提としたうえで市街戦に有利になるような街づくりをしているのです。さすがに帝国もなじみのない街で奇襲されればうまく反撃するというのも難しいようでして」
「なるほど」
壁を突破されることを前提として、1番被害を出しやすい街の中で戦うために計画を練る。
それはとても納得できる考え方ではあるけど、希望は持てないわね。何せ、それは自分の大きな被害を前提とした戦いなんだから。公国は街と言うものを失うばかりで、戦っても得るものが何もない。この戦い方をし続けたとしても、いつかはその市街戦を仕掛ける街が無くなって滅亡するだけよ。
ただ、そんなことは百も承知でしょう。
それでもこうすることしかできないんだから、帝国は強いとしか表現しようがないわね。
そしてここまでの説明をされて思うことは、
「私たちが援軍としてきて、できることがあるでしょうか?」
「子爵様と同じことを私も考えましたな。市街地での戦闘が基本的なものとなると、土地勘のない我々にできることなど正直かなり限られてしまうと思うのですが」
「そ、それはその…………きっと上官が何か考えているはずですので。末端の私には何とも言えません。しかし、きっと皆さまにしかできないことがあるでしょう!」
こうした反応をされると、本格的に私たちの存在価値が感じられなくなるわね。
でも、何もできませんでしたと尻尾を撒いて帰るのもまずい。
これだけの王国では有力な部隊を連れ出しておいて戦果なしなんて許されないと思うの。敵将の1人や2人倒していないなんて信じられないとされるんじゃないかとも思われるのよ。
代官が多少とりなしてくれたのだとはしても、陛下から私に対する印象はまだもしかすると悪いままな可能性もあるし油断なんてできないのよ。
だから、ここは功を焦るわけではないけど、
「少し私たちも攻撃に加われないかしら?」
「は?し、しかし、この土地で参加されるというのは先ほどもおっしゃられていたようにリスクが高いように思うのですが」
「分かっているわ。だから、あなた私の考えが通用するかどうか判断してもらいたいの。無理だというのなら諦めるから安心して」
「は、はぁ」
私は公国の兵士に思いついた策を告げる。それもできるだけ安全性を高めてなおかつ公国側の邪魔にならなさそうなものを。
ついてきた王国側の兵士には意味があるのかと言うような顔をされてしまうくらいには安全策なものを告げたのだけど、さすがにそこまでしただけのことは合って公国側の兵士にもゴーサインをもらう。
一応周辺の指揮を執る人にも内容は伝えてもらったうえで私たちは行動を開始し、それなりに広い通りに出る。
大通りで見通しも良く、敵影も発見しやすい。代わりに向こうからも発見されやすいというデメリットはあるのだけど、
「よし、ここだ!」
「な、なんだ!?」
「クッ!ここで弓を使ってくるのか!」
「おい!弓部隊呼んで来い!近づけないぞ!!」
敵は近づけない。
その理由は、敵がある程度公国の市街戦に慣れているからと言うものがあるわ。公国側が奇襲などで路地や物陰などから出てくる異常、基本的に弓を使う機会は少ない。もしあったとしても、短い距離で放つためのものを使うことが基本らしいの。
だから、私たちの帝国側の弓の射程には遠く及ばないような弓でも問題なく距離を保って安全に攻撃ができるというわけ。
しかも、慌てて弓を持ってこようとすればここで、
「余計なもので手がふさがっていると危険だぞぉ!」
「その首置いてけぇ!!!」
「クッ!やはり隠れていたか!」
「弓は一旦捨てしまえ!どうせ敵が混じれば矢も降っては来ない!!」
隠れていた公国側の兵士の奇襲が決まる。
普段の警戒している時と比べればある程度は弓などを運んだり私たちから逃れようとしたりする影響で隊列が崩れたり手がふさがっていたりする影響もあって対応が遅れるらしく、その場所では公国側が有利な展開が始まる。
「本当は支援したいところだけど、ここは撤退しましょうか」
「何とも悔しい限りですな」
ここで私たちが加勢すれば早く片付くとは思うんだけど、安全策をとる関係上撤退させてもらうことにする。
その後も同じように大通りで射程に入ってきた敵をチクチクと攻撃して奇襲が通りやすくするなどほんの少しだけ貢献して、私たちは街を去ることになった。
「次はもっと貢献できるように考えておかないといけないわね」
「難しいことをおっしゃる。しかし、それが必要なこともまた確かではありますがな」




