18.もうお仕事ですか
世界の馬車窓からこんにちは。
本日はピビカン公国の窓からの様子をお送りします。
堅牢そうな石造りの壁。
遠くに見えるとても大きなお城。…………以上。
「仕方がない話だけど、中の様子はさっぱり分からないわね」
「そうですね。どこから攻められてもおかしくはない、そしてどこまで後退させられてもおかしくはないという状況なのでしょう」
「地獄かしら?」
公国はそれだけ帝国の脅威にさらされているという事。
ちなみに現在見えている壁は、公国の中でもかなり西よりの場所にあるの。つまり、帝国のかなり近くという事ね。
さすがに我が国の近くの都市はここまでひどくはなく、そこまで壁も高くなかったりはする。
もちろん、その壁をいつでも高くできるような仕掛けはしているんだけどね?結構あの仕掛けは参考になる部分もあったから、できそうならこっちの国でも取り入れられないか、特に奇術公とかがまた襲ってきた時に防衛のため使えないか提案してみるつもりよ。
当然ながらそんな壁があるだけでなく、守りの方もかなり厳重になっていて、
「結構な列ができているわね。検査はかなり厳しいとは聞いていたけど、本当にかなりの時間かけてるみたいね」
「ムク様は王国の一員として正式に派遣されているわけですから問題なく通ることができるでしょうが、これは一般の人間には移動も大変なものと考えられますね」
その言葉の通り、他とは違って私たちはそこまで時間もかからず誘導され街の中へと入っていくことになる。
ちなみに、今私にそんな言葉をかけたのがメイドの子。
新しく裏切った伯爵の家からやってきた使用人の1人で、その中でも特に優秀だからと言う理由で今回連れてきたの。
スパイ疑惑があるから警戒した方が良いんじゃないかと思うかもしれないけど、私はそこまで心配していないわ。
何せ、現在身分を保証された状態で他国の様子を見ることができるようになっているんだもの。
私の命より、他国の、特に将来脅威になるとひねりつぶされてしまう可能性が高い帝国の情報はスパイならば確実に確保しておきたいはずよ。
なお、そんなメイドの子を私が視ると、
・隠蔽 83
こんな風なものが視えるわ。
なんだか不正してそうな内容よね。これで仕事ぶりは1番だというんだから、本当に私の目はあてにならないわ。
「帝国ここまで来るかしら?」
「どうでしょう?あくまでも同盟国の援軍ですし、あまり渦中に送り込まれるようなことはないと思われるのですが」
「そうよね。私も戦場に兵を割くために他の個所を穴埋めしたいから派遣されたんだと思ってるわ」
有能メイドなだけあって、家事とか関係ないところでもかなり話ができて個人的にはありがたい。
こうして仕事ができるという雰囲気の相手に私の考えと同じ様な言葉を言われると安心できるわ。
ただ、その安心がどこまでやっていい物なのかと言うところは気になるところではあるんだけどね。
確かに、援軍を激戦地に送るようなことはしないと思う。
どうせ援軍でそれなりの力はあるという事にはなっていても、実際にそこで戦うような人達との連携にも不安があるし相手とも戦い慣れていないんだから問題が起きるという事は間違いないはず。
それよりも戦い慣れた自国の兵を追加で送り込んで、そこが抜けた穴埋めを援軍に頼むほうが圧倒的に現実的。
だと思うんだけど、
「子爵。今よろしいでしょうか」
「良いわよ。何かしら?」
「現在帝国軍が接近中!至急援軍をお願いしたいとのことです!」
「…………分かったわ。全体に通達しておいて」
「ハッ!」
こういうことになるのよ。
嫌な予感がしていたとはいえ、到着直後にこうなるのは予想外だったわ。
去っていく伝令を見送りつつ私はその後やってくるエルグ(ついてきたけど頼れる部下がいないからあんまり役に立つ気がしない)と陛下からつけて貰った国軍の指揮官と話をして対応を協議する。
「帝国は私たちを手厚く歓迎してくれるみたいよ。ありがたい話だけど、休む暇がないというのもぜいたくな悩みね」
「カカカッ!子爵はさすがの自信ですな!しかし、この歓迎はなまった体を動かすにはちょうど良い物かと。歩くばかりでは戦いの勘が鈍ってしまいますからな!」
「そうはいっても、公国の軍と連携して動くというのは現状だと厳しいのでは?」
「ふむ。そうですな。役割に関しては公国側の軍とよく話し合った方が良いかもしれません」
「とはいっても、話し合う余裕があるかしら?」
幸いなことに、代官があの後話をシッカリとしてくれたようで私につけてもらえる兵士はかなり質が上がった。
最初に選ばれたところがかなりガラの悪い人達の集まるところだっただけに、これには本気で感謝したわ。
そして質が上がった分こうした緊急事態の対応も速い。
集まって30秒もしないうちに方針が決まったわ。
ちなみに、話し合いの中で1番面白かったのはエルグが珍しく硬い言葉で話していたところかしら?
「何かあった時のための逃げ道などもシッカリ確認しておいてね」
「もちろんですとも。もちろん、そんなものが必要ないようにはしておくつもりですがな」
土地勘がなさすぎるから、まず調べておきたいのは逃げ道。これを知らないと何かあった時に私たちが全滅しかねない。
もちろんその後あって状況の説明をしてもらう公国の指揮官にも逃げ道を含めて情報は収集しておくんだけどね。
ただあんまり時間をかけている暇がないようでその話は最小限。
当然ではあるんだけどその代わりに、
「敵は7000。こちらは4000です」
「人数差がかなりあるわね。私たちも700程度だし、人数差は圧倒的に不利。これは守り切る自信があるのかしら?」
「敵の取る攻め方次第と言ったところです。場合によっては一部を放棄して退却する必要もあるかと」
かなり大事な要素である人数差。
まずこれがかなり問題になってしまっている。防衛の方が有利と言う話はあるけど、それでももし野戦をすることになったらかなりつらいことになると思われる。
そして気になる要素は人数差だけではない。
「攻城兵器もかなりの者がそろっておりまして。近づかれるだけでもかなりのリスクがあります」
「なるほど。防衛線が必ずしも有利になるわけではないわけね」
有利と言うわけではない、と言う言い方には語弊があるかもしれない。正確に言えば、有利ではあるけど大した有利ではない、という事なのだと思うわ。
油断して壁の上にいたとしたら、崩されたり上に登ってこられたりしてまともに戦うこともできずにやられてしまうんじゃないかしら?
さきに攻城兵器のことを聞いておいてよかったわ。
「私たちは壁の上ではなく、別の部分で防衛に参加したほうがよさそうね。初めて戦う相手だからある程度観察できるようにしたいのだけど、何かいい場所はあるかしら?」
「壁の上が1番全体は視えますので分析するのであればそこにお一人くらいはいらっしゃった方が良いと思いますが…………そうですねぇ。少し離れた門の近くに敵が来ないように牽制する役割であれば被害は少ないと思われますが、いかがでしょう?」
「なるほど?では、それでお願いするわ」
国軍の方から1人優秀な分析官を出してもらって壁の上に登ってもらい、敵の上から見た動きを記録し分析してもらうことにする。
さらにそこに加えて少し遠くから私たちが観察をするという事をすれば、私たちは学習できるはず。慣れることはできなくても、相手の戦い方や動き方が未知のものではなくなるわ。
「向こうの攻城兵器とやら、見せてもらいましょうか」
「できるのなら支援くらいはしたいところですが………」
「あまり欲をかくものではないわよ。もちろん、できることがあるならやるけど」




