17.派遣貴族「私」
帳簿をごまかして避難民の作る街で出てくる問題(主に避難民の増加)に対処して、他領の問題に首を突っ込んで。使用人の数も増加させて。
それでもどうにか大きな問題はあらかた片付けて、戦争前にまた少し平穏な時間を取り戻せたかといった状況になった。
これでやっと朝と昼と夜3回のお茶の時間を取り戻せるわ。ついでに、夕方の読書の時間も作れるかもしれないわ。
そう思っていた矢先の事。
「お嬢様。大変です!王宮からの呼び出しが来ています!」
「…………は?」
前回呼び出された時は、報奨の受け渡しと尋問が目的だった。
ただ、今回はすでに報奨の受け取りは終わっている。前回よりも活躍したとは思うんだけど、さすがにそれだけでは呼び出されるほどの事にはならなかったようで物資と名誉のあるらしい勲章をもらうだけで終わってしまった。
勲章には軍事費などが一部国から補填してもらえるという特権もおまけでついてきてはいるんだけど、正直これの分も物資をもらった方が嬉しかったわ。
と、そういった形で思い出してみたけど私が呼び出されるような理由は思い浮かばない。
ただ行ってみると予想外の方向性に話は流れて行って、
「子爵は何でも戦上手だという話であると聞いた。であるから、公国への支援部隊の一員として公国まで行って増援として戦ってきてもらう」
「…………」
公国、と言っても良く分からないだろうから解説を入れておくわ。
まず、私たちがいつ場所がイエブ王国。
そしてこの国の東にあるのがアルーイジ王国。ここが私たちのよく争っている国で、規模は我が国と同じ程度。ちなみにここから予想できるかもしれないけど私たちは国の東側の方の領地を収めている貴族で、東方貴族なんて言われていたりもするわ。
そんな我が国の南には海があり比較的その周辺は平和。北側には少数民族の群衆地が点在していてそことの争いが頻発している。
そして 西側。ここが今回本題となる公国、ピビガン公国。
我が国の同盟国であり、
「最近帝国からの攻撃が激しくなっているようでな。こちらからも能力のある援軍を送る必要があるわけだ。期待しておるぞ」
その公国が接している帝国と言うものが、かなり頭の痛い問題。というか、これがいるから私たちは同盟を組んでいると言っても過言ではない。
公国もまた私たちの王国と同じくらい、それどころかもしかすると少し大きいのではないかと思うような領土を保有している。
ただ、帝国は残念ながらその比じゃない。
最低でも公国の5倍は国土を持っていて、と人の数も質も技術力もこちらとは比べ物にならない高さを誇っている。
そんな国が本気を出せば公国どころかこの王国も一緒に滅びかねないということでこちらも最大限支援はしているというわけ。
だから今回帝国が少し力を入れてきたというのなら援軍を出す必要があると考えることは理解できるんだけど、
「陛下。お待ちください。いつアルーイジがまた攻めてくるのか分かったものではないのですぞ?前回は物資に損害を出させて引かせましたが、それは裏を返せば物資さえ調達されてしまえばまた進行してくるという事。ここで力のある人間を引き抜かれれば国境の守りは弱くなってしまいます、突破されかねませんぞ?」
「ふむ。そうか?」
ここで私を守ってくれるのが、というか自分も影響を確実に受けるから止めようとするのが公爵様。さすがに私だけが陛下に面会するというのも問題があるため、一緒についてきてくれていたの。
ただこれで陛下は思うところがないわけではないようだけど、
「大丈夫であろう。向こうは何やら奇病で苦しんでおるのだろう?それが落ち着くまでは攻めて来ぬはずだ」
「確かにそれはそうですが」
ここで反論として出されたのが、隣国の奇病。
この情報は私も知っていたんだけど、これに関しては陛下より私の方が詳しい自信がある。
この奇病と言うのは前回の戦闘の後から向こうの国で問題になっているもので、そこまでひどくはないものの我慢できない程度の腹痛に襲われる人間が各地で出てきているらしいというものになる。
これが病気のせいだという事になっているわけね。
しかし、おそらくだけど実態は違う。
何でもこれは少し前に伯爵が思い出したように言っていたことなんだけど、どうやら敵の物資を燃やしたりするときに一部の物資には毒を仕込んだりとかしていたらしいのよね。しかもその毒は隣国で報告されている病気の内容と非常に酷似していて、その物資が出回ってしまったことが原因になっているだろうという結論も東方貴族の中では共通認識となっている。
奇術公がこれに対策しなかったことは不思議ではあるけど、逆にこれが私たちの油断を誘うための罠なのではないかなんて言う噂もあるくらい。
だからこそ、
「陛下。実は現在子爵は周囲に出ている避難民の受け入れなども積極的にされておりまして、いなくなられてしまいますと管理が行き届かなくなってしまう恐れがあるのです」
「何?そうなのか?それは知らなんだ」
陛下の言う言葉が嘘だとは不敬だから言えない。
そのために他の理由を探していく。戦力を減らさない。
今度の援護は公爵様ではなく、同じく私にくっついてきた代官。
代官の言葉には陛下が表情を変えて聞いていたから本当に覚えが良いんだという事は改めて時間しつつ、この時ばかりは代官に感謝する。
お気に入りの代官が言ってくれるなら、陛下も考え直してくれるでしょうと考えて。
「それならばこちらで支援しよう。援軍に参加してもらうならばこれくらいは当然やるとも」
「さ、さようですか。さすがは陛下。何とも慈悲深い」
はい。使えない。
そういえば代官は基本的に陛下をよいしょする人間だというのを忘れてたわ。ローレンからそうやって出世してきた人間だって聞いてたのに。
しかもここまで粘ったにもかかわらず、
「これは決定事項だから、変更はせんぞ。問題が起きたなら国がしっかりと動くから安心していってくると良い」
「…………陛下のお心のままに」
「うむ。兵の者もこちらから出すから、供回りだけで来るものは十分だ」
私はこれを承諾することしかできなかった。
なお、そうして頭を下げる直前で陛下が代官にウインクをしていたように見えたから、たぶん代官のためにやったことなんだという事も察することができたわ。
恐らく、中立派と言う派閥が出来上がったことを聞いての措置なのでしょうね。
自分のお気に入りに刃向かう人間はこうやって排除するというところを見せたつもりなのでしょう。
後から代官から直接的ではないけど謝罪と支援の約束をもらったから、陛下が勝手に暴走する形でやったことだという事も察することができる。
「ローレン。悪いけど連れて行く人間を厳選してもらえるかしら?」
「返し困りました。しかし、供回りだけでいいというのは何ともまた」
「そうよね。そこも頭が痛いわ」
ローレンに連れて行く人間を選んでもらうけど、そうせざるを得ない現状に頭を2人で抱える。
援軍として送るというのだから、当然ながら指揮官は指揮し慣れた配下を連れて行った方が良い。
しかし陛下はそれを理解していないはずがないにも関わらず私に兵を連れてこいとは言わず、逆に供回りだけを連れてこいと告げた。これは完全に、私に活躍させるつもりはないという意思表示でしょうね。
代官がこの後どう動くかによって対応はかなり変わってくるだろうけど、一応最悪を想定して動きましょう。
「指揮が上手くいかないならまだまし。帝国の強力な兵士と戦うことになるのだけは避けられるように祈るわ」
畜生ぉぉぉ!!!!
なんで私がこんなことに巻き込まれるのよ!!
どうせ中立派を見せしめにしたいなら、伯爵でも連れて行きなさいよ!あの目立ちたがり屋ならたぶんノリノリで参加するだろうからさぁぁぁぁ!!!!




