【8】女神の依頼
――――神明裁判と言うものを聞いたことがあるだろうか。古来この世界では女神へ裁きを問う神明裁判が行われた。
「人間たちが法というものを覚える前、神明裁判が行われてきた」
「ああ、そうだ。それは時に決闘、占い、盟神探湯、右ケ左。時には金や権力で買収したものなど」
地球で言えば被告人にあたるものが女神の名の元に正直者であるか、嘘を吐いていないかを問う。
「ええ。女神である私の名を使い人間たちが行ってきたものね」
「当然、許されるはずもない」
「だから人間たちは法と言うものを覚えたの。法を整備し、女神の名の元に嘘偽りないことを誓う。そして法に則り、判決を下すことを覚えたわ」
「ゆえに人間たちが構築した秩序の中で行うならば俺の範囲外だが……」
「そうも言ってられない事態なのよ。問題の国はタルティオス司法国。その名の通り司法を何よりも重視する国よ」
女神は実際の場所を指し示すように何もない空間に半透明の地図を広げる。魔帝国のまさに隣だな。
「何か臭う」
「そう言う国って裏があるもんだよね」
とソウとキナ。そうなのか?
「そうなのよね。本来は女神の名の元に嘘偽りないことを誓い、法に則って国を運営してきた」
女神の名の元に……か。本来の司法神の名を唱えることもなく、誓うか。それでも女神に誓うのならば好きにすりゃぁいい。俺の範囲外なのであれば……な。
「だけどあろうことか近年、私の名を使って神明裁判をしているようなの」
「はぁ?」
女神の名を騙るのならば俺の範囲内。裁きを下す対象となる。裁神の名も忘れてしまった国が知る由もないか。
「奴隷呪術の応用といい、神明裁判といいどうしてこうも神代の大罪が目を覚ましている」
「そうね。由々しき事態よ。奴隷呪術は奴隷魔法として残っているけれど、それを応用するのは恐らく神代の技術」
「その技術を掘り起こしたにしては俺には呪術返しをされるなど穴だらけだが」
「それともまたその領域に至ったのかしら」
「いや……それ以上のステータス改変などと言う禁忌にまで手を染めた」
「そうね」
「しかしそれでも神代は女神を崇めていた。女神を疎かにはしなかった」
「そうよ、だから女神の名を騙るのではなく、自ら法を整備することを覚えたのよ」
だと言うのに。
「けれどそれが今瓦解しようとしている。まずはこのタルティオスで何が起こっているかを探って欲しいのよ」
「分かった。俺とファウダーで行く」
ファウダーもいないよりはましだし。
「タツ、私たちも一緒じゃダメかな」
「そうだよタツ。せっかくまた一緒に暮らせるのに離れるなんて」
キナとソウが立ち上がる。
何このかわいい双子はっ!懐き度半端なくて俺、置いていけな……いやいやしかし。
「それは私も賛成だわ。ただでさえ女神の信仰が別のものに成り代わっているのよ。ファウダーは色々と混ざっているから別として」
やっぱりファウダーは別なのか。分かるけど。
「私の加護を持つ2人がアンタの側にいれば安定するし、私もサポートしやすくなるわ。それにレベル上げも頑張ってるんでしょ?なら活かさなきゃ」
レベルか。レベル9999の邪神の寵愛を受けていれば余程のことがなけりゃ傷付けられることもない。
――――が、この世界はどこまでもレベル概念がついて回るのも事実。
「レベルがもっと上がれば私のサポートも受けやすくなるわ」
「確かにな。正直言って女神の信仰が満ちているのといないのとでは大違いだ」
つまり神代にいくほど、女神への信仰が強いから、邪神としても動きやすかったのだ。人間たちは自分たちの信仰が自分たちが恐れる邪神の力になるとも知らずに崇めた。
端から見れば滑稽だが、端から見ればそれは【当たり前】でもある。俺たちは敵ではない。そして俺の役目と女神の信仰は決して道を分かつものではない。
――――全ては創世神の教えの元に女神と俺は在る。それは人間たちが邪神を恐れ【邪】としたが故の誤算なのである。
「分かった。連れていく」
「タツ!」
「ありがとう!」
息ピッタリにばふっと抱き付いてくるところは相変わらずだな。
うん、やっぱりソウとキナは……天使っ!
「じゃぁ早速行くとしても……行き先はタルティオスの女神神殿か?」
「それもアリだけど……いいえ、あそこはエーデルシュタイン王国の神殿よりもひどいわ。あそこの主は完全に私ではなくなってしまったの」
女神のための神殿の主が……か?信じられない蛮行が行われている。
「でもここからなら行くことも平気でしょ?」
女神が指差したとりわけ領土の大きな国。
「まずこの国から行くの?」
キナが告げる。
「いや、もういるよ」
「どういうこと?」
「……そう言えば言ってなかったか……?この邪神の主神殿はこの魔帝国にある。魔族が治める国でタルティオス司法国と国境を接している」
「魔族っているんだ」
「そりゃぁな……?」
キナの呟きにくすりと笑む。何せ魔族は俺の信徒の代表格である。
しかしキナが俺を見上げてくるのは。ヤバいその角度超かわいい。
「キナちゃんのかわいさに浸るのもいいけど、分かるけど問いには答えなさいよ?」
分かってるよ、女神め。
「魔族は神代の後、この世界で古代と呼ばれる頃に人間により産み出された」
「人間が魔族を産み出したの?」
今度はソウが俺を見上げて問うてくる。ヤバいその角度……。
「またかいっ」
女神がツッコんできた。
「そうそう。でも人間には制御しきれず、彼らはひとつの種族【魔族】として人間たちの敵になった」
「さらには人間が産み出してしまったがゆえに創造主である私の範疇から外れてしまったのよ」
「だから彼らにはギフトが届かなかった」
「それも人間たちには都合がよく、ギフトを持たない=女神への翻意と見なされ虐殺の対象となったのよ」
「さらに皮肉なことに女神が人間たちの繁栄と進化のために与えた勇者や聖女と言う特殊ジョブにより討伐と言う名の虐殺が行われたんだ」
加護を与えた女神としては耐えがたき負の歴史。
「そして魔族たちも生き残りをかけ、進化した」
元は人間をベースにしているから進化の象徴を受け継いだ。
「進化した魔族たちを導いたのが初代魔帝国主。そして魔王のジョブを持つもの」
つまりこの世界に於ける魔王討伐とは虐殺の延長線上にある。
それまでは邪神討伐が一般的で、およそ100年前にも行われたことがある。転生しつつも勇者のジョブを再び持ったファウダーを邪神討伐に行かせたり……とかな。
まぁ、今じゃ初代の記憶も復活して完全な邪神狂と成り果てたが。
「魔族は珍しく邪神を信仰している」
人間になれなかった……いやその【間】から追い出された魔族の拠り所はそこしかなかったからだ。
「創世神は人間の括りから弾き出された魔族をこの世界の住民には代わりないとした。そして邪神にもギフトを授けられる特性を利用し、人間ではなくなった彼らにギフトを授ける役目を追加で与えたんだ」
女神が最初に創世神から賜ったギフトを授ける役目はあくまでも【人間に】授けることを定めたものだったからだ。
「魔族のひとたちにはタツがギフトを授けてるんだ。じゃぁタツの味方ってこと……?」
「そうだ」
キナの言葉に頷く。
「神殿の神官さんたちだったよね。角が生えたひともいたよ」
と、ソウ。
「あぁ、あれが魔族。いや、そいつは俺の眷属でもあるから純粋な魔族ではないが」
魔族が元となっていることは確かだ。
「しかし女神。タルティオスに乗り込むとしても隣国だから魔神たちが何か知っているかもな」
「また新しいワードが出てきた。明らかにヤバそうだけど」
とキナ。そうか?邪神が一番ヤバいと思うが。
「魔神は邪神とは違うの?」
続いてソウが問うてくる。まぁその疑問も分からなくはない。
「魔神は俺の部下みたいなもん。眷属でもあるが正確には眷属神と言う」
そうじゃなきゃ数年とは言え地球に渡ることは困難だっただろうな。
「女神さまみたいな姉弟とは違うの?」
「違うな。魔神たちは魔族から信仰されたり、俺が特別に引き抜いたりして俺の眷属として迎えられたから眷属神となった」
人間が人間を人間ではないものにするのは創世神の教えに反する。しかし俺たちが推薦し、創世神が神として召し上げることがある。俺たちは神だからそれが許される。そして眷属とすることもだ。
「神には創世神から生まれた神と、信仰を集めて神として召しあげられるのがいるんだ」
まあ認められなければ俺が裁くことになるが、それは置いておいて。
「魔神は俺の眷属神。俺が推薦し、彼らも望んで神となった」
「そうね。そしてタツキが管理することでこの世界のためにもなっている」
「女神さま、それは……?」
キナが女神を見る。
「世界にはどんなに管理しようが、健全に運用しようが、時に異物と言うものが生じるの」
そう言う面で言えば奴隷呪術やステータス改変もそうだが、ここで女神が言っているのはもっと別の大きな勢力。そう……。
「時に世界の脅威となるものが生まれる。それが人間たちが産み出してしまったものの成れの果てよ」
「魔族の中の魔王のジョブを持つにあたいするもの。または魔王や……それ以上に神にも匹敵せんとされたものだな」
「そうね。でも脅威や異物とされながらも彼らはこの世界で邪神と呼ばれるタツキへの信仰を捧げることで救いを乞うたのよ」
信仰は時に救いとなる。
人間から産み出され捨てられたが、創世神からこの世界で生きることを許されたものへの救い。人間たちが邪神の裁きに対して女神に縋ったように。
「私にはどうしても担えない部分をタツキが担っているのよ」
「そう言うこったな。だから……まぁ久々に還って来たわけだし、情報収集がてら早速喚ぶか」
タルティオスに行くにしてもまずはそこからだ。




