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【7】【番外編】邪神狂



――――side


闇の中にコポコポと毒の沼が沸き立つ。


その沼はかつて偽りの神の名の元に捧げられた贄を引きずり込んできたもの。


「ああ……懐かしい」

沼の中から無数の毒蛇を沸き立たせ、纏いながらもすっくと身を伸ばすのは、上半身は人間のようにも見えるが異形のものだ。頭に角を生やし、背からは無数の毒蛇を沸き立たせる。


下半身は蛇体で、沼に沈み込む巨大な尾で毒の沼をかき混ぜる。


「あなたの気を感じる。あなたの闇を……力を」

毒の沼のヌシはニタァァッと口角を吊り上げれば、人間の口から蛇の舌を這いずりだし、唇からはみ出る牙から毒液を滴らせ……叫ぶ。


「あぁ……邪神さま、邪神さま、邪神さまぁ……っ!邪神さまが還って来た……邪神さまの探湯沼(くがえ)が波打っている。あぁ……気持ちいい……邪神さまぁ……っ」

その狂喜に満ちたさまをひとりの少女が見据えている。まるで透明に近い銀髪の隙間からは沼のヌシと同じ赤い双眸が覗いている。

そして静かに口を開くと反響しながら沼のヌシの元へと届く。


「シュランガル。邪神さまと探湯沼(くがえ)を共有したのね」

「ああ……姉さん。何たって十何年ぶりの味だろう?創世神からの役目を終えて帰ってこられた」

「ええ。世界に邪神さまの気が沸き立つ。闇が沸き立つ。それはとても心地のよいこと」


「そう……そうだ。だからあぁ……邪神さまぁ……早く喚んで……?私たちを……」

「ええ。喚ばれればすぐにでも馳せ参じましょう」

「もちろんだ」


「ふふっ。どうやらみんなそのつもりのようね」

少女は沸き立つ黒蛇を見、微笑む。


「この世界にご帰還された途端、早速お役目に行ってしまわれたけど……」

「少し寂しいな……しかし、寵愛児か」

「ええ。驚いたわ。邪神さまが連れてこられた。でもシュランガル。手を出してはダメよ」

「……」


「邪神さまは大切なものには目がないの。私たちもよく知っているでしょう?」

「……ふん。それは知っている」


「とても甘美な煮えたぎる邪神さまの探湯沼(くがえ)からクガタチが放たれるのを感じたもの。それと同時に愛しげに寵愛児を抱き締めた」

「俺も見た。ここから」

「ええ。そしてこっそり覗いていた私たちのことも。私とお揃いの、邪神さまの手足、そして、目が、私たちを見た」


「震えるほどに神々しい。……あぁ……愛おしい邪神さま」

「その通りだわ。だからシュランガル。あなたはいいこなのだから、邪神さまが喚ぶまで待てるわね……?」

姉と呼ばれた少女が語りかければ、シュランガルがくわりと白目が反転した眼で少女を見やり……そしてその身に宿す残虐で残忍な笑みを向ける。


「あぁ……邪神さまぁ……っ!キャハハハハハハッ、あぁ、あぁ……っ、アギャギャギャッ、あぁ……憎い……食らう……食い殺したい……絞め殺したいいいぃぃっ!!!あぁ、そうだねぇ……早く……早く贄をちょぉだい……邪神サまァあアぁァァっ!!!アハハハハはハッ!!!」

沸き立つ毒の沼からは確かにシュランガルひとりの笑い声が響くが、その声はいくつもの魂を帯びているように思える。


「みーんな、楽しみにしてるわね」

そうやってひとつにされた彼女たちにはもう、主の邪神しかいないのだから。


少女はその毒の沼の様子を遠くから静かに見据える。ただ彼女らの敬愛する主が喚ぶその時まで。


「邪神さま……」

そして敬愛し、心酔してならない主を呼ぶ。


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