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召喚されたら最強の邪神だったんだが  作者: 夕凪 瓊紗.com
エーデルシュタイン王国
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【5】女神の慈悲



探湯沼(くがえ)に呑まれればその咎を背負い排出される。足元に収縮した探湯沼(くがえ)からはクガタチがふよふよと伸びるだけである。


地球にいた頃にも出ていたけれど、やはり少し出ていないと落ち着かない。


「んーっと、色々と聞きたいことはあるだろう。ソウ、キナ」

ソウとキナもこくんと頷く。


「俺は元々この世界で邪神と呼ばれる生き神であるがゆえ、不老不死だ。この世界に戻ってきた余波なのか、木っ端微塵になったがこうして蘇ったから安心しろ」

「うん、分かった」

さすがはソウ。ものわかりが良すぎて俺ぁ心配だ。


「あ、そう言えばタツ、もうひとつ気になってるんだけど」

「ん?どうした、ソウ」


「そのファウダーってひと……勇者なの?」

ソウがファウダーを見やる。


「あぁ、そうだ」

即答する真面目な顔のファウダー。


「さっきと同じひと?」

「残念ながら、同一人物だ」

うんうん、と頷けば。

「別に……最初からと言うわけじゃない」

ファウダーが呟く。お前もまだ覚えているのか。それは神代の初代勇者だったころか、もしくはパーティーに見捨てられて生け贄にされる前の勇者だったころか。

――――いや、どちらもか……?

お前は壊れる前は正常で、どこか物足りない顔をしていた。


「それよりも女神ではないのか?」

「それもそうだ」

どうしてこうも女神の力が行き渡っていない……?


ファウダーは別として女神の加護を得る召喚者が2人。クガタチで正確に探れる範囲も増えた。


怪しいのは……。


「ファウダー、ここはエーデルシュタイン城の中だろうか」

「今さら……?もちろんそうだが」


「城の構造はそうは変わらんだろう?」

「神代からは変わっているが」


「お前が前にいた頃だ」

「そこまでの予算はなかろう。浪費家もいたようだし」

エーデルシュタインのファミリーネームを持つ大聖女がいたのだから。


「ではここはどこだ」

ファウダーの眉間に指を当て、クガタチの目を共有する。コイツは眷属だからこう言うこともできる。意思も共有できるがコイツとはなるべくやめたい。理由は言わずもがなである。


「玉座の間」

「ほう……?」

「つまりは国ぐるみだろうかねぇ」

女神の主神殿を抱え、女神の召喚が行われる地と言う栄誉を賜った王国だと言うのに。

しかし歴史は繰り返されるものだ。そしてファウダーは二度も当事者となった。

しかしこれ程ではなかった。少なくとも女神の力が弱まることなどなかった。


「ここに女神の力を阻害するものがある。再び行くか」

探湯沼(くがえ)が俺たちの足元に広がり、とぷんと中に沈ませてくる。


「玉座の間はこの城の一端以上に魔法の守りが堅固だぞ」

「そんなもの俺に効くか」

「そうだった」

うむ、ファウダーも納得したようだ。神の力は魔法の理の外にある。


「タツ、これってさっきの」

「あの……沈んで……っ」

キナはともかく、ソウは初めてだったな。2人を引き寄せると、また移動する探湯沼(くがえ)の中にとぷんと浸り込む。因みにファウダーは勝手に着いてくるので……放置だ。


『……イタイ』

『……タスケテ……』

『メガミ、サマ……』


女神を遠ざける礎にされた身で女神を喚ぶことなどできない。それでもなお女神を求めるか。しかもそこは俺の領分だ。


「まぁいい」

こう言うのを地球では姉孝行と言うのだろう?そして探湯沼(くがえ)の目指す先から伸ばしたクガタチが拾う声が大きくなってくる。


『しかし……良いのか……こんな、召喚者たちを……』

『当然です陛下!大聖女さまは女神さまの化身!全ては女神さまの思し召しなのですから……!』


「女神の名を騙るか」

その瞬間、湧き出した探湯沼(くがえ)からクガタチが咎人たちを呑み込んでいく。


「思い思いに引きずり込んでいるがいいのか?」

「裁く以上はその罪は把握しているから安心しろ、ファウダー」


「何が起こってるの……?」

キナがキョロキョロと辺りを見回す。広大な玉座の間は探湯沼(くがえ)に満ちている。


「あの沈んでるのは引っ張り出した方がいい?」

と、ソウ。こんなの見ても平気そうにしてるのは本当に順応性が高すぎる。


「やめとけ、やめとけ」

触れさせることはないが、非推奨だ。


「遊びたいのであれば、遊ぶか?ひ……ヒヒヒヒヒッ」

ファウダーが再び顔をぐにゃりと歪ませる。そういやコイツ……たまに探湯沼(くがえ)に沈む咎人に悪戯仕掛けてたな。探湯沼(くがえ)の中で罪を量られている間は死なないようにできてるから。

放出された後は罪を贖うまで呪毒の苦しみは続く。それがたとえ魂になっても……。――――とは言え。


「こら、ソウに不健全なもの見せてんじゃねぇ!とにかくてめぇはここでキナたち見てろ」

まぁ探湯沼(くがえ)の中である。探湯沼(くがえ)全体がクガタチと同じく俺の手足であり目。2人に手は出させんが。


「タツはどこ行くの……?」

「女神のために出る杭を抜いてくる」

「杭を……?」

「そ」


キナに笑いかければサッと身を翻し、奇妙で気持ち悪い感覚の源流を目指す。


――――遠い遠い、この異世界が神代と呼ばれていた頃。

人間は罪を犯した。


創世神の定めたこの世界のあるべき姿に反するものを産み出した。


それが奴隷魔法。


今でさえ魔法と呼ばれているが神代には呪術と呼ばれた。人間を人間ではないものにする呪術。


それは人間が神の領域を侵した……進化の一端である。


「未だに受け継がれているとは驚きだが、こんな手法があるとは驚いた」

玉座の間の玉座の裏。そこに刻まれた封印など意味を成さない。


「呪いで縛る、人間の杭」


しかし人間ではない【奴隷】だからこそ彼ら彼女らは人間ではない。それゆえにこの世界の住民が持つギフトを奪い、女神の力を封じる呪いを敷いた。


「そして彼ら彼女らの主導権を握ることでステータスを改変する方法をも編み出した……禁忌の術だな」

人間が編み出した呪術は確かに人間を人間ではないものにした。


だがしかし、神にかなうわけではない。


「神のレベルは9999までしか量れんが、せめて9999まで上げてこい」

首に刻まれた呪術印を弾くように引きちぎる。引きちぎったものは術者に返るが、知ったことではない。呪術の返った先をクガタチが追い、見せてくる。


「どうやら現世の術者は呪術返し対策の術を完全に忘れてしまったらしいなぁっ!?」

まぁ俺が呪術印を跳ね返して遊んでいたから神代の彼らは対策を覚えたがなぁ。


「だが忘れるのも当然か。魔法に呪術返しもそれをガードする呪術もありゃぁしない」


――――だから再び選択肢を与えよう。


【選ぶがいい】


【女神の元に戻るか、それとも邪神の元に下るか】


人間に戻るか、それとも人間の身で信徒となるか?もしくは邪神神殿のものたちのように眷属となるか。

クガタチはひとではないものの声すら拾う。人間を人間ではないものにしたのは人間だが、彼ら彼女らは元は創世神が人間としてこの世界の住民と認めたものだから。


「……」

女神に翻意を示す呪術の材料とされたのに、彼ら彼女らはそれでもなお、女神を求めるんだな。


【後は私に任せるといいわ!】

突如勝ち気な声が脳裏に響く。


「ではそう言うことで」

探湯沼(くがえ)は再び玉座の間に浮上する。そして戻った玉座の間には金色の髪を靡かせる女神と共に女神の信徒に戻された人間たちが目を覚ましていた。


――――しかしながら。


「おーい、ファウダー。お前は一体何してんの」

既に罪を量り終えた探湯沼(くがえ)は咎を負ったものたちを排出していたはずなのだが……明らかに身なりのいい男2人を重ねてその上に腰を下ろすファウダーがいた。因みにキナとソウは俺が帰ってきたことにパタパタと駆け寄ってきた。ほんとかわいいやつらだなぁ。


そしてファウダーの下の2人をみればもちろん呪毒まみれである。あの呪毒から解放されるまでどんだけかかるんかねぇ……?


「え?……やっぱり積年の怨み故のいたぶって悲鳴を聞いて鼻唄を歌いながら高笑いしたい衝動?」

それは神代からのか?それとも転生してからか……?


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