【39】【番外編】蛇論争
――――その日、事件は起きた。
「ちょっと……抜け駆けはナシですよ。リック」
「抜け駆けも何も、おめーの方が独占してんだろぉがっ!シュランガル!」
「ちょ……喧嘩はやめてよ」
ソウが額を突き合わせてシャーッし合う情けない魔神ふたりを止めようとしていた。
「……んで?」
眷属がささっと用意した椅子に腰掛け脚を組めば、忠実なかわいい蛇たちが纏わり付いてくる。
「リックがソウに魔法指南してたんじゃないのかよ」
ファウダーに基礎を教わったその後、リックが立候補して本格的な魔法を教えていたはずだ。
因みにキナはアリーシャに個人指導を受けており、ふたりともめきめき魔法の腕を上げていたはずだ。
「その、だって」
俺の脚をぐいと抱き寄せながらリックが俺を見上げ背中の白蛇を俺の腕に這わしてくる。
「蛇と言えば私の方です!」
こっちはこっちで何故か俺のブーツを脱がしてくる。お前は俺の足の指でも舐める気か?聞けば本当に舐めてくるので言わんが、対抗するように黒い毒蛇を俺の首もとに這わせてくる。
「俺だって蛇の部分がある!」
「中途半端!」
「蛇は蛇じゃん沼つき!」
「それが何です!タツキさまとお揃いですよ!」
「それ持ち出すのずりぃぞ!」
コイツらしょーっもないことで喧嘩してない?
「タツキさまとソウにとっての一番の蛇は私です!」
「いいや俺だ!」
ほら、最高にしょうもない。
「わぁ、いいなぁ。俺も肩に蛇かけたい」
しかしソウはふたりのしょうもない言い争いを気にも止めず俺を羨望の目で見てくる。さすがは俺の半身はそうじゃなくっちゃな。
「おら、お前ら。だってよ」
「なら俺がっ」
「私です!」
「それじゃぁふたりとも一匹ずつかけて」
『え?』
シュランガルとリックはそれぞれソウの隣に仲良く並びソウの肩に蛇をかけることになった。
「わぁ、すごーい!こう言うの地球のテレビで見たことあるけど憧れだったんだー!」
それよりも俺はその左右で項垂れる蛇2柱が面白くて堪らないんだけど。クツクツとついつい苦笑を漏らす。
「それに白と黒、カッコいいなぁ」
「……はっ、黒の方がカッコいいですよね!?」
「いいや白だろ!」
「黒!」
「白ぉっ!」
またしょーっもない争いが再燃したんだが。
「もうふたりとも、仲良く!」
『はい……』
だから何でふたりして完全屈服してんだよ。
「あっはっはっはっはっ」
「笑わないでくださいタツキさま!おみ足を舐めますので!」
「ずりぃぞシュランガル!じゃぁ俺はふくらはぎを……っ」
「なら私は太ももです!」
「タツキさま!」
「タツキさま!」
『脱いでください!!!』
何を、どこまでだ。
さすがにクガタチでふたりの頭に拳骨を落とす。
「ほら、ソウが困ってんだろ。仲直り。しないならヴォレルとフローナにお仕置きを考えてもらう!」
俺のお仕置きだと喜ぶからな、コイツらは。
『すみませんでした』
「分かったのならよし」
ふたりが完全屈服したところで。
「今日のブレンドはお前らふたりでいれるように」
「主のためなら」
「ううー……コイツのと合わさるのは嫌だがタツキさまが喜ぶなら」
ふたりは蛇の毒を牙の付け根から絞りコーヒーカップに注いでいく。
「タツ、相変わらずあれ飲むの?」
「結構美味だぞ?あのふたりのブレンド」
「俺はミルクティーでいいや。キナも誘って厨房でもらってくる」
「ああ、行ってきな」
そうして俺は搾りたての特製ブレンドを口にする。
「んー、なかなかいいな、このブレンド」
「はぁはぁ……主の仰せのままに」
「ふぐぅっ」
当の本神たちは不満げだったが。
――――世界は今日も平穏で、女神への信仰の力が満ちている。
【完】




