【37】邪神の花嫁
――――偽物……いや偽物でもなんでもない。今度こそほかの誰でもない『彼女』として生きていく魂を見送って、俺たちは帰路に着いた。
ソウは不思議な感覚で迷子になりそうになりながらも俺にピッタリとくっついている。
「ほら、ちゃんと俺がいるから」
クガタチもサポートするように半身に寄り添う。
「うん」
その様子を見てもほかの眷属神たちも反対はしまい。俺たちは元々ひとつの存在だったのだから。
「まぁ女神のギフトと加護も生身にそのままくっついているが……別にいいか。どうせファウダーもだ」
ファウダーを見れば特に気にせずソファーに腰掛け呑気に寝てるし。
「しかし……ジョブが神凪と言うのは……賢者の元となったジョブ名だ」
「だから魔法も上手くなったんだね。ちょっとピンと来てなかったけど」
「はは、そうか?」
しかしその語源がそもそも神を鎮めるものと言うところは、敢えて賢者としなかった女神からのなんとも言えない圧を感じる。しかしそれも確かにその通りなのだ。
だが……微笑み合いながらもずっとずっと胸のうちにある疑問。
「お前は俺を怨んでいたんじゃないのか」
俺だけが神となった。こいつは……ソウはこの世界に捨てられたのだ。
「タツを怨むわけないじゃん。それに俺の中にある第八席はタツがこの世界から邪神と呼ばれることになったのを悲しんでる。タツは神さまだけど生身を持つ生き神だから。この地上の住民だから」
俺の半身は人間たちが犯した大罪に慈悲と救いをもたらすのが、本分。対する俺は大罪を裁き罰を与えるのが本分。
「何で邪神だなんて……タツは裁きを司る裁神なのに」
だが人間たちは神の裁きをもたらした神を邪神とし、女神に救いを求めた。裁きの神に慈悲を求めた。
「世界の意思が下したのは罰を与えることだが、世界が求めていたのはソウの方だったから。俺は邪神でいい。そしてそれを拠り所にする連中もいる」
主に魔族たち。たまにそうではないものもいるが。
「だからって自分が悪役になるなんて」
「それでいいんだよ。俺にはヒーローみたいな大それたことは向いてない。俺は俺の好きなもんを愛でられればそれでいい」
「キナも……」
「……」
そうだな。もう同期しちまったんじゃぁ、ソウも神代のことを知っているだろう。
「不思議だな。魂は同じ。でも違う人間なのにまた俺は手放せないんだ」
自嘲気味に嗤う。
「だからこそか、女神も分かっていたように与えたギフト。神代には異質なものとされた。聖女や巫女と言うジョブは飛び抜けて秀でていたからこそ魔女として迫害された」
「彼女たちはもとより後の時代に召喚される勇者と共に世界を安寧へと導いていくための存在だったんだね」
「そうだ。しかし神代の人間たちは彼女らを奴隷とし、贄とし、さらには召喚された勇者に彼女らを悪だとうそぶき殺させた」
そして神代の人間たちは彼らがいらない、脅威とした奴隷を邪神の荒ぶりを鎮めるための贄とした。
「しかし奴隷を差し出したやからの懇願など知ったことではない。自らを贄として差し出したのならば俺は願いを叶えた。この性質は捨てたはずの救いの神のものだったはずなのに。神格を当時持てなかったソウの神の力の部分が一部俺に残った」
「でもそうして解放された彼女らは一部は邪神の眷属として、或いは女神の元へと戻るための転生を選んで世界樹に導いたんだね」
「ああ。だが一向に自らの懇願が聞き入れられなかった人間たちは邪神は倒すべきと捉え、初代勇者をけしかけた。全てが嫌になった俺はわざと勇者に倒され、置き土産を受け取った勇者は真実を知った」
「そして勇者は……ファウダーは自分を騙した人間たちに復讐を仕掛け、神代のエーデルシュタイン王国を滅亡寸前へと持っていったんだね」
「ああ。聖女が止めるまで」
それが世界に英雄として語り継がれる初代勇者の真実だ。
「あの、タツ」
話し込んでいた俺たちの元にいつの間にかキナが立っていた。
「ソウは魔神でタツの半身なんだね。私だけ置いて行かれちゃうね」
キナがポロリと漏らしたのは悲しみでも怒りでもない。創世神に面と向かって言い返した強さでもなく、なんとも言えない寂しさだった。
だが、ひとつだけやってやれることはある。
「……なら、俺の伴侶になるか?」
「……えっ」
「眷属と言う形だが……神は時に伴侶を迎えるものだ」
神代に叶えられなかったその願いを今度こそ叶えよう。
「それとも俺は……嫌か?」
「そんなわけないでしょ!?タツは……いつだって……」
「……っ」
キナが首に抱き付いてくる。
「私の憧れで、大好きなひとだよ」
「ああ、そうかい」
それは何よりだ。ソウが心底安堵した感情を届けてくる。周囲からいつの間にか拍手が溢れれば眷属神たちや眷属たちが集まっていることに気が付く。
――――もしかしてとは思うがキナを再び俺の元に導いたのは……ソウ、お前だったのか?




