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【35】魔神第七席



――――とぼとぼと小さな足が歩む。


「誰……?」

邪神が寵愛を捧げる少年が首を傾げた先には面をつけた不思議な少年がいる。


「おかしいね」

「おかしいね」

その時聞いたことのない少年少女の声が響いてくる。


「……君たちは?」


「忘れてしまったの?」

「忘れてしまったの?」


「おいで」

「おいで」


「世界樹のみもとに」

「世界樹のみもとに」


「思い出せ」

「思い出……っ」

その時言葉が途切れたと思いきや、面をした少年がすぐ隣に来ていた。そして声に待てと告げるように腕を突きだし首を横に振る。


「そうだ、強引な真似は許さない」

心強い保護者の声に彼は安堵する。


「ソウ、ひとりでどっか行くな」

彼……ソウは首を横に振る。


「気が付いたらいたんだよ、タツ」

「それでもソウが勝手にどこかに行ったら嫌なの」

「タツはもう……」

ソウの髪を撫でてやれば、そこに面をつけた少年は既にいない。瞼を開ければそこはベッドの上。変わらず隣で眠るソウの姿に安堵する。


「ふぁ……ぁ……何か夢を見たかも」

ひとの心配をよそに、ソウがむくりと起き上がる。


「タツ、おはよう」

「ああ、おはよう」


「んー……あれ、キナはもう起きたの?」

「キナは女子会とか言ってヴォレルとアリーシャと隣の寝室で寝てるはずだ」

もう俺の添い寝卒業とか悲しすぎるんだが。


「そういやそうだった」

それなのにソウは割りきってんなぁ。


朝食を食いに食堂に赴けば既にキナたちが来ていた。シュランガルとファウダーも顔を見せ、朝食を取りつつ現在の情勢について情報を整理する。


「人間たちのことは人間たちが決めることだ。女神も助言はすれど強制はしない」

「ええ。大罪を背負った皇国はエーデルシュタイン王国に属国として融合されたました。しかし国民の殆どが呪毒に蝕まれている以上は、エーデルシュタイン王国民からも世界中からも嫌煙されています」

シュランガルが教えてくれる。


「それも己の業。刑期を終えれば呪毒は終わる」

「ですねえ。でも今さら本物の女神を崇め、救いを求め、それから邪神さまに裁きをと望むのです」

「……はは、女神が頭を抱えているだろうな」

女神に救いを求めたところで刑期は縮まらんぞ。地球でも神に救いを求めたところで裁判長は刑期減らさんだろ?


「今のエーデルシュタイン王国じゃぁ、魔族の主神に手を出してはならないと言う教えがあるからなおさらだな」

とファウダー。まあその後ろに狂気勇者もいることだし。


「その賢明な教えを是非とも真似て欲しいもんだなぁ。ま、それでも俺は神の裁きを邪だとみなしたこの世界が呼んだとおり邪神でいい」


「いや、いいのかよ」

ソウからツッコミが飛ぶ。


「いたずらに裁きの神として崇められても迷惑だ。他者を生け贄に祈り、自分かわいさに欲を列ねて祈ろうとされても困る」

「たまにヴァンからも聞きますよね、未だにいるようです」

シュランガルがくすりと微笑む。


「そうそ。俺は自らを生け贄にする度胸もないやつは嫌いなの」

そう言ってソーセージを口の中に放り込む。


「それに今日からは黒幕を探さなきゃな。探らせてはいるんだが……妙な接触してきやがって」

「どう言うこと?今朝の夢と関係ある?」

ソウが思い当たったように告げる。


「残念ながらな」

ふうと溜め息をつく。


「取り敢えず今日はアイツらをこっちに招くぞ」

「騒がしくなりそうですねえ……ソウ、今日は一緒にいましょうね」

「よく分からないけどシュランガルと一緒なのは嬉しい」

「ソウったらっ」

シュランガルが嬉しそうだ。ま、現実ではシュランガルに任せておけばいいか。


そして朝食を終えれば早速だ。


「来い、第七席フロルレゥール」

告げれば床から光輝く蔦が伸び、枝が伸び木に成長する。


「え……っと、木?」

ソウが驚いている。


双生花樹(アルラウネ)

双生花樹(アルラウネ)


「失礼な」

「失礼ね」


「ただの木だと思ってる?」

「ただの木だと思ってる?」


「忘れちゃった?」

「忘れちゃった?」


「ええと……?」

戸惑うソウにフロルレゥールの枝が伸びようとしたのをぱしゅっと掴んだのはシュランガルだ。


「ソウに手を出すなら溶かしますよ」

『ギャアァァッ!!?猛毒蛇――――っ!!?』

フロルレゥールの声が重なるほどにテンパってる。


「こらシュランガル。フロルレゥールを虐めてはなりません」

そこに植物仲間のヴォレルがやって来れば、フロルレゥールが枝をヴォレルに纏わせる。


「さぁて?どうでしょうね。私のソウにいたずらしようとしたようですし」

「してないよ」

「してないよ」


『未遂だよ』

それをしようとしたって言うんだよ、全くコイツらは。


「もう、タツキさまに怒られますよ。いい子になさいな」

「はぁい」

「はぁい」

ヴォレルに怒られやっとのことで大人しくなったか。


「それで情報は?」


「邪神さま」

「邪神さま」


「木使いがあらいよ」

「木使いがあらいよ」


「よしよしは?」

「よしよしは?」


「ソウにいたずらしようとしたからナシ」

『えーっ!?』


「ほら、ちゃんと報告ができればタツキさまもよしよししてくれるかもしれませんよ」

「ヴォレルお姉さまが言うなら」

「ヴォレルお姉さまが言うなら」


「黒幕は行く宛てがどんどんなくなってる」

「当然だよ。女神に嫌がらせ、たくさんやった」

「女神の眷属、冥界神の眷属、邪神さまの眷属」

「みんなの目が光ってる、木々も見てるよ」

「ぼくたちの分身」

「私たちの分身」

『ちゃんと見てるよ』


「上出来だ。んで?向かうとしたら」


「近づいてるよ」

「近づいてるね」


「……まさかとは思うが」


「彼女にはもう救いの神しかいない」

「裁きから逃れるために救いの手を求めるしかない」


「裁きと救いってどっちもタツな気がするけど」


「鋭いね、聖女」

「鋭いね、聖女」


「邪神さま」

「邪神さま」


「ああ……俺のもうひとつの顔だ」

「じゃぁタツのところに来るってこと?」


「違うな。俺の本体に向かってんだ」

「タツの本体って探湯沼(くがえ)?」

「あれは俺の一部だよ。俺の本体までの道、開いてくれるな?フロルレゥール」


「よしよししてくれるなら」

「よしよししてくれるなら」


「……」

しかしまあ、情報は集めてきたわけだからな?


「ほら、よしよし」

キラキラと光る枝を撫でてやれば喜んだように葉を揺らす。


「開くよ」

「開くよ」

そう言うとフロルレゥールが幹を太く成長させ、その先に空洞を開く。


『創生樹までの林間コース、ごあんな~~い』



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