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【34】【番外編】救いの手



――――side:


魔女協会本部にて主を迎えた魔女イチヤは驚いた。


「えっ、日本人!?召喚者ですか?」

「そうだが?」

彼の主リックはむすっとしながら不満げである。


「我が主は何でこんなに機嫌が悪いんです?フローナさま。さっきまで邪神さまと一緒だったでしょうに」

「その子はなかなか頑固なのよ。その子の好きなお茶でも出して上げて」

「はい、フローナさま」

そしてイチヤは先程から俯いたまま黙りこくる少女を見やる。


「彼女は……」

「彼女にもお茶をお願いできる?」

「ええ。もちろんです」

イチヤは主に桜茶を淹れて出せば、主がむくれながらもそれをちびちびと啜る。そしてそのすぐ側で腰かけるフローナと少女にも桜茶を差し出す。


「いい香りだわ」

「ええ。これで主も少しは機嫌が戻ればいいのですが」

「そうね……でも」

フローナは沈んだ調子で俯く少女を見る。


「皇国で保護をされたので?何があったのでしょうか」

「少し外で話しましょう」

「はい」

彼女のことは主が見ていてくれるか。何か不満げだがフローナに何か言い付けられたのかとイチヤは納得する。


「……私たちは魔女狩りを止めたわ」

「それは何よりです」

「だけどその魔女狩りに彼女は利用されたの」

「……利用されたとは」

「勇者として魔女狩りをさせられていた。呪いで意思を奪われ混乱状態にされながら、それが正義であると信じさせられて」


「……今の様子だと呪術も混乱も解けているんですね」

「ええ。だから彼女は自分が何をやってしまったのかも全部自覚したのよ」

「それをフローナさまが保護されたんですね」

「ええ。それが彼女を守ることになる」

「まさに最善の策ですね」

魔女に奪われ命を狙われるかもしれない。しかし彼女を利用した呪術の恐ろしさを知っているのもまた魔女だ。けれど煮えたぎらない部分もある。それをフローナが世話役を買って出ることで抑えたのだ。


「……あなたも憎い?彼女が」

「いいえ。彼女は利用されただけなのでしょう?裁かれるのは利用した側……本物の裁きの神が既にやってらっしゃるでしょうが」

「その通りよ」


「なら彼女はこの世界で生きていく知識や術を身に付けるべきでは?」

「その通りよ。世話役は私が担うけど教育の部分はあなたに任せたいの」


「もちろん。まあこんな見た目の日本人でもよければですが」

「あなた、よくそれを言うわね。黒髪黒目じゃないと何かあるのかしら。キナも色素が薄かったけど」


「キナさまの場合は普通に生活できるレベルですよ。俺の場合は……それとは違う異質なんですよ」

「その感覚は分からないけど」

「こちらではそれを肌で感じますよ。こちらに来た召喚者の子たちのほとんどはこの世界にも馴染むのでいい子たちです。ソウさまやキナさまと同じように」


「ええ。素の彼女もきっと……。だから少し話してみてくれないかしら」

「もちろんです」

そうして2人が戻ろうとした時、中から怒鳴り声が響いてくる。


「ちょっと、何をしてるの!?」

中ではリックと少女が取っ組み合いをしていたのだ。

「何とかじゃねぇよ!この……っ」

「うう……っ」

リックにキツく手首を掴まれ少女が苦し気に呻く。


「イチヤ、リックを」

「はい!」

フローナの腕が少女を包み込み、イチヤがリックを引き剥がす。

フローナは次に足元に散らばった陶器と血の痕を見る。


「いけないわ」

フローナが静かに告げる。


「死んだところで誰も救われない。あなたも救われないわ、リリカ」

「……」

「この世界では死は救いではないの。救いを差し伸べてくれる神は地上にしかいないのよ。あなたはその神に生きることを許されたの」

「……」


「あなたにはまだ、生きる場所があるから」

かつてフローナとリックが主に居場所をもらったように……フローナの言葉にリリカは涙しわんわんと泣いた。


リックは相変わらずむすっとした調子で席に戻ったが、それでも見捨てず止めたのはリックの方には確かに同郷への情けがあったのかもしれない。

そうイチヤは自身を眷属として迎え入れた主を想うのだ。


※※※


――――数日後


「調子はどうですか?リリカさん」

教育を担当するイチヤが問う。リリカは彼の見た目を気にせず、親切にしてくれる様子に少しずつ言葉を口にするようになっていた。


「だい、じょうぶです」

「それなら良かった。それと……カレーはお好きですか?」

「え……?」

「ある国で新たな召喚者を迎えると出す料理ですよ。丁度材料を切らしていたので仕入れに行こうとしたら邪神さまの神殿に置いてあったようで分けてもらったんですよ。ですからお昼はカレーにしませんか?」

彼の主はそれを知らない時代の生まれではあるが、カレーは好んで食べるのはとある戦闘狂勇者と同じである。


「その、いいのですか?」

「もちろんですよ。多分我が主も喜びますから」

「私は……恨まれてるのではないんですか?」

「あれは恨んでいると言うよりも……リリカさんをこんなことに巻き込んでしまったのが煮えたぎらないんですよ。あの方も邪神さまの眷属ですから、似たんです」

「その、邪神さまって度々聞くけど」


「もとは裁きの神。邪神と言う名称は裁きを不服としたものたちがつけた名ですが……ご本神がやけに気に入っているので愛称として定着したんです」

「……変なの」

「ええ。本当に。ですがだからこそですかね。主を含め、魔女たちはみな邪神さまのことが好きなんですよ」

そう言ってイチヤが胸元のエンブレムをなぞる。リリカはフローナから与えられたエンブレムを見、邪神と呼ばれながらも愛される不思議な神を思い浮かべながら同じようになぞるのだった。



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