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【30】魔女協会長



――――エーデルシュタイン王国・王都。

エーデルシュタイン王国が仲介し、顔を合わせたのは、皇国の使節団と魔女協会の代表者ふたりだ。


「確かにダンジョン都市に巣くっていた親玉スィーディーネはかつて魔女協会に所属しておりました」

魔女協会の魔女フローナが口を開く。その席の背もたれで黒い手でふーむと頬杖をつく。いや、そこに頬はないが。


「しかし彼女は何十年も前にエーデルシュタイン王国の英雄勇者に討伐されたことで、とっくの昔に魔女協会から名を抹消しております。我々も彼女がまさか生きていたとも思ってもみませんでした」


「しかしそれを言うならあなたもでは?魔女フローナ」

皇国の使者が試すように告げる。


「わたくしは魔族であり、邪神さまの眷属神であることは衆知の事実です。しかし彼女はただの人間。100年の時を越えて未だにうら若き姿を保ち続け生きているなど考えられぬことです」

何百年も美しき姿を保つフローナが答える。

そもそもフローナがその姿を保っているのはスィーディーネとは理由(わけ)が違う。


「それだ!」

しかし使者は立ち上がりフローナを指差す。


「はい?」

さすがにフローナも首を傾げる。


「それこそが証拠だぁぁっ!人間が通常100年以上もうら若き姿を手にするなど考えられぬことだ!つまりは魔女協会がスィーディーネを隠すために除名したふりをし生かしておいた。その上でダンジョン都市を裏で牛耳り不当な利益を得ていた!これで全ての辻褄が合う!」


「どこをどうすれば辻褄が合うと言うのですか」

その通り。フローナとは事情も覚悟も違いすぎる。そんな大罪人と一緒にされたところで理解不能だろう。


「知っているぞ……魔神と言うのは邪神と取引をして何でも願いを叶えてもらえる上に、そのようなうら若き姿を保ち続けることもできる!」


「あなたは魔神と言うものを随分と誤解なさっているようです。わたくしたちが魔神となる道を選んだのはうら若き姿を保つためではありません」


「それもどうだか!その姿で魔女どもを束ね世界中で悪事を働いている!やはり魔女は悪だぁっ!その魔女どもを束ねるお前がまずは処刑されるべきなのだ!」

使者が横柄に吐き捨てる。


「勘違いをしているようですが」

フローナは溜め息を漏らして使者を見る。

「何だと?」


「わたくしは魔女協会の会長ではありませんわ」

「はぁ!?魔女協会と言えばお前……フローナだろう!」


「確かに名は知れておりますが」

フローナは困惑した表情を浮かべ、隣に腰掛けている青年を見やる。

「リック」

「……あぁ、もう見てらんねぇ」

そして立ち上がり使者をキッと睨む。

今までは(フローナ)が冷静に対処していたからギリギリ我慢していたのだが。


「部外者は黙っていろ!魔女に荷担する間男がっ!」

使者が吐き捨てた言葉に思わず目を剥いた。そんな風に見ていたとは……片腹痛い。


「ひでぇ言われようだな……?お前ら皇国の使者が姉さんを指定したから念のためついて来ればこのざまだ」

リックが怒気を向けさすがの使者もビクンと震える。


「は……姉……?シスコンか?そしてこの魔女を庇うのならお前も魔女と同等と見なすぞ!」

まぁ確かにシスコンではあるが。


「同等?バカじゃねぇの?俺も魔女だよ」

リックが堂々と告げたことで使者がぽかんと口を開ける。

「は……?」


「魔女協会や魔女に喧嘩売っといて、魔女協会の長の名も知らねぇとは片腹痛ぇ」

本当にな。恐らく皇国の奴らは魔女が何たるかも知らねぇ。だから歴史上幾度となく魔女狩りなんてものをやってきた。


「だが……こちらは魔女協会長フローナを指名して……っ」

使者が狼狽える。あぁ、なるほど。そう指名したわけか。


「ですから魔女協会長と、わたくしで来たのです。魔女協会長をよそにわたくしに一方的に捲し立てたのはあなた方でしょう?」

本当にな。だからふたりで来たのだ。リックはフローナだけ指定されてもついて来ただろうが。


「こんなの詐欺だ!」


「勝手に誤解なさっていたのはあなた方ですわ」

フローナが冷たく吐き捨てる。


「そうだ、魔女協会長が男だなんて認められない!そもそも魔女がどうして男なんだ!おかしいだろ!」

本当に魔女が何なのか知らないのか。いや、確かに【女】がついているがそれは【勇】者も同じだろう……?


「知るか、そんなもん!何故部外者に魔女協会のことをとやかく言われにゃならん!」


「何だその態度は……!皇国には勇者がいるんだ!勇者さまにかかれば魔女など敵ではないわ!」


「勇者……?」

なるほどねぇ。エーデルシュタイン王国もさきの召喚騒ぎで国の建て直しの真っ最中だが、いきなり皇国がナメた態度をとってきたのはそれか。


「そうさ。女神さまが召喚してくださった勇者さまだっ!勇者さまにかかれば魔女どもなど一掃できる!!」


「そのようなこと聞き及んでおりませんが」

そうだよなぁ……?そしてそれがあのスィーディーネ騒ぎの裏で起こっていたことだ。

真実を知る身としては明らかに皇国の方がクロである。


「邪神の信徒どもが知るよしもなかろう!?魔帝国と国交なんぞ結んでいるエーデルシュタイン王国も女神に見捨てられたのだ!エーデルシュタイン王国には聖女も勇者もいない!それが女神に見捨てられた何よりの証拠だろう!?」

女神を捨てて欲を掻いて偽物に手を出したのはお前たちだろう?

そしてリックはもちろん俺と女神の関係を知っている。


「はぁ……?お前、ほんとバカなの?」

だから当然のように使者を嘲笑う。


「なん……っ」


「魔帝国がどうしてエーデルシュタインや他の人間の国を侵略しないと思う?それを知ってりゃぁそんなバカなこと言うわけねぇじゃん」

邪神の姉である女神を崇めているからである。女神も邪神討伐など望んでいないし俺は興味ねぇけど。

過去の邪神討伐だって俺が面白そうと放置しただけだし。女神は呆れ気味ではあったがな。


「それは……人間の国には勇者さまがいらっしゃる!女神さまが邪神や魔女どもを駆逐するために勇者さまを召喚してくださるのだぁ……っ!」

別に魔女全てが邪神の教徒ってわけでもないのだが……?


「女神が勇者を召喚するのはこの世界の魔物や天災に対処するためだ。邪神さまや魔女を討伐?人間どもが侵略を選ぶんなら神は感知しない。だが女神が弟でもある邪神さまを主神とする国を滅ぼそうとするはずもない」

「なん……だと!?女神さまが邪神と……やはり……正しかったのだ」

知らなかったのかよ。まぁ人間の国ではさほど知られていないが。


「エーデルシュタイン王国の女神は邪神の手先である!やはり皇国の女神さまこそ、本物の女神!我らは貴様ら邪神の教徒どもに敗けはしない!召喚された聖女が魔帝国にいるとも聞く!それもまた、女神が邪神の手の内だと言う確証を得た!」


「何言っちゃってんの」

リックもさすがに呆れ気味でフローナの背もたれを見やる。クガタチもお手上げポーズだ。


しかしキナのことにまで触れるのならさすがになぁ?邪神の寵愛を得ているってことも知らないのか。エーデルシュタイン王国は自重しているからこそ文句を言わないのだ。


――――あと、姉弟関係は飽くまでも女神>俺だから。


【よく分かってるじゃない。お姉ちゃんが上よ!】


女神が聞いていたとしてもここはエーデルシュタイン王国だから納得だがな。


そして湧き出る探湯沼(くがえ)から生き神の本体をあらわにすれば、使者が目を剥いている。


「つまりはそう言うことだ。コイツらも女神への信仰を捨て、偽物を崇めてるってことだ」

リックの肩にぽんっと腕を回すと、少し機嫌が治ったみたいだな……?


一方で……。


「誰だ貴様はっ!」

そう言われてもなぁ?


「別にお前に会いに来たわけじゃねぇんだから、俺が名乗る必要ある?」

俺と会話する権利あると思う?リックがまたイライラして睨み始めたけども、フローナも止める気配はない。つまりはそう言うことである。


「このような会談に非常識だろうが!」


「非常識でも何でも、神にそんなのは関係ねぇっての。まぁ女神の信徒ならサービスしてやってもいいけど……?でもお前らは女神の信徒じゃねぇんだろ?なら、どうでもいい」


「何だと!?我らが崇めているのは女神さまだ」

「偽物の女神じゃん」


「我らの女神さまを愚弄するか!」


「んなもん知らねぇし」


「我らが勇者さまが、貴様ら邪教徒どもを根こそぎ駆逐してやる!」


「そうなの?じゃぁちょうどいい。その勇者、見せてもらおうか」

「何……っ」


「こっちも勇者連れていくから、よろしく」

「は……?」

にこりと笑みを浮かべればぽかんとしている。この世界で勇者を得たのが自分たちだけだと過信していたのだろうか……?


むしろ本当かどうかも怪しい。女神も素質のあるものが見つからない限りわざわざ呼ばんだろうしそのジョブを授けることもない。

この世界には……100年近くずっと勇者がいるからな。





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