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【26】【後日譚】Side:ソウ



――――それはダンジョン都市から帰ってきて、1週間ほと経った頃のことだった。


「お使い?」

「そ、キナと一緒にヴァンのところ行ってきな」


「そんな急に」

キナと2人で顔を見合わせる。とは言え最近は塞ぎこんでいたからか、ヴォレルさんやシュランガル、それからたまにサンも遊びに来てくれた。心配……させちゃったかな。多分タツもだからこそ声をかけてくれたのかもしれない。


「でも久しぶりにリオンがどうしてるかも気になるね」

「……それはそうかも」

キナの言うこともよく分かる。そしてバスケットの中のありったけの菓子パン。


「ちゃんと神殿に着いてから食べろよ?」

ぽすんとタツの掌が俺の頭に乗っかる。


「そ、そこまでじゃ……ないよ」

むぅと口を尖らせる。神殿ではちゃんと食べさせてもらってるから。


「道案内は、これ」

タツがクガタチの1本を俺たちの足の前ににょきっと出してくる。


「手、繋いでく」

繋ぐの?キナ。


「それでもいいよ」

ニカリと笑うタツは……地球にいた頃のタツと変わらないけれど。こちらの世界では地球では見えなかったものが見える。それがタツの足元に湧いている小さな探湯沼(くがえ)、そこから伸びるクガタチだ。

キナは地球にいた頃からアレが見えていたらしい。それから瞳も紫に変わってしまった。そして人間ではなく邪神と言う生き神である。


すぐに信じることは大変かもしれないけれど、あの探湯沼(くがえ)がタツの【大罪】と呼ぶものを呑み込むたびに順応せざるを得ない。


「それじゃ、行ってきます」

「行ってくるよ」

「ああ、行ってらっしゃい」

とは言えクガタチは一緒なのだけど。


因みにヴァンさんの神殿はタツの神殿の周囲にあると言う。普段はダンジョン巡りをしていると言うヴァンさんだが、今はリオンのためにこちらに逗留しているらしい。


「ソウ、代わろうか?」

「大丈夫だよ、軽いし」

バスケットを片手でほら、と持ち上げる。


「クガタチ、手を繋ぎたいかと思って」

「思うの?」


「タツの一部だもん。地球にいた頃もよく手を握ったり、じゃんけんしたりした」

「……わりと遊んでる」

その事実にも驚きだが。


「少しだけ」

クスクスとキナが微笑む。

ずっと見ることができなかったキナが見えていたと言うクガタチ。

一応ここにも神杖を携えていたが背中の後ろについた取ってに引っかける。そっと手を差し出せば少しビクンと震えた……?


「タツ、びっくりしたのかな」

「そうなの?」

そっとクガタチに手を振れればどこか安心する。

どうしてだろう……?


「……?」

一瞬、脳裏に白い木の枝が浮かんだ気がするのだが。そっとクガタチが俺の手首を包んだ途端、そのイメージは消えてしまった。そして早く行こうとばかりにくいっと引っ張ってくる。


「分かったって」

タツ、まさか照れているのかな?気が付けばキナの手をもう1本伸びてきたクガタチが握っていた。


「……ほんと、過保護」

でもそんな過保護なところも地球での俺たちには心地よかった。こちらでは幾分物騒だけども。


ヴァンさんの神殿でもタツの眷属と同じ黒面と呼ばれるひとが出迎えてくれる。異世界ファンタジーによくある神官のような感じなのだろうか。


そして黒い面をつけているとはいえ顔を見せてはいけないわけではなく、タツの前で故意に見せないだけ……らしい。やっぱり神さまだからなのかな……?


彼ら彼女らの中にはタツの直接の眷属や魔神たちの眷属もいるらしい。俺たちには違いが分からないけれど、どちらにせよ俺たちにも丁寧に接してくれる。

そして彼らに案内された先には……。


「こんにちは」

「リオン、久しぶり」


「ソウ、キナ……!久しぶり」

であった頃のガリガリよりもだいぶ肉付きがよくなったリオンがいた。


「これ、タツからの差し入れ。たくさんあるよ」

バスケットを差し出せばリオンが複雑そうにしながらも受け取ってくれる。

タツが悪いわけではない。悪いのはリオンの幼馴染みのミラさんってひとをダンジョンコアにしたあのオバサンである。


「……分かってるんだ。ヴァンさんにたくさんのことを教わったから」

「リオン……」

「ミラを助けるには他に方法がなかったって……。邪神さまは俺に怨まれる覚悟も込みでそのお役目を引き受けてくださった」

だからこそリオンも怨みきれないんだね。タツは昔から自分を犠牲に他者を救おうとする。召喚の時だって自分を犠牲にした。今回だって……。


「ミラは……何を願ったんだろう」


「そうだね。俺にもミラさんが有罪となったとは思えない。ならばタツはミラさんの願いを叶えたんじゃないかって思うんだ」

その答えをタツは教えてくれなかったけど。


「なら……もう俺に出来ることは……」

ミラさんはもう願いを叶えて消えてしまった。リオンはひとり残されたようなものだ。


「……生きることだけ。タツはそう言ってた」

「うん……」

「ここでの暮らしはどう?」

「ヴァンさまにもほかの黒面のみなさんにもよくしてもらってる。ヴァンさんからは眷属にならないかって誘われてるけど……」

「ヴァンさんなりにリオンの生きる理由を見付けようとしてくれてるんだね」

「ああ……痛いほどに分かるよ。水龍の民同士、分かるものがある」

けれど胸元にぽかりと空いた穴はそうそう埋まりはしない。


あの時、タツは選ぶのはミラさん自身だと言った。


深い沈黙が降りてくる。しかしその時、ここまで案内してくれたクガタチが袖をツンと摘まんでくる。


「タツ……?」

そして掌をこちらに差し出してくる。


「どうしたの?」

そっと指を近付けた時だった。


「何だ、お前たちも来てたのか」

現れたのはヴァンさんだった。


「タツキがこっちに黒面を寄越して来たんだよ」

ヴァンさんが手招きすると、ひとりの黒面が入ってくる。そしてその黒面をそっとめくれば青い髪に、褐色の肌に黒目の少女が顔をあらわにする。

そしてガタンと椅子を倒してリオンが立ち上がる。


「ミラ!?」

え……っ、彼女がミラさんっ!?


「リオン……!」

そして抱き合う2人にキナと顔を見合わせる。


「タツ……?」

再びクガタチを見れば……いない。まるで役目は果たしたと言わんばかりである。


「どうして……っ」

リオンが涙ぐみながらミラさんの頬を撫でる。

「邪神さまからの思し召しです」

ミラさんが美しい声で述べる。するとヴァンさんが解説してくれる。


「邪神は時に自らその身を捧げたものの願いを叶える。その時、邪神は稀に気まぐれを起こすんだ」

それがこの気まぐれ……?。


「そんなわけで……ふたりで俺の眷属になるか?」

そのヴァンさんの言葉にリオンは迷わず頷いた。

再会を喜ぶふたりに気を遣ってヴァンさんの神殿をあとにしようとすれば、ヴァンさんが見送りをしてくれた。


「ねぇ、ひょっとしてタツは最初からこうするつもりだったの?」

「さぁ、どうだかな……?願いを叶えた邪神は問う。人間として戻るのであれば魂の輪廻の中へ、或いは邪神や俺たちの眷属を選ぶものもいる」

そしてミラさんは眷属を選んだんだ。


「あいつらは俺の……俺の中の水龍の末裔で俺の同胞でもあるからタツキが任せてきたんだ。安心しな。あいつらのことは俺に任せとけ」

ヴァンさんがニカリと笑う。


タツは……どこか厳格で冷酷な一面を見せる。特に創世神さまが関わることに対しては。


けれど同時にどこか慈悲のような優しさと救いを見せることがある。


だからこそ……。


「やっぱりタツだなぁ」

うん。俺たちが大好きなタツだ。気が付けばクガタチが俺とキナの手にそれぞれ掌を合わせていた。



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