【20】魔神第四席
ファウダーがソウを連れてきたので、神殿に到着した魔神第四席ヴァッサーラーエを迎える。ヴァッサーラーエの深い藍の魔族角には小さな突起があり、ある意味龍にも見える。見た目は人間で言うアラフォー。それから青い髪に水色の瞳は瞳孔が縦長、逞しい体つきで肌は褐色の男だ。
「よぉ、ヴァン!」
ヴァッサーラーエの愛称を呼べば先代魔帝の風格を感じさせないフレンドリーな笑みを浮かべる。
「邪神さま。早速呼んでくれてありがとよ。そろそろダンジョン都市に帰ろうと思っていたところだ。ちょうどいい」
ヴァンは邪神たちの中でもサングイオスとは違った意味で気さくだな。いや……むしろ同じく気さくと言うか、そう言ったところは父子だからこそただうか?
「あぁ、俺もだ。それにダンジョン都市は数ヶ月行かないとそれだけで様変わりする。だからお前に案内を頼みたい」
探湯沼で転移するにしても座標に不安を覚えてしまう。ファウダーの記憶でもいいのだが、直近の様子を知るヴァンがいてくれた方がいい。まぁ、頼めばヴァンがダンジョン都市からこちらに来ると思うが。帝都にいるならそれはそれで手間が省ける。
「もちろんだ。あと寵愛児さまたちとファウダーもいるのか」
ヴァンが集まった外のメンバーを確認する。
「そうそう。このメンバーで行く」
「承知した。ところでダンジョン都市に行くんだ。お前は別として、彼女たちの装備は?お前の守護があるとはいえそのままと言うわけにもいかんだろ」
帝都にもヴァンの神殿はあるものの、普段はダンジョン都市の神殿にいることが多いから気になるか?
「安心しろ……!金なら湯水のごとく使ってぇ……っ」
「タツ、無駄遣い禁止!」
「うぐっ」
早速キナに注意されたぁ~~っ!
「しゃぁねぇ。俺とファウダーで見繕うわ」
「何でぇっ!!」
何で諦めたように言うよ、ヴァン!
「サンからも聞いていたがお前……寵愛と言うか狂愛の域だぞ」
「悪いか」
「やりすぎはいつの世も良くない。程度を弁えていた方が……モテるぞ」
「……」
即座に否定できないのはこの男、イケオジとか呼ばれて本当にモテるからである。特に思春期の少女たちにだ!俺のキナもまさか……まさか……。
「タツは私たちのことになると暴走するんだもん」
「そうだよ。普通のでいいんだから」
ソウもキナの言葉に続く。
「その分ヴァンさんは分かってる。ありがと」
「いいってことよ、嬢ちゃん」
「ん」
ヴァンが自然な所作でキナの頭を撫でニカッと笑えばキナの頬がポッと赤らむ。
「あ゛――――――ッ!!?」
まさかキナ、惚れたのか!?お前もイケオジに惚れたのか!?
「タツキが乱心だぞ」
当たり前じゃねぇかファウダー!だって俺のキナが……キナがぁっ!
「こら、急ぐんだろ?」
ペシンと頭に響くのは軽いものの重みがある。
「~~っ」
悔しいがそれも事実。
「タツが大人しくなった」
「おお~~っ」
キナとソウのパチパチとする拍手に……完全敗北した。
「ほら、陽が暮れる前に行くぞ?泊まるのはあちらの邪神神殿でいいとして……何事も早い方がいいだろ。女神さまのこともあんだから」
「……そうだな。行こうか」
女神はアリーシャに任せているし創世神の御子である。だから魘される程度で済んでいるとも言える。
――――とは言え何が起こっているのか。何が女神を苛んでいるのか。早速ヴァンと記憶を共有して座標を合わせ、探湯沼を沸き立たせる。
俺たちを呑み込んだ探湯沼は無事にダンジョン都市に導いた。
※※※
ダンジョン都市の久々の神殿。邪神のエンブレム……正義の目の下に天秤のモチーフがあしらわれた裁神のシンボル。ひっそりと建てられているとはいえ神殿の中に大きな違いはない。
ここは邪神兼裁神を主神とし、副神としてヴァンたち魔神たちの神殿も兼ねている。普段はヴァンが逗留しているからか、ここの魔神と言えばヴァンが想像に浮かぶらしい。
こちらにいる黒面たちが、早速今晩俺たちが泊まる部屋を用意してくれる。
「つーか、その嬢ちゃんたちは一緒に寝るのか?タツキ」
気さくで何よりなヴァンは俺を名前で呼べと要求すれば、ファウダー並みにすんなりと受け入れた。
「当たり前だろぉっ!?」
ガバッとキナとソウを抱き寄せる。
「過保護か」
「主神殿ではいつものことだ」
ヴァンの言葉にファウダーがすかさず告げる。
「はぁ……まぁ嬢ちゃんたちも初めての神殿だからな。別にいいが」
「俺たちは別々に隣の部屋を使うか」
「そうなるな。あと情報を集めてくる」
「だな。俺は戦神と武神のとこ行くから、ファウダーはギルドをあたってくれ」
そういやヴァンは戦神たちにも呼ばれていたんだったな。できる部下たちで何よりだわ。
「そうしておけ~~」
ファウダーたちを送り出せば、俺たちはさんにんでベッドの上である。
「晩飯まではゆっくりしとくか」
「うん……今は情報を待つしかないのかな。でもタツ。結局のところ、ダンジョン都市って何なの?」
「あぁ……そうだ。キナたちにはまだ詳しく話してなかったな」
※※※
「ダンジョン都市ってのはその名の通り、ダンジョンが群生している場所に建てられた都市。ダンジョン自体のイメージは地球のファンタジー世界のものとそう変わりはしない。けど……この世界のダンジョンは2種類ある」
『2種類……?』
キナとソウがシンクロしたように同じ方向に首を傾げる。
何それ超萌えるっ!!
「そう、2種類。ひとつは創世神が地上の住民たちのために用意したもの。この世界で生き行くための知恵と技能を授けるものだ。つまりはレベル上げ、スキル磨きの場。何せこの世界の生物すべてにはレベルを持つ」
「えっと……タツが9999でファウダーが1000?」
ソウの言う通り。
「合ってる。お前たちもだいぶ上がったな」
ソウはファウダーが鍛えているし、キナも聖女の知識やヒーリング魔法の技術を磨いている。
キナはレベル54、ソウもレベル62。この世界じゃぁちょっとした熟練冒険者のレベル。
ダンジョン都市ではまだまだ初心者レベルだが……そこまで低くもない。ダンジョン都市で鍛えればもっと上がるだろう。講師もファウダーや他の魔神たちで上がらないはずはない。
まだまだファウダーのレベルに至るもんはなかなかいないだろうが。何せ人間には魔族以上に寿命の限界がある。
しかしそんな限界すら超えようとするのが……もうひとつ。
「もうひとつは人造ダンジョン」
「人造ダンジョン?」
「人間にも作れるってこと?」
ソウもキナもやはり驚くか。
「ま、ダンジョンなんて異世界ファンタジーのミステリー中のミステリー。そもそも人間に造れるだなんて考えすら普通は浮かばないよな」
むしろ一体どうやって造るんだって話だ。
「女神が与えるギフトにもダンジョンを造れるようなスキルはない。魔神たちが代理で管理するスキルにもない。俺もとりわけそんなスキルを作って授けることはない」
「理由があるの?」
「もちろんだ、キナ。ダンジョンってーのは創世神が地上の住民たちのために与えたもの。だから創世神以外がダンジョンを造り出すなんて許されないことだ」
……創世神がその権利を与えでもしない限りは。ま、与えることもないだろうが。
「かつて人間たちは奴隷魔法と言う名の奴隷呪術を編み出したことは知っているな?」
「……うん」
「ファウダーにも聞いた」
キナとソウが頷く。
あれを魔法だと認識してはならない。手を出してはならない。邪神が有罪だと裁いた大罪を覚えさせることなどない。創世神の教えに背くことだと教える必要がある。
「かつて神代の人間たちは奴隷呪術を編み出した。そしてそれを転用し、ダンジョン造りにも利用したんだ。ダンジョンにはコアってのがあるもんだろ?」
「うん」
「それはこの世界でも同じってこと?」
シンクロするようにキナの頷きにソウが問う。
「そう。このダンジョンコアと言うのは神の技術。ダンジョンコアと言うのは地球で言えばAIとナノマシンを合わせたようなものだ」
地球では合わせたところで造れないが、ここは異世界。
「空気中の魔力を吸収し、魔物を呼び込み繁殖させる。人間や魔族を招きアイテムを産み出し授け、壊れた壁やら扉も修復する。時にはダンジョンを踏破したものをポータルで地上に吐き出す」
「ダンジョンひとつが一種の生産ラインみたいだ」
「そうだな、ソウ。そして魔物は無限に湧き出すわけではなく、外からも餌をちらつかせて呼び込む」
あわよくば繁殖させて生態系を築くのだ。生まれてからすぐの幼体ダンジョンなんかではよく見られる。成体ダンジョンでも魔物が狩られまくれば外や他のダンジョンから流入させる。
「神が用意したコアのダンジョンはそうやって共生しているが人造ダンジョンは共生はしない。そのコアは神の造ったものとは違う紛い物だからこそ繋がることはできない」
「でも、タツ。それってまるで……生きてるみたいな……」
「そうだな、キナ。だからこそ神代の人間たちは閃いた。人間にもダンジョンを造れるのではないか。生きている魔物を、人間を、魔族を。これらをコアにすれば人間に都合のいいダンジョンを造れるのではないかと」
神の禁忌に触れてしまったのだ。
「だが魔物では足りなかった。だから人間を使った。奴隷と言う人間ではないものを使った」
ものは考えようだがな。
「中には魔族を使おうとしたケースもあったが、魔族は魔物の遺伝子も持つから魔物の本能が強く出て人間には制御不能となった。だから奴隷呪術を使い、人間でコアを造りダンジョンを造った」
「それが人造ダンジョン?」
「そうだよ、ソウ。コアになれば寿命も何もなくなる。そしてコアとしてプログラミングされた呪術にも寿命はなくなった。破壊されるまで延々とダンジョンコアとして使役させられる」
「そんなこと許されるの……?」
ソウが握る拳がふるふるとふるえる。
「許されるはずはねぇよ」
何せそれを裁いてきたのは……俺だ。




