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【18】邪神の好物



――――邪神神殿・厨房。


地球からの召喚者たちが懐かしむだけのことはある。異世界でもカレー粉はカレー粉だな。

食欲をそそるようにスパイシーな匂いが立ち込めている。


「意外ねぇ。それ、元々なの?」

女神が興味深そうに鍋の中を覗いてくる。

「まさか。俺たち神は別に食べなくてもいいようにできているだろ?」


「そりゃぁねぇ。でもあなたは生身なのだから必要でしょう?」

探湯沼(くがえ)に呑み込めば消化できた」


「けど地球では違うでしょ?」

「まぁな、あっちでは普通に飯は食ってたし……あいつらにも作ってやってた」


「あら……あなた親代わりまでやってたの?初耳だわ」

「親ならいたさ……あの子らにもな。まぁ、滅多に帰って来ねぇし、食事は高級料理のシェフを手配すればいいと思ってたやつらだが。それでも普通の家庭の味が恋しいみたいで……俺が覚えて作ってた。特にソウは高級料理のコースじゃぁ足りねぇからな」

「まぁあのコはたくさん食べるわねぇ」

「そうそ。だからカレーも多めにな」

カレー鍋はもうひとつ、ファウダーにも任せているところだ。

「因みに女神、お前も食っていくのか?」


「そりゃぁせっかく実体を持ったんですもの。パンも美味しかったけどこちらも楽しみだわ。よく召喚した子たちが好んでいたのよね」

まぁ、地球……とりわけ日本人ならば誰しも懐かしい家庭の味だろう。


「食わなかったのか?」


「女神のイメージってものが……あるでしょ?」

「そんなん知らんが今はいいのか?」


「こら、お姉ちゃんに対して。……でも弟が食べるなら私も食べるわよ」

「無理矢理論だが……キナもソウも女神には親しみを覚えているようだからな」

「当然よ」

クスクスと女神が微笑む。


「んで?お前は普通の辛さでいいか?」

「辛いの?」


「そりゃぁな?」


「アンタはどうすんの?」


「俺は辛口派。でもキナとソウは中辛。あと甘口もある。これは中辛、あっちが甘口」

ファウダーが今煮てる方な。

早速味見がてら女神にルーをそれぞれ小皿によそって差し出す。


「んー……甘口がいいかしらねぇ」

「りょーかい」

女神は甘いもんが好きだな。パンの好みでも思ったが……。


「でも、アンタは辛いのがいいの?ひとくちいい?」

「……いいけど」

中辛の横で少なめに煮ていた辛口の鍋から一口小皿によそって差し出す。


「じゃぁいただきっ!ん……かっるぁっ」

「あっはははははっ」


「ちょ……笑うんじゃないわよ!」

「いや何かお前、人間っぽかったからさ」


「アンタに言われたくないわ」

「そうか……?」


「そうよ。非情なほどの裁定を下してもなお、アンタは慈悲の心を持っているのよ」

「……俺にはねぇよ。それは……半身のもんだ」


「そうかもしれないけど……。あの子の半身だから感化されてるのかなって思ったのだけど」


「さぁ、どうだか」

「アンタねぇ……はぐらかさないの!でもあの子も元気そうで安心したわ」

「そうだな。元気だよ。でも……女神の方はどうしたんだ?」


「私はあんまり縛らないのよ。アンタほど過保護じゃないもの。今はどこで何やってるかしら?」

「ははは、過保護で何が悪いよ」

「あら、歓迎するわよ?私もその方が安心だもの」


「ふーん。あ……そろそろいいだろ。皿に盛り付けるぞ。みんなに知らせてくれ」

「分かったわ。向こうで待ってるから」

女神がひらりと身を翻す。ふわりと舞う金色の髪は……いいとして。白いワンピースはカレーに向かないって言うの……忘れてた。


※※※


「んーっ、おいしいっ!お代わりっ!」

「よく食うな」

「だってタツのカレーおいしいし」

何杯目だろうか……?お代わりを叫んだソウの皿を回収し、カレーを盛り付けに向かう。


「ソウ、口の端に付いてる」

「あ、ほんとだ」

食い意地の張ってるソウと、気遣うキナのやり取りも久々だな。


「タツキさまにやらせ続けるのは、えぇと」

「気にするな、ヴォレル」

「ですが……っ」


「そうだよ、ばあちゃん。兄上がカレーをよそってくれる超ラッキーイベント、素晴らしい」

「サングイオスまで……っ」


「まぁいいじゃないの。お姉ちゃんとしても嬉しいわぁ」

女神にはシュランガルがサッと用意したナプキンを付けさせた。シュランガルは何故ここまでできるのか。さすがは何百年もヴォレルの世話妬いてるだけのことはあるな。ヴォレルのナプキンがずれたのもサッと直してるし。


ソウへお代わりのカレーを出してやって。ファウダーもお代わりか……?割りと気に入ってるよな、コイツも。カレー粉の仕入先を知ってるのもそう言うことだろうな。そして俺も久々のカレーを完食する。


「あれ……そういやキナとサングイオスは?」

「食後の飲み物をいれにいくそうですよ。何でもタツキさまには直々にいれたいと」

「は……?」

シュランガルの言葉に何か引っ掛かりを覚える。何か……何か忘れているような。ん……?カレー……カレー粉……?


暫くして水を補充しに来た黒面にヴォレルがそろそろコーヒーでもと伝えたのを見てハッとする。

いや……もう舌は戻っているからコーヒーでもいいんだが……コーヒー……コーヒーと、カレー粉!ま……まさか……っ!


「タツっ!」

ソウも気が付いたようで慌てて立ち上がるが……一歩遅かった……っ!


「タツ、お待たせ」

キナが戻ってきた。しかもサングイオスと一緒に!サングイオスの手にはコーヒーカップが握られているうぅっ!!!


「兄上っ!食後に兄上が大好きな特製ドリンクを持ってきたんだっ!」

サングイオスがやけにニッコニコでやってきて例のコーヒーカップを差し出してくる。


「タツの好きなコーヒーの飲み方。私のとっておきを、サンにも伝授した」

な……ぬううううぅぅぅぅっ!!?そしてサングイオスぅっ!……お前……味見、してねぇだろこれぇっ!そしてカレー粉があり、材料が揃っている以上キナはきっとそのまま伝授したのだろう。この……キナスペシャルを……っ!


た、確かにキナはかわいい。俺のかわいい愛し子。寵愛を与えないわけがない、与えまくってやることこの上ない俺の天使でもあるが……っ!


「タツ、地球にいた頃からこれが大好きだったから」

そうにっこりとかわいく笑うキナを前に、真実は言えねぇだろうがぁっ!


(女神、何でキナに料理系スキル与えなかった)

咄嗟に女神に念話を送る。


(あら……聖女には必要ないんじゃないかしら?)

(ちーがーうーっ!聖女にはじゃなくてキナに必要なのぉっ!……もういっそのこと、俺がスキルを与えるか……っ!?スキル……料理系スキル……何を作っても甘口になるスキル、激辛になるスキル)

(やめときなさいよ、料理上手のスキルならあるけど。スキルあげたところで……思い出の味が変わるのは寂しいわよ)

(おめぇこれ飲んだことねぇからだろっ!)

(アンタみたいな悪食がそこまで……?一口くれる?)

(それは……ヤダッ!!!)

サングイオスと作ったとしてもキナも一緒に作ったのだ。飲んでやらんわけにはいかねぇっ!


「タツ……」

ソウが心配そうな声を漏らすが関係ねぇっ!俺あぁ、いくううぅぅっ!!!


ごぐっ


俺は一気にキナスペシャルを飲み干した。


「うぐぉ……っ」


「タツ、どう?」

「兄上、美味しい!?」


「お゛……美味しいヨ……」

美味しくないわけがない。だってキナスペシャルなんだから!!


成功したとハイタッチをキメるキナとサングイオス。いつの間に仲良くなってんだ。しかし……。


「愛よねぇ」

女神にかわいそうなものを見る目で見られたことは……何か悔しいっ!

しかし料理スキルは与えなくてもいいような気がした。この味だから……いいのだ。





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