【17】交易都市
隣国タルティオスとのことが落ち着いたある日の邪神神殿であった。
「それにしても……カレー粉か」
何故かサングイオスと一緒に来たキナのお願いに反芻する。
そりゃぁキナが欲しいってんなら俺は何でも手に入れてやるけど。何か重要なことを忘れていないだろうか。
「カレー……そう言えば懐かしいな。俺も食べたい」
と、ソウまで。うぐぅっ。キナもソウも食べたいってんならもう俺の答えは決まっている……!
「そう言うわけだから、タツ。交易都市までカレー粉、買いに行っていい?」
「それはもちろんいいが……お前も行くのか?サングイオス」
「うん、俺も兄上についていく!」
「公務はどうする」
「ばあちゃんも父さんもいるし、何とでもなるさ!置き手紙を用意する」
「ほう……?いい度胸ですね?サングイオス」
「ギクッ」
サングイオスの後ろには笑顔の恐い第一席ヴォレルがいた。その隣には偶然一緒だったらしいシュランガル。
「これは……民草の視察でもある」
「都合のいいことを……」
「珍しいお菓子もあるんじゃないかな?お土産買ってこようか?」
「うぐ……っ」
「ヴォレルはお菓子、好きだもんね」
「キナまで……っ!?あう……その、分かった。けど私も行くからな!?」
「姉さん、それだと公務はどうするの」
第二席シュランガルがすかさずツッコめば。
「先代にやらせればいい!」
「そりゃまぁやるでしょうけど……押し付けていいんですか?」
そこで冷静なシュランガルの声がかかる。
「父さんに丸投げして行くぞぉーっ」
「おーっ」
「……ダメだこりゃ」
シュランガルがヴォレルとサングイオスの悪ノリに諦めの溜め息を漏らしていた。
※※※
――――交易都市
「そう言えば魔帝は顔知られてるんじゃないの?」
「まぁ、そりゃぁな」
キナの言葉に頷く。
「そう言う面ではヴォレルもだが」
「町娘風に変装いたしましたよ」
おぉっ、いつの間に!?
普段のミニスカ軍服に比べたらイメージが違っていいかも!
「そうだ……!キナとソウにもかわいい服着せるか……!」
今は一応は神殿の祭服を着せてやってるが……!
「いや、私はもらったのでもいいよ?」
「俺も……お金とかないし」
「金なら湯水のようにある。気にするな」
「いや、気にするし」
「タツって自分のことには無頓着なのに、たまに暴走するから抑えて抑えて」
「……え?」
そんなことあったか……?
「……それはともかく、俺も一介の剣士っぽくしようかな。端から見ればただの魔族に見えると思うんだ」
「ただの魔族の基準か良く分からないんだけど。魔帝がただの魔族って。あ……ところで、私たちは人間だけど、魔族の街を歩いてもいいの?」
「別に魔帝国は人間の往来を禁じている訳じゃない。兄上にも角はないし、間の子とて角もないものもいる。魔族に敵対しないのであればかまわない。あと、ファウダーも今は角がない」
まあ今はな。
「あと邪神のエンブレムを身に付けている以上は、同じ邪神教徒としてむげに敵対したりはせん」
まぁ、確かにな……?俺がキナたちにやった祭服にもまごうことなくエンブレムもつけているからな!
「……だがお前をこのまま魔帝と呼ばせていれば正体はバレると思うぞ」
あ……確かにそうだな?ファウダーもたまにはまともなことを言う。
「うん……じゃぁ……サンでいい」
「じゃぁ、そう言うことだね。サン」
キナもソウも頷く。まぁ、そこら辺纏まったところで。
「早速キナとソウの服を見繕いにいくぞぉ~~っ!」
「タツ、くれぐれも普通なものだから!」
「そうね!私も普通の溶け込める町娘装を所望するわよ!」
「……何で女神までいんだよ」
※※※
「町娘装、ヴォレルとお揃いでかわいいね」
「うん、似合っている」
ふぐぅ……。
「俺だってかわいいドレスオススメしたのに何でヴォレルとお揃いがいいって……」
「いや、タツ、そんな場違いなの着られるわけないでしょ。それにヴォレルとお揃いなのは嬉しい」
「……俺も揃いにするか」
「はっ!?」
「いや、さすがにやめなさいよ、女装とかウケるけど、やらせたいけど、ここは抑えるのよ。愚弟」
ヴォレルやキナに合わせた町娘風の装束に身を落とした女神が答える。いや……抑えてるのは女神だろ……?今気が付いたが女神に女装を迫られるのは……何か嫌だ!!
「でも、タツは着替えなくていいの?」
旅人のような装束に身を包んだソウが首を傾げる。うぅ……ソウもブランドもの着せようと思ったのに……っ!そっちがいいって……うぐっ。
因みにサングイオスはファウダーに近い剣士風の装束である。
しかし……俺か。
「んー、俺は別にこれでいい」
じゃねぇとクガタチが落ち着かない。
「でもアンタ、クガタチは隠していきなさいよ。邪神だってバレるじゃない」
「はぁ!?女神、お前な!これは俺の一部で」
「邪神だってバレたら囲まれてキナちゃんとソウくんと歩けないわよ!じろじろと見られてキナちゃとソウくんが減るのよ!」
「それはいけない!!」
「いや……見られたくらいで私は減らないと」
「うん……でもキナ、ここはそのままでいいと思うよ」
「……うん、なら」
キナとソウはやっぱりかわいいもんっ!減ったら困るうぅっ!!
さて、全員着替えたところで、キナ、ソウ、サングイオスはファウダーとヴォレルの案内で露店を見て回っている。珍しい異世界の食べ物にも興味津々なようだ。
小遣い程度ならと納得してくれたから、金もヴォレルとファウダーに渡してある。この国の買い物もふたりについて勉強中……だが。
「つーか、何で女神がいんだよ、ここに」
「あら、いいじゃないの。弟が祀られている国に遊びに来ただけよ。私もアンタが遊びに来る時は歓迎してるでしょ」
「女神はな」
そこに暮らす人間どもはともかく……だ。
「私だって、アンタのこと歓迎して欲しいのよ」
「別に俺はこれでいい」
邪神の眷属や信徒たちは俺が邪神じゃなけりゃぁ、その救いのある場所を見出だせなかった。
「アンタを愛してくれる信徒たちがいることも嬉しく思うのよ」
「そうか……」
「あと、私もアレ食べたいわ!」
「何で食い意地張ってんだ」
そうこう話していればキナが俺と女神に串焼きを買って持ってきてくれた。
「さすがは私の選んだ聖女ねっ」
「俺のキナなんだからな?」
「私のキナちゃんでもあるわよ……!」
「こら、喧嘩しないの、ふたりとも」
「……はい」
「うん……っ」
「何で神ふたりして怒られてんだ」
そうは言っても、ファウダーお前な。
「あと、スパイスの店だ」
「あー、目的のか」
そもそもここに来たのはカレー粉が目的だったな。
「カレー、食べるの楽しみだね」
無事にカレー粉を購入できてソウが喜ぶ。
「うん、カレーも楽しみ」
ん……?キナ、カレーも……?キナの考えをちょっくら覗いて……。
「あそこ!あそこに人気のパン屋を見付けたぞ……!」
ヴォレルが叫び、キナがパタパタと駆けていく。
「あ……おい」
「ばあちゃん、シナモンロール好きだから」
……と、サングイオス。あー、確かにアイツ、菓子パンとか好きだもんな。キナも地球にいた頃から好きだった。
「魔帝国の菓子パン、楽しみだわ!」
……お前もかよ、女神。




