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【16】Side:第九席サングイオス



あぁ、兄上……。今行くよ。兄上のために!意気揚々と兄上の神殿の回廊を進んでいれば、ふと見覚えのある少女と目が合う。


「あ……君は……」


「キナです。あなたは……魔帝さま?陛下の方がいいんだろうか」

兄上の寵愛児の娘の方か。


「いや、魔帝でいい。変に敬称をつける必要はない」

「それなら、よかった。……ところでそれ、何かコーヒーみたいな匂いがするね」

寵愛児キナが俺の抱える袋を指差す。


「コーヒー豆だが」


「コーヒー豆?魔帝もコーヒーが好きなの?」


「俺が好きな訳じゃない。兄上の好物だ」

「兄……タツの……?」


「そう、最近は何故か庶民の嗜好品……コーヒーを好んでいると聞いたからだ!それもこれも兄上は寝ても覚めてもシュランガルの毒液シュランガルの毒液!俺の毒液を自ら搾って捧げても、シュランガルの方がたくさん飲んでる……っ!!!」

「いや、その前に毒液って……。タツ、そんなもの飲んで平気なの?」


「寵愛児でも知らないことがあったのか?ふふ、兄上の大の好物は、毒だ。兄上に毒は効果ない。純粋に味を楽しんでいる」

「あー……謎が解けた。タツは苦いものとか、刺激のあるものとか好きだったから。劇物の味を求めてたのか」


「そう……その中でもコーヒーは兄上のお眼鏡に叶う毒以外の代物だ!」

「でもタツは別にコーヒーが好きだった訳じゃないと思うよ」


「……は?」


「眠気覚ましと苦味が欲しいだけだって。そう言う意味ではカフェインとれれば良かったみたいで」

「か……かふぇ……?」


「コーヒーとか、お茶とか」


「……」

「だから特段好物ってわけでも……」


「そん……なっ、ちょ……寵愛児だからって知った風な口をおぉぉっ」

思わず膝から崩れ落ちる。


「……ごめん、悪かった。アンタみたいなエセ笑い面キャラがそこまで崩壊するとは思っていなかったんだ」

「……くぅっ」

寵愛児だからってえぇぇっ!!!


「その代わり、私がタツが好きなとっておきのコーヒーの飲み方を教えてあげる」

「……なん……だとっ!?いいのか!?」

ムカつくやつかと思えばわりといいやつなのか……?


「ん、これもお詫びだと思って。あ……でも、ひとつ足りない材料があるんだ。神殿の黒面さんたちに聞いても分からないみたいで」

「兄上が喜ぶためならば何でも揃えてやろう!」

「……何でも?」


「うむ!」


「じゃぁ……カレー粉が欲しい」

「……は?」

何だ、それは。


「カレー粉……やっぱり、知らない?」

「……いや……もしかしたらこの世界では別の名称ってだけの可能性もある。詳しく説明してみろ」


「ん……カレー粉って言うからには、粉で、色は……茶色っぽい。食べると身体があったかくなるような、スパイシーな匂いがするの。確か……カルダモンとか、シナモン……そう言ったスパイスを組み合わせて作るんだ」

「いや……カルダモンとかシナモンは分かるが……シナモンロールに入っている……粉か?」

確かそう言う菓子パンがあったはず。ばあちゃんは甘いものが好きでよく食べていた気がする。シナモンだけのものが一般的だが、北部ではカルダモンも入れる……とか言っていた。


「近いかもしれないけどだいぶ違う。その他にもたくさんスパイスを入れる。ナンやチャパティで食べると言う手もあるけど……私は米と食べる派」


「米……?米と食べるのならファウダーに聞いてみるか」

「ファウダー?」


「アイツは米好きなんだ。不思議なことに」


「そう言えば……。ここは小麦が主食なんだよね。パンやピザなんかをよく焼いてもらえるよ。でも私とソウのいた国では米もよく食べるから、タツが取り寄せてくれるんだ。その時はファウダーもよく食べてる」


「ふむ……ではファウダーがお前たちと同じ国にいた頃の好物だろうか」

「ファウダー、日本にいたの?」


「……とは言えずっと前の生の話のはずだ。記憶は保持しているようだから、好んでいるのかな」


「ずっと前の生……?ファウダーの年齢から考えて……私たちが生まれるよりもずっと前かな」


「アイツは……今の身体では100年くらい生きている。身体の成長は止まっているがな」

「マジかよ」


「それから、ずっと前の生は……神代……およそ2000年前のはずだ」

「……2000年前の、日本人?」

「まぁ身体は転生してるだろうがな」

さすがにその頃の身体と言うわけではあるまい。


※※※


ファウダーを見つけキナと共に問うてみる。


「カレー粉……?」

「うん。さすがにカレー粉は2000年前は日本になかったと思うけど」


「ニホン……?」

「日本……知らない?ファウダーが神代って時代に日本から召喚されたって聞いたけど。んー……倭国……邪馬台国?」


「あぁ……今のあの国の名か……?あの頃は……奴国と呼ばれていた」


「歴史の授業で習ったような習ってないような名前だけど。お米は……もう伝わっていたの?」

「あったが。今の白米とは違う。精米……と言う概念がなかった時代の話だ」


「スケールが違いすぎ……」

「そうか……そうなるのか。しかし……カレー粉はなかった」


「あったら逆に驚くよ。でもカレー粉やカレーは知ってるんだね」


「エーデルシュタイン王国で食べたことはある。召喚者が好んでいたものだ」


「そっか……ファウダーは2000年前の奴国って頃のひとだけど、今まで日本から召喚されたひとは他にもいるよね。じゃぁエーデルシュタイン王国にはカレー粉があるの?」


「交易都市に行けば手に入ると思うが。もともと、召喚が行われればあの国は王都に仕入れるはずだ」

「でもあそこにはあんまり行きたくないな」


「タツキが許さないだろう?」


「無駄に過保護だからね。……でも、それならエーデルシュタイン王国の交易都市ってところに行くべき?」


「帝国の交易都市に行けばいい。あそこならいろいろなものが手に入る。米も一部で食べられているから」

「それでここでも米が食べられるんだね」


「あぁ、そうだ」

「ファウダー……ちょっと、嬉しそう?米、好きなんだね」

「……別に」

キナの問いにファウダーがそっと顔を背けた。この男も素直じゃないな。いや、ある意味素直なのだが、ただ狂気に満ちているだけ。

似ていると言われるからこそ分かることだ。




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