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【13】蛇の王の主



司法局と言う場所はまさに神殿であったが、ここで祀っているのは姉ではない。


ヴォレルとファウダーが先陣を切り乗り込んだ場所には、やはり拐われ捕らえられていた魔族の娘たちがいた。

幻影魔法は既にソウに解かせているから、ヴォレルはまごうことなき魔族である。


「みんな、私たちは味方だ。彼女たちは人間だが邪神さまの寵愛を得るもの。みなを助けにきた!」

やはりこう言う時はヴォレル。無駄に初代魔帝はしてないな。

ファウダーとソウが生贄たちの拘束を外しつつヴォレルが奴隷呪術を外していく。


「んー、じゃ、ここは任せるわ。状態異常ならキナが治療できるし」

ファウダーやヴォレルがいたとはいえ、こんなに簡単に辿り着けるとはな。バジリスクもいないとなると……逃走用に抱えているのかもな。

なら、恐らくすべての黒幕の最高司祭はあのバジリスクたちを全て集めていることだろう。


「我が主……!」

シュランガルがすかさず飛んでくる。


「ああ、行こうか。俺たちは仕上げ作業だ」


※※※


クガタチを伸ばしながら、裏口に向かい逃走する最高司祭の姿を捉える。


ずいと探湯沼(くがえ)を通して浮上し、最高司祭の前に姿を晒すと最高司祭は驚いたように後ずさる。


「何だ、ひとりだけ逃走か?情っけねぇな」

本気で逃げられると思ったのか。この俺がいるのに……?


「く……っ!あの黒い沼を操る化け物め!」

「あ゛……?黒い沼?探湯沼(くがえ)だっつの」

探湯沼(くがえ)が分からないだなんて……殺します?」

「まぁ待てってシュランガル。かつて同じように探湯沼(くがえ)を模したやからがいた」

「懐かしい思いでですね」

「ああ」

それは俺の呪毒を完璧にコピーできなかったがゆえに古代毒で作られた。

「だが少なくとも探湯沼(くがえ)であると言う自覚があった。神代の知識を流用していても根本的なものを知らない……か」

ま、2000年前のことだしな。


「何をごちゃごちゃと……。だがたったふたりで乗り込んでくるなど終わったな!こちらには魔物がいるんだっ!ほら喰らい尽くせ!バジリスク!」

魔物……か。

司祭がバジリスクを封じた石を空に放てば、毒々しい光と共にバジリスクたちがどどっと溢れ出してくる……!


「主!」

「いい。見てろって」

シュランガルを手で制すれば肩やら腕やら脚に一斉に食らい付いてくる。

「ん……っ。意外と数いんなぁ。こんなに飼いやがって」

どんだけの魔族を贄にするつもりだったんだか。

「主のご趣味は最大限尊重する気ですけど……」

シュランガルが不満げである。

つーか見事にこっちに来たか。シュランガルに行かないのは狩られると分かっているからか。


「は――――――っはっはっ!バジリスクにかかればひとかみで即死!しかもこんなにたくさんのバジリスクに噛まれればぁぁ……っ、貴様、何故毒が効かん……?」

高笑いを決めていた最高司祭がふと真顔になる。


「何でって……俺に毒なんて効くわけねぇだろ」

何せ有罪と見なせば何者もを呪()に苛む探湯沼(くがえ)を持つ邪神だぞ……?

つまりは毒と呪いのプロ。


「こんなの味見味見」

「普通そこから味見するのは稀ですが」

「遺骸とイケるぜ?」


「は……?そんな……お前本当に人間……っ!?しかもどうしてそこの魔族は無傷なんだ!」


「俺が人間ねえ。んなわけねぇだろ」

「蛇を飼っているくせに分からないだなんて……ふふっ。やはり私には主が一番です」

「だろう?お前の自慢の主さまだ」

「けれどあなたの自慢の蛇は不満です」


「分かってるって。さぁて味見はこれくらいでいいかねぇ。シュランガル」

「ええ。主の血肉を食むとは頭が高い」


「何なんだ、何の話を……っ」

最高司祭はふるふると震えている。


「何って……うちのかわいい毒蛇(バジリスク)が構ってほしくてたまらないらしくてなぁ」

今度はバジリスクの逃げる隙も与えない。ここはもう完全に俺の探湯沼(テリトリー)になった。


――――さぁ、暴れろ。


「シュランガル」

閉鎖したフロアを覆う探湯沼(くがえ)が姿をあらわし、そして瞬時に紫色の毒の沼に染まる。


俺に喰らいつくバジリスクたちが気付き、再び逃げようとするがその隙さえ与えずに毒の沼に溶けるように這い出した猛毒蛇(シュランガル)がその一匹に肉を食いちぎるかのような勢いで噛み付くと、次々に毒の沼から湧き立つ毒蛇がバジリスクたちに食らい付いていく。


「私の目の前で主を味見だなんていい度胸です」

シュランガルの目の白目部分は黒く反転し、口の中に収まりきらない鋭く長い牙でバジリスクに喰らいついている。上半身は背中から蛇の頭を生やすヒトに近い姿だが、下半身は毒の沼広げを波立たせる巨大な蛇体である。まあ俺も味見してたけど?


「主の一番の好物は私のだと思い知らせてやりましょうかねぇ?」

『ギエエェェェェェッ』

絶叫しながらも逃げようと暴れるバジリスクたちだが。即座にシュランガルの背中の皮を破り出る毒蛇が加わり断末魔の悲鳴を上げる。


「嫉妬してんのか?シュランガル」

「ふ……ふふふっ」

そして逃げ出す力も奪われ動かなくなったバジリスクたちを乱暴に口から投げ捨て、嫉妬に狂い毒蛇に食いちぎらせながらほかのバジリスクたちと共に毒の沼に引きずり込んでいく。


「お前、そんなに妬いたの?」

「目の前でおあずけを食らったのですから当然ですよ」

バジリスクを毒の沼に呑み込んだシュランガルを見れば、まるで傅くようにとぐろを巻き今度は俺を見上げてくる。そして次の瞬間ニタァァッと口角を吊り上げ、毒々しい赤い蛇の舌をなめずってくる。


「アァ……旨い……美味しぃぃっ!!!邪神さまに触れる不敬な血肉どもがぁっ!!」

「お前、ほんと昔から俺のこと大好きだよな」

まぁ、知ってたが。指で顎をくいと上げれば愉悦に満ちた笑みを浮かべ、上唇から覗く牙から毒液を滴らせながら舌で擦り付けてくる。


「アレも……、喰ってイイ……?」

シュランガルがすっかり背景となりつつあった最高司祭を振り返る。

最高司祭の回りにだけは毒の沼ではなく俺の探湯沼(くがえ)だけが満ちている。


「終わったらな?」

こればかりは俺の役目だかんな。

そして最高司祭を悲鳴を上げる隙さえ作らずに後ろから探湯沼(くがえ)に引きずり込んだ。


逃れられるはずもない。対策も準備もバッチリである。ここには俺たちふたりだけ。

ただでさえバジリスクがいたし万が一シュランガルの毒が跳ねでもしたら大変だからな……?シュランガルの猛毒は一滴浴びただけでも、普通の人間相手なら致死を通り越し溶解である。


呪毒にまみれ審判が下された最高司祭だったものを探湯沼(くがえ)から放り投げる。するとシュランガルが愉悦の笑みを浮かべながら蛇体をしならせ呪毒にまみれたそれに食い付く。

探湯沼(くがえ)は完全にシュランガルの毒の沼と混ざり合う。

そしてバジリスクたちの死骸に群がる毒蛇たちをクガタチで愛でつつも。


「俺の信徒に手を出した以上はそのまま楽に呪毒に苛まれるとは思うなよ……?」

ニタリとほくそ笑む。


「刻んだ呪毒は生きているうちに贖えるとは限らない。その場合は肉体が朽ちて魂になり冥界に堕ちてもなお、刑期を終えるまで解放されることはない」

冥界では冥界で別に裁判やら刑があるから二重に施されることになる。

裁きの神の呪毒に苛まれたとしても、刑が軽くなることはない。むしろその咎を負って堕ちた罪で重くなる。


「まぁ己の欲のために信徒たちをいたずらに殺し、苛んだやからの最期など知ったことではないが」

「アァ……邪神さまのおぉぉっ!!ギャはハハハッ!邪神さまの毒の味ぃっ!旨い、ウマイっ、旨いいいぃぃっ!!」

ふむ……久々の俺からの獲物にシュランガルが蛇体を毒の沼の中で暴れさせながら歓喜してる。

あの呪毒はかかった本人にしか効果はないが、味はするらしいからな。もっともシュランガルが言うには……だ。


ピチャリッ


「ん、跳ねた」

毒の沼の飛沫が頬に跳ねてくる。


するりと指で掬いとりちゅぷりと口に含めば。


「ん、久々のシュランガルの毒……やっぱ(うめ)ぇ」

「でしょう?やっぱり私の毒が一番のお気に入りですよね?」

シュランガルはするりと蛇体を俺に絡めてニタリ、と笑んだ。


※※※


――――その後、タルティオス司法国は魔帝国軍及び魔帝の前に屈服した。

サングイオス、お前話し合うっつってなかったっけ……?


あぁ……おこぼれ残ってなかったからか。


「シュランガル、サングイオスまで相当不満だったらしいな」

うちのやつらは欲求不満が過ぎる。


「よいではないですか。事前に邪神さまの血を飲んでおりましたし」

シュランガルはそれを根に持っていたらしい。それから俺に噛み付いたバジリスクたちにも……。


しかしながらタルティオス司法国は人間の国であり、女神の信徒の国。

タルティオス司法国は当然のごとくエーデルシュタイン王国に助けを求めた。


エーデルシュタイン王国は魔帝国との交渉を引き受けたがそれには条件があった。


――――タルティオス司法国の罪の公表とタルティオス司法国がこれからはしっかりと本物の女神を祀り、二度と女神の名を騙り裁きを行わないこと。


さすれば再び女神の守護を受けられるであろうと。


女神もその沙汰には賛成し自身の神殿の管理をしっかりするように求めた。


「そう言えばあの国、毒蛇を女神の代わりに祀っていたのですね」

「そうそう、そう言うこと」

女神に罪を問うと言いながらあれらがその罪を問わせていたのはバジリスクである。

そしてその光景を民衆は嬉々として盛り立てていた。だからこそ信仰の対象は女神から移ってしまっていた。

魔帝国からの圧力、エーデルシュタイン王国からの助けるための見返り、それから首都を襲った恐怖の闇の沼。


反省してくれればいいがしなければ再び裁きを問うだけだ。


「どれだけ時が経っても変わりはしない」

シュランガルが嘲笑するように吐き捨てる。


「別に俺は役目が果たせればそれでいいし、お前が俺のもんならそれでよくねぇ?」

ニヤリと笑んでやれば、シュランガルが跪く。


「はぁ、はぁ……あぁ……邪神さま。我が主」

そして恍惚とした表情を浮かべるのも、変わりはしない。




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