【12】タルティオス司法国
魔帝国からタルティオス司法国への道のりももちろん女神の神殿である。姉弟神でもあるし、女神からは許可を得ている。だから探湯沼で一気に移動できる。
「女神の気が弱まっているとは言えやはり女神の加護もちのキナとソウがいれば安定する」
「うん、私たちもちゃんと役に立ててる」
「当たり前だろ?」
キナの髪を撫でてやれば……着いたようだ。ここの女神の神殿はひっそりと、寂れるように建つ。
「首都の神殿なのにな」
「この国では政府のある城……と呼ばれる司法局が神殿を兼ねているようですね」
ヴォレルが遠くに見える背の高い建物を示す。
「ふぅん……?だとしても女神が首都の神殿だと見なしている場所以外を神殿とするたぁ……」
やっぱりここでもあそこで祀っているものが違うのだろう。
「あ、それとヴォレル、シュランガル」
「はい、邪神さま」
「早速蹂躙でしょうか。お任せください」
いや、まだ任せてねぇから。
「角、一応隠しとけ」
隣国とは言え魔族を拐う国だ。ふたりに関しては世界の異物とされるくらいの危険度だが、騒ぎになるかもしれないしな。
『むー……』
魔族の象徴である角を隠すのには不満げであったが……。
「ソウ、幻影魔法で隠してみてくれ」
「寵愛児さまの魔法の練習も兼ねているのでしたら」
ヴォレルが笑顔で頷く。本来このふたりに魔法をかけることは不可能にも近いがソウのスペックと俺の寵愛、そしてふたりが受け入れるのなら可能である。
「魔法を使うならこれがいい」
これは神杖と呼ばれる。ファウダーの持っている俺の特製神剣の杖バージョンである。
いつもの基礎魔法よりもこのふたりにかけるのなら魔法が安定し、そして補助できる俺の守護付きの杖があった方がいい。
「ありがとう、タツ」
やっぱかわいいな、ソウは~~。頭なでなで。
「幻影魔法は……」
後はファウダーがソウに指示し、呪文を唱える。
「幻影」
ソウがそう唱えると、杖が輝きふたりの角を幻影で隠す。
「わぁ、すごい」
「こちらこそ。さすがです」
ヴォレルが頷き、シュランガルもこくんと頷く。
「でもあんまはしゃぎすぎるとすぐ外れるからな」
しかしそれを聞いて顔を見合わせるふたり。俺がバレたときのスリルの方が好きだと知っている顔である。
「まぁ、外れたその時はどのくらいで解ける魔法なのかがわかる」
「ファウダー、ポジティブ。でもそうかも」
ソウもソウでポジティブと言うか、何と言うか。
※※※
司法局に続く道すがら、なにやら人だかりが見えてくる。
「ほう……?早速見付けるとは幸先がいい」
「タツ、言い方」
キナに注意される。うぐっ。でもキナは何言ったってかわいい。
『この女魔族は女神に仇なす邪信徒!その罪を今ここに量らん!』
広場の中央に高く吊り下げられる魔族の少女の下には巨大な釜がある。そしてそれを見下ろすように祭服の男が両手を挙げて叫ぶ。
さらには拍手を贈る祭服を着込む連中に雄叫びを上げて喜ぶ司法国の民。
人間によって無理矢理女神の信徒から切り離され、そやつらが邪神と見なした裁神に縋るしかなかった彼女らに罪などあろうか。否、創世神はそうは見なさなかった。彼女ら魔族をこの世界の住民とし、そして邪神への信仰の自由を認めたのだ。
『さぁ、この司法国の最高司祭であるこの私が女神にこの者の罪を問おう!そして有罪となった時、この者に正義の裁きを……っ!』
そう言って司祭が釜の中に投げ入れた石は釜に当たり咆哮を上げながら姿を現した。あれは魔物を封じ、使役するためのものか。
「あれ……何?」
キナたちは初めてだもんなぁ?あれは……。
「毒蛇ですよ」
シュランガルが薄く笑む。
『さぁ、女神よ!この者の罪を量れええぇぇぇっ!!!』
猿轡を嵌められた少女が言葉にならない悲鳴を上げる。そしてバジリスクの巨大な牙が下から迫りくる……っ!
「タツ……っ!」
「寵愛児さま、ここは」
キナとソウをヴォレルが下がらせる。それでいい。そしてシュランガルがギリと目を光らせれば、バジリスクがまるで天敵よりも厄介で恐ろしいものに見付かったかのように固まる。そして石に戻っていく。
「ファウダー」
「あぁ」
神剣を抜き、ひゅんと跳び上がったファウダーが無数の命と毒を食らってきた大釜を一刀両断する。
俺の守護を込めた神剣でもなければ毒で溶けてしまうだろうな?
あの大釜もバジリスクの毒に耐えうる特別製だったのだろうが……探湯沼に沈めば同じこと。
あとファウダーも毒はほぼ効かないからどこに毒が残っていようと平気だが、再びサッと跳び上がる。
その瞬間……。
「溶かしておけ、あれはいらない」
「御意」
シュランガルが頷けば、探湯沼の中に紫の沼が湧き沼底に引きずり込む。
そして難なく吊り下げられていた少女の縄を切りこちらに連れ帰ってきたのでそれでいい。
「さてお前ら。女神の名を騙り、神の真似事をした以上は覚悟しろよ。本物の探湯沼はこうして使うんだよ……っ!」
広場全体に一気に探湯沼を行き渡らせて、罪人どもをクガタチが引きずり込む……!
この偽物の神明裁判に荷担した神官どもも、神明裁判と称して信徒を殺すことを喜んだお前たちも。全て、全て、全て……。
「堕ちろ」
本物の神の裁きを。
「裁きの神の名も、顔も知らぬ愚かな人間ども。司法だなどと語るのはおこがましいわっ!」
ずどんと沸き上がる探湯沼に呑まれ、悲鳴が轟く。
その中には呪毒にまみれるものもいる。
だがそれも……お前たちの罪。
負うべき咎。
たとえそれを邪神と呼ぼうとも。
女神に救いを乞おうとも。
「お前たちが女神と呼ぶのは誰だろうな……?」
それは、誰だ……?
探湯沼が地に沈みながら罪人たちを吐き出せば。大体のことは分かった。
「我が主」
「あぁ、分かってる。シュランガル。わざと逃がしたんだ。恐らくあれだけではないし……あの毒蛇どもをここで捌くにはちょっくら分が悪い。しかし本物の裁きの神の探湯沼を前に、許しを乞う前に逃げるとは呆気ないことだな」
ニカッと嗤えば。
「我が主、少女は寵愛児さまが治療してくださった」
「上出来だヴォレル、それからキナ。奴隷呪術は俺が解く。その者は先に魔帝国に送ってやろう」
そっと指を向ければ、少女の首に刻まれた呪術を難なく解呪すると同時に呪術師に跳ね返す。そしてその身体を探湯沼が呑み込んでいく。
行き先は邪神の神殿。眷属たちが城に連絡を入れ、引き渡すだろう。
「俺たちはこれから司法局に向かう」
彼らが女神と呼ぶ魔の巣くう魔窟にな。




