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【10】邪神の信徒の国



俺は役目をこなせればそれ以外は望まないし、過度な干渉も指示もしない。


「侵略だの何だのは信徒たちの自由だ。魔帝国がそうしたいのなら魔帝の好きにしろ。俺は俺の領域が侵されないのであれば文句は言わん」


「でも……タツ、侵略って……」

「キナの気持ちも分かるが……」

キナとソウは生粋の日本人。【侵略】と聞いて平和であった国の民がどう思うかは……知識として俺の中にある。


ファウダーも初代勇者だったころはそうだったかもしれない。だがこの異世界の住民となってしまったら避けては通れぬ道。


「神が過度に干渉すればろくなことにはならん。俺の信徒の外は女神の信徒の領域。魔神が俺の姉の領域を過度に侵略などしようもんならゲンコツだ」

何より俺の役目は人間や信徒たちを戦わせることではなく裁くことだ。


だからヴォレルも信徒の国・魔帝国の危機でもなけりゃぁ、そんなことは言わんと思うのだが。


「ヴォレル。魔帝国……もしくは信徒たちに何かあったのか?」

「……っ、先ほどは失礼いたしました。そしてその通りにございます」

やはり……か。魔帝や信徒それらを守護する魔神たちが侵略だの何だの言い出すってことはそう言うことだ。


「タルティオス司法国は許しがたきことに、魔族の中でも力なき女子どもを国境付近からさらっているのです」

魔族は基本女も男も強い。しかし例外はある。


「国境付近の守りは?」

「つつがなく」

では何故さらわれた。


「実は邪神さま、さらわれたものたちは邪神さまの信徒と見なされないものたちです」

「……どういう意味だ」


「女神の信徒にも邪神さまの信徒にもなれぬものがおります。邪神さまが不在の中、我々も対処しかねていたところをさらわれました」


「だが魔帝国に住まわせていたのだろう?」

「えぇ。私が住まわせておりました」

それでも見捨てないところはやはりヴォレルだな。そして彼女は魔帝国として、ではなく自らと言わなかっただろうか。


「独断を……申し訳ありません」

「いや、お前らしいだろう」


「……っ」

「それにどの種族だなどと関係ない。俺の信徒となるのなら」

そもそも魔族も元は人間だ。それを人間ではないものにしたのも人間だ。そして創世神はそれらを【魔族】とすることを決め、この世界に在ることを許した。


だが俺を選んだのは魔族自身。それを強制するような教えはない。


「そこに住んでいたものたちは恐らく間の子であろう」

「はい。魔族と人間の間の子たち、それからその親族たち。間の子も邪神さまの信徒であり、邪神さまの名代としてギフトも行き渡らせております」

俺の留守の間、役目は眷属神の魔神たちに任せていた。ヴォレルは創世神や俺の教えに背かずやってくれていたようだな。


「ですが魔帝国では彼らを魔族の中に組み込むかを決めかねている状態です」

邪神の名代がギフトを授け邪神の信徒と認めたのにか?


「ならいっちょ、魔帝のところに行ってやる」

「過度な干渉はしないんじゃなかったの?タツ」

キナが俺の袖をきゅっと引っ張ってくる。何それかわいい。


「干渉ではねぇよ。これはただ領域を違えたことを説教しに行くだけだ」

尤もこれは信徒だからこそ。俺の加護をやったからこその特別なサービスである。


俺は人差し指と親指で輪っかを作り、ニヤリと笑んだ。


「……オッケーマーク?」

キナが呟く。いや確かにこれは似てるが……。


「あれはお説教を示す象徴のようなものですね」

シュランガルが告げれば。

「へぇ……」

真似してみるキナが……かわえぇっ!!


※※※


――――魔帝国城


邪神神殿より低地をぐるりと囲うのは魔神十柱の神殿。そこからさらに下、けれど市井からすれば充分に雲の上にある。


「久々だがあまり変わっていないな」

魔帝国城に移動する際は魔帝国城の内部にある祈りの間に探湯沼(くがえ)を介して移動する。

その内装は女神の祈りの間とはさして変わらない。


「さすがに十数年では変わるまい。女神の主神殿の宮殿じゃぁあるまいし」

ファウダーの答えにヴォレルがキッと睨む。

「ひとりだけ抜け駆けして女神さまの主神殿デートだなんてっ。私だって邪神さまと……っ」

「まあまあ、今は一緒でしょう」

悔しがるヴォレルをシュランガルが宥める。


「けど……邪神さま」

「……あのなあ、つかデートじゃねぇよ。しかもファウダーとにすんな。キナやヴォレルとならともかく……その前に姉ちゃんの家でデートなんて嫌だ」

「そう考えれば斬新だよね」

「ちょっとソウ。それ普通に彼女から煙たがれるデートスポット」

ソウの言葉にキナがツッコむ。姉ちゃんの神殿では絶対デートはやめておこう。と言うかデートに来る場所じゃねえ。あそこは祈るための場所だ。


女神の主神殿も増設された部分をまるごと崩し、改築することで静謐な祈りの場に戻るだろう。


「さてと……魔帝は何処にいる?」

「確認して参りました。大会議室にいるようです」

さすがはシュランガル、早いな。

しかし大会議室か。邪神神殿は住まいだから分かるが、魔帝国城まではそんなに覚えていない。クガタチを行き渡らせれば済むが。


「それはこちらに」

さらにシュランガルが先導してくれるようだ。

コイツは相変わらず表面はしっかりしてるよなぁ。そう、表面だけは。キナとソウもお前をまともキャラ認定しつつあるぞ。


魔帝城を歩めばキナとソウをちらほらと見る目もあるが、近付いては来ない。このクガタチと眷属たちも一緒だからな。


でもさりげなくキナとソウをクガタチでひとめに触れさせないようにしていれば、キナにしゅぱっとクガタチを掴まれる。

「わっ!?」

びっくりした。

「タツ、さっきから何してるの?」


「いや、だってっ!じろじろ見られたくねぇ」

キナとソウが減る気がするぅっ!


「別に私はいいよ。ソウも」

「うん、別にその……タツが一緒なんだから」

きゅぅんっ。何このかわいい双子……っ!やっぱり一生探湯沼(くがえ)の中に閉じ込めて愛でたい……っ!でもキナに怒られそうなのも分かる!!だが、せめて……っ!


「やっぱり覆い尽くす~~」

そしてクガタチで造られる壁が沸き立つように聳え……。


「おい、タツキ。もう魔帝の元に着くぞ」

とおもむろにファウダーが告げてくる。

む……?


「タツ、これはいいから。周り見れないし」

キナに手で払われるクガタチ。……うぐっ。そうされればクガタチもしゅんと探湯沼(くがえ)に戻るしかない。しかしここに来たのも目的があるわけで。


「これはヴォレルさま。そちらは?」

「只今魔帝さまは会議中でして……」

「問題ないわ。我が主と寵愛児を連れてきただけよ。魔帝城に勤めているのならばあのクガタチの意味が分からないはずはないでしょう?」

「は……っ、もちろんです!」

ヴォレルの言葉に魔帝の間の門番たちは恐縮しながらも荘厳な扉を開く。


そしてその瞬間、魔帝の間の入り口に向けて勢いよく駆けてくる影を捉えた。


「兄上えええぇぇぇ――――――――っ!」

「うわっと」

俺の姿が見えた途端飛び付いてくるたぁ……。つうか会議じゃなけりゃぁ城についた途端に飛び付いてきてもおかしくはなかったな。



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