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【9】邪神の眷属神



女神はほかの仕事に赴いたが俺たちは情報収集である。神殿の一郭に用意されていたのは中世の古城のサロンのような空間。


「こんなところがあるんだ。すごいね、神殿って」

キナが目を輝かせてる。

「神殿を造った時に女神の神殿を参考にしたんだが。あっちにもあったからと特に気にすることなく造るだけ造って放置していたんだよな」


「造ったって……そう簡単にできるものなの?」

「神の力がありゃぁな」

地球だと人間が造っているがこちらでは神自身が造っていることも不思議じゃない。


「ここは女神の神殿では神官たちが信徒を招いて女神のお茶会と呼ばれる催しをする場所だ」

気が向けば女神がこそっと姿を現すかもしれないと女神の席を空席にして茶会は催される。

昔は何のためにやってることか知らなかったし俺は興味もなかった。


「そんな場所に……いいの?」

「俺の神殿だからな。どう使おうと自由。ほら、好きなところに掛けな」

「うん!」

キナが喜んでいるから造って良かったと今では思う。

女神の神殿で女神が腰かける席は……女神がいれば譲るが、邪神の神殿である以上は俺の席である。

そこにぽすんと腰かければキナとソウが自然な所作で左右に座ってくる。何これかわいすぎない?2人の様子を微笑ましく眺めていれば眷属たちが茶菓子を用意し始める。


「2人は紅茶でいいか?」


「うん、いいよ」

「俺も」


「分かった。俺はコーヒーで。ブラックでいい」

そう眷属に告げれば一瞬ピタッと固まる。そんなに意外だったか……?確かにこちらの世界で好んで飲んでいたものとは色が違うし2人の前で飲むわけにはいかない。さらに言えばアレを汲みにいけるのは俺だけだったから。


「ひょっとして用意がないか?」

こちらの世界では王族や貴族などの金持ちは紅茶が一般的、コーヒーは庶民の飲み物と言う意識が高い。


「なら紅茶でもいいが」

「……いえ、ご用意いたします」

眷属ご静かに答え、てきぱきとコーヒーを淹れて戻ってきた。うん。地球で慣れた味だとはいえこれはこれでいいな。


「ファウダーは座らないの?」

そしてふと、キナが紅茶を口にしつつもファウダーを見上げる。席はまだまだある。ファウダーなら慇懃無礼に座ってくるのも常なのだが、どうしてか席から少し離れた場所に立っている。


「俺はいい。やることがある」

「……やること?」

キナは首を傾げる。


「まぁ、いいんだ。キナ。これはいつものことだ」

そう、いつものこと。


「いつものことって……」

「見ていれば分かる」

フッと微笑めばタイミングがいい。眷属たちによって扉が開かれると2人の男女が現れる。


ひとりはシルバーブロンドを背に靡かせ、赤い双眸を持つ美少女である。見た目は10代後半だが古代魔族が造られた時から生きている。そして魔族の血を引くことを象徴する、頭から伸びる黒く歪んだ2本の魔族角。


続いて少女よりも背の高い青年は少女よりも見た目年齢は高く、20代前半である。これは【完成】して成長が止まった年齢が彼の方が幾分遅かったからだ。しかし彼も1000年と言う悠久の時代を生きている。

髪は茶、瞳は少女と同じ赤で、同じく黒い魔族角が頭から伸びている。


そして2柱(ふたり)とも胸元には天秤を模したシンボルがある。


「邪神さまの召喚により、この魔神第一席ヴォレルが馳せ参じました。我が主」

そう滑らかに言葉を紡いだシルバーブロンドの髪の美少女こそ俺が最初に眷属神として創世神に推薦した一柱。

そして創世神は彼女を俺の眷属神として神に召し上げた。


「同じく第二席シュランガル、参上いたしました。邪神さま」

隣の青年シュランガルは第二席。2番目に眷属神に推薦し、創世神に認められた魔神である。


「もっと恐そうなひとを想像してた」

「そうなのか?ソウ」

魔族角は恐くはないのか。いや、地球のメディアで見慣れていたからか、それともそのスキルのお陰か。


いや……本質的な問題かもしれない。いくら恐怖耐性や混乱耐性があったとしても実際に彼女らをどう思うかはソウ次第なのだから。


しかし本番はこれからだ。

それを裏付けるようについさっきまでそこにいたヴォレルの姿がフッと消える。

正確には目にも止まらぬ神業で迫ったのだ。


――――どこに?


それは……。


ゴォンッ


一瞬空気が振動し、コーヒーカップの中に波が立つ。

それでも衝撃は弱めているのだろう。邪神(あるじ)の前だから。


しかしヴォレルはと言えば白目を探湯沼(くがえ)のごとき闇色に染めら美しい顔を歪ませた。


「貴様ァッ!!ファウダあぁぁぁぁっ!邪神さまが異界より帰還され、我々が邪神さまに喚ばれるのを静かに待っていたというに!貴様はまた抜け駆けをしよってえええぇぇっ!!」

第一席は怒号を散らしながらファウダーに拳を突き出し、一方のファウダーは涼しい顔でその拳を素手で受け止めていた。

ファウダーがレベル1000な上に2つの神のギフトを持つお陰で通常の物理・魔法攻撃が一切効かない。アイツをバラすも組み立てるも自由なのは邪神の俺くらいだろう。


念のため解説しておくがヴォレルが力を抑えた状態でもあの一撃は普通の人間なら身体ごと吹き飛ぶものである。


「その、タツ!?喧嘩?」

「大丈夫だよ、キナ」

突然のことでキナがびっくりしつつもヴォレルを見るが、その顔には恐怖や嫌悪はない。ソウなんて順応性が秀ですぎていて普通に紅茶を啜りながら眺めていた。残念勇者ファウダーがまたなんかやったんだと静観してるんだろうな。


――――しかし本題もあるわけだし。


「ヴォレル、そこまでにしておけ」

「しかし邪神さまぁっ」

ヴォレルがファウダーの手に拳を押し付けたままこちらを涙目で見る。

「そんなに悔しかったのか……?」

まぁ他の魔神たちは俺が喚ぶまでただ静観したとしても、探湯沼(くがえ)の味見をしてきたとしてもいいこで待てる。


それら全てを無視して変態顔を拝ませてくるのはファウダーくらいだな。しかし記憶が混濁していたあの時はファウダーがいてくれて助かった面もある。


「仕方ないだろう?いきなりお前たちを喚んだら、下手したらエーデルシュタイン王国に喧嘩吹っ掛けてただろうし」

「当然です!我々の邪神さまをおおぉっ」

ほらな?


「落ち着け、ヴォレル。お前たちにも席を用意したんだから席に着け」

「は……席っ!?」

ヴォレルが驚いたように空席の椅子を見る。落ち着いた様子でこちらまでやって来たシュランガルも同様にだ。


今まではシュランガルを椅子代わりやベッド代わりにしたり第三席を脚置き代わりにしたりすると言う適当さだったからか?


しかしここでシュランガルを椅子にするとなるとキナとソウに座らせるにしてはゴツゴツしているからな。


そしてファウダーは何の迷いもなく椅子に腰かける。コイツは元々こんなヤツである。それでこそファウダーだが。そしてファウダーを羨ましげに睨むヴォレル。


「お前たちにも茶菓子を用意したんだぞ?」

ささっと紅茶をいれヴォレルの席に出すのは眷属。そしてシュランガルの席にはコーヒーを。


「そ……それならば失礼します」

魔神となれば食事は特段必要もないが、味覚が戻ったヴォレルは昔から甘いものを好んだな。


シュランガルが椅子の背もたれをひくと、ヴォレルがサッと腰かけ、続いてその隣にシュランガルも腰かける。


「さて。無事に還ってきたことだし……」

キナとソウも取り戻して落ち着いたわけだしな。


「お前たち魔神十席もイイコにできるならこちらに来ていいぞ」

それまでは各魔神はそれぞれの神殿で務めを果たしてきただろう。違うところにいるやつも一部いるが。そいつらもそいつらで役目を果たしてきたことだろう。


「ありがたき幸せ」

ヴォレルがにこりと微笑む。そしてその命は俺の留守を預かっていたヴォレルから木の根を伸ばすようにほかの魔神たちにも行き渡ることだろう。


「そして今回お前たちをここに喚んだのは聞きたいことがあるからだ」


「邪神さまが自らでございますか?この第一席ヴォレル、邪神さまのためならば何でもお答えいたしましょう」

「え、そうなの?じゃぁお前何カップ?」

あの魔乳女神よりはボリュームは劣るものの……それでも迫力ありすぎるデカ乳である。


「はい、邪神さま!私は……っ」

ヴォレルが言いかけた時だった。


「タツ、変なこと聞かない!」

キナにピシャリと怒られる。

「第一席さんも、答えなくていいから!」

キナがヴォレルを見て告げる。


「しかし……邪神さまの寵愛児さまと言えど……」

コイツらは俺の眷属神だから無論俺の寵愛や加護を受けるものも判別できる。そしてヴォレルとシュランガルならば弁えるだろう。


「いや、冗談だから別に答えんでいい」

「はいっ!?」

ヴォレルがぽかんと口を開ける。そういや今にして思えばヴォレルはその生い立ちゆえか表情が豊かだ。そりゃぁ女帝であった頃の顔はらしい顔をしていたかもしれないが。

今は引退した身。そして邪神()に対してはいつの時代も構わず本性剥き出しに涎だらだらだが……。そう言う顔もするのは地球にいたからこその発見だ。


「冗談でも聞くな」

ムッとしながらこちらを見てくるキナもなかなか愛らしい。そう感じるからこそなのだろう。

「悪かったって」

キナの頭をわしゃわしゃすれば、改めてヴォレルとシュランガルを見る。


「俺が聞きたいのはタルティオス司法国のことだ」

その名を聞いた途端ヴォレルがカッと目を見開く。


「分かりました邪神さま!侵略でございますね!!私1柱(ひとり)でも斬り込む所存でございます!!」

「……いや、全く分かってねぇから」

血の気が多いところは相変わらずだ。



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