#5 歪曲、又は異変
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教室の空気が、妙に張りつめていた。その原因が何なのかは、誰の目にも明らかだった。
仇岡。
いつものように席に座ってはいる。だが、その姿勢が少しおかしい。背筋が真っすぐすぎるのだ。板のように。そして、顔。無表情、と言うよりも、「表情の作り方」を忘れたような顔をしていた。
直木は授業中、ちらりと横目で見た。仇岡はノートを開いている。だが、ページの端に鉛筆の先を当てたまま、微動だにしない。黒板のチョークの音が鳴るたび、仇岡の指がわずかに反応する。まるでその音が脳のどこかを直接叩いているかのように。
「……おい、仇岡」
休み時間、直木は思わず声をかけた。
反応がない。仇岡は、ゆっくりと視線だけをこちらに向けた。目の焦点が合っていない。黒目が、すこし揺れている。
「お前、昨日の……あれ、覚えてるか?」
言ってから、直木は後悔した。"昨日"。あの一件を、迂闊に口に出すべきではなかった。
次の瞬間、仇岡は立ち上がった。椅子がガタン、と音を立て、クラス中の視線が集まる。仇岡の手が机の端を掴み、白くなるほど力がこもっていた。その目が、真っ直ぐ直木を射抜いている。
「……あのことは、イウナ」
声はかすれていた。狂ったような響きがあった。
「いや、別に詮索はしないけどな……」
言いかけた直木の言葉を遮るように、仇岡の手がピクリと震える。
そして、次の瞬間。教室の空気が破裂した。
バンッッ!!
仇岡が机を叩いたのだ。チョークの粉が宙を舞い、誰かの悲鳴が上がった。
「……なんで、言うんだよ……!!」
その声は、怒りではなかった。恐怖。いや、“何かに怯える者”のそれだった。直木は慌てて駆け寄る。「仇岡、落ち着け!!」
だが、仇岡は一瞬で静まった。何事もなかったかのように席へ戻り、再びノートを開く。
その横顔に、もう感情の影はなかった。
直木は、その瞬間、気づいてしまった。
仇岡の首筋。うっすらと、そこに何か、黒い痣のような模様が浮かんでいることに。
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