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名札警察チェイスチェイス-名札無き疾走-  作者: あきら810%
第一章 名札、嘲笑、そして酩酊
12/12

#12 裏切り

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直木は、屋上で見た黒い波の余韻を引きずったまま、翌朝の監査局に戻った。

自分の胸の奥で、理由のわからない不安がゆっくり膨らんでいた。

仇岡は依然として昏睡状態だった。

医務課の技官たちは、彼の脳波の乱れを見つめ、黙々と数値を記録し続けていたが、

昨夜とは明らかに違う異常値が跳ね上がっていた。

脳波の一部が、他の"誰か"の波形と同期を始めている。

だがそれが人間ではないことは、数値の歪みにすぐ気付けた。

直木はモニターに手を伸ばす。

微弱な音声が混じり始めていた。

まるで砂嵐の奥から、誰かが囁きかけてくるようだった。

「……なお……き……」

耳ではなく、頭の中に響く声。

直木は反射的に振り返るが、誰もいない。

仇岡の脳波が、その瞬間だけ人間の形を取った。

そこに浮かんだのは、まるで助けを求める手のような波形だった。

「仇岡……聞こえるのか?」

問いかけると、ノイズが急速に強まり、警報が赤く点滅する。

医務課員が飛び込んできた。

「直木さん、ここは立入禁止です!」

彼らは端末を操作し、仇岡を隔離層のさらに奥、

"第2封鎖階層"へ移送する準備を始める。

「なぜ隔離層に?」

問いただす直木に、技官は言いづらそうに答えた。

「……対象の脳波が、誰か別の局職員の記録と一致しました」

その職員の名前を聞いた瞬間、直木の背筋が冷えた。

一致した波形は――桐島監査局長のものだった。

桐島の脳波がなぜ仇岡に?

二人に接点などないはずだ。

直木の心臓がどくり、と重く跳ねた。

昨夜の匿名メッセージが蘇る。

「異相は内部にいる」

仇岡が移送用カプセルに収められると、

直木の端末が震えた。

またも差出人不明。

表示された一文は短かった。

「境界層を調べろ。第2封鎖階層では"消されるぞ"。」

直木はその場を飛び出した。

向かったのは地下資料庫。

監査局の誰もが触れたがらない古文書アーカイブがある場所だった。

そこには、かつての監査局が封じた"異相事件の黒歴史"が眠っている。

埃まみれの棚の奥、禁帯資料の区画。

直木は一冊の記録簿を見つけた。

「境界層干渉実験:主任研究者 桐島篤臣」

その記述を見た瞬間、直木は悟った。

――桐島は既に知っている。

――仇岡の異常は"過去の実験の再現"。

――そして、局長自身も境界に触れている。

直木は拳を握りしめた。

「もう命令には従えない」

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