#12 裏切り
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直木は、屋上で見た黒い波の余韻を引きずったまま、翌朝の監査局に戻った。
自分の胸の奥で、理由のわからない不安がゆっくり膨らんでいた。
仇岡は依然として昏睡状態だった。
医務課の技官たちは、彼の脳波の乱れを見つめ、黙々と数値を記録し続けていたが、
昨夜とは明らかに違う異常値が跳ね上がっていた。
脳波の一部が、他の"誰か"の波形と同期を始めている。
だがそれが人間ではないことは、数値の歪みにすぐ気付けた。
直木はモニターに手を伸ばす。
微弱な音声が混じり始めていた。
まるで砂嵐の奥から、誰かが囁きかけてくるようだった。
「……なお……き……」
耳ではなく、頭の中に響く声。
直木は反射的に振り返るが、誰もいない。
仇岡の脳波が、その瞬間だけ人間の形を取った。
そこに浮かんだのは、まるで助けを求める手のような波形だった。
「仇岡……聞こえるのか?」
問いかけると、ノイズが急速に強まり、警報が赤く点滅する。
医務課員が飛び込んできた。
「直木さん、ここは立入禁止です!」
彼らは端末を操作し、仇岡を隔離層のさらに奥、
"第2封鎖階層"へ移送する準備を始める。
「なぜ隔離層に?」
問いただす直木に、技官は言いづらそうに答えた。
「……対象の脳波が、誰か別の局職員の記録と一致しました」
その職員の名前を聞いた瞬間、直木の背筋が冷えた。
一致した波形は――桐島監査局長のものだった。
桐島の脳波がなぜ仇岡に?
二人に接点などないはずだ。
直木の心臓がどくり、と重く跳ねた。
昨夜の匿名メッセージが蘇る。
「異相は内部にいる」
仇岡が移送用カプセルに収められると、
直木の端末が震えた。
またも差出人不明。
表示された一文は短かった。
「境界層を調べろ。第2封鎖階層では"消されるぞ"。」
直木はその場を飛び出した。
向かったのは地下資料庫。
監査局の誰もが触れたがらない古文書アーカイブがある場所だった。
そこには、かつての監査局が封じた"異相事件の黒歴史"が眠っている。
埃まみれの棚の奥、禁帯資料の区画。
直木は一冊の記録簿を見つけた。
「境界層干渉実験:主任研究者 桐島篤臣」
その記述を見た瞬間、直木は悟った。
――桐島は既に知っている。
――仇岡の異常は"過去の実験の再現"。
――そして、局長自身も境界に触れている。
直木は拳を握りしめた。
「もう命令には従えない」
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