#10 断層と牙
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放課後のグラウンドに、奇妙な風が吹いていた。
体育館裏から聞こえるざらついた音は、まるで砂が擦れ合うようでもあり、金属が軋むようでもあった。
直木は、その音を追って走っていた。
胸の奥で、何かがざわめく。誠実監査局の名札が自動的に点滅する――"対超常干渉行動許可"。
曲がり角を抜けた瞬間、視界が歪んだ。
そこには、仇岡がいた。
だが、それはもはや仇岡ではなかった。
彼の背中から、黒い『糸』のようなものが数十本も伸び、空気を震わせていた。まるで神経をむき出しにした生物のように。
その中心、彼の眼は、深海の底で光る生物のように青白く輝いていた。
「……なお、き……?」
かろうじて人間の声がそこにあった。だが次の瞬間、その口が"裂けた"。
耳鳴りのような金属音とともに、校舎の壁が波打ち、現実がひび割れていく。
それは"空間の断層"――誠実監査局が最も警戒していた現象だった。
直木は左胸の名札を払う。
が青く光り、「EX-レイヤー認証――星痕コード起動」。
次の瞬間、彼の手の甲に薄い光膜が展開し、形を変えた。
刀でも銃でもない、光を纏った“現実干渉器”。
「……悪いな、仇岡。お前を止める」
床が裂ける。黒い糸が襲い掛かる。
直木は跳ねた。
壁を蹴り、空中で反転、干渉器を構える。
衝撃波。風圧。音が追いつかないほどの一瞬。
だが黒い糸は、意思を持つ蛇のように絡みつき、逆に彼の腕を締め上げた。
――思考侵食。
脳内に仇岡の“声”が直接流れ込んでくる。
「なあ直木……俺たちはさ、いったい誰に管理されてるんだろうな……」
直木は息を呑む。
その言葉には、確かに“仇岡本人”の感情が混じっていた。
救いたい。だが止めなければ――。
「仇岡ァァァッ!!!」
直木は名札の干渉機能を解放する。
光が奔流となって走り、断層を裂いた。
空間が白く閃き、世界が一瞬だけ静止する。
そして――
光が消えたとき、仇岡は膝をついていた。
その背から伸びていた黒い糸は、霧のように消えゆく。
だが、直木の手もまた、震えていた。
掌に残るのは、黒い痕跡。
"異相の因子"が、今度は彼の中に侵入し始めていた。
空に鐘の音が響く。
それは放課後の終わりを告げるチャイムではなかった。
誠実監査局の緊急通知――「次段階発生」。
直木は、空を仰いだ。
グラウンドの空は、夕焼けではなく、どす黒く染まりつつあった。
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