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名札警察チェイスチェイス-名札無き疾走-  作者: あきら810%
第一章 名札、嘲笑、そして酩酊
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#1 雨の日の放課後、そして邂逅

新連載です!!!!かなり混沌とした話ですが、もし良ければブックマーク&評価をお願いします!!

 直木 爆士(なおき ばくと)はただ呆然と立ち尽くした。

 あまりの怒りに我を忘れていたのだ。もう十一月だというのに、体が濡れて冷えるのも厭わなかった。直木は中学校の教師であるのだが、生徒に腹が立ってならなかったのだ。

 一時間前。直木は職員室の窓から下校する生徒たちを眺めていた。今日は生憎の雨だが、楽しそうに歩く生徒を見ていると少しばかり気持ちが軽くなる。今日は道徳の授業をしていたら男子生徒がパソコンでゲームをしていたので叱りつけた次第であったので、直木の心は暗く淀んでいたのだが、やはり生徒を見るのはいい。そんなことを思いながらぼんやりとしていた時であった。

 直木は、視界の端に仇岡 夕陽(あだおか ゆうひ)の姿を捉えた。仇岡はかなりの問題児だった。課題は全部AIを使って出してくるし、授業中に寝ることも頻繁にある。さすがの直木も仇岡には少し苦手意識があった。何よりアフロの髪型が気に入らない。中学生なのだからもう少し爽やかな髪型にすればよいのだ。

 そう思いながら仇岡を見ているとなんと衝撃の事実に気がついた。奴は俺の物真似をしているのではないか。窓の外から微かに聞こえてくる声は、完全に直木の口癖をコピーしていた。

「いや、俺が間違ってたらいいんやけどな、そういう不誠実なことはしないで欲しいですね。」

 周りの奴らに笑われて仇岡は調子に乗っている。流石に苛々する。そして、直木はもう一つの重大な事実に気がついた。奴は何故名札をつけていない。

 直木の堪忍袋の緒が切れた。あれほど口を酸っぱくして名札をつけろと言っているのに、学校の外に出たからといって名札をつけないのは不誠実なのではないか。直木は職員室から飛び出した。直木は脚には自信がある。学生の頃は陸上部に入っており、大会でもそこそこ勝ち進んだ経験があるからだ。直木は猛烈な速度で駆け出した。周りの生徒は面食らっているが、気にしない。奴には指導が必要だ。

 「仇岡、仇岡、仇岡ぁ!!」

 その声に気づいた仇岡は慌てて逃げ出した。必死で逃げているが、直木の脚力には及ばない……ように思われた。

 しかし、直木はまたもや重大な事実を見落としていた。仇岡はローラースケートを履いていたのだ。丁度そこは斜面であったから、いくら脚が速くてもローラースケートに敵う(はず)はない。仇岡は生意気な面をこちらに向けて嘲笑うように逃げていった。

 直木は唖然としてただ立っていた。頭の中が真っ白になった。ローラースケートのような姑息な手を使うとはあまりにも不誠実なのではないか。そして名札を着けていないのが一番腹が立つ。阪急百貨店で買ったオーダーメイドのスーツが濡れるのも辞さずに直木は雨の中佇んでいた。

 しばらくして直木は我に返った。直木は自棄になっていた。今日は飲んでやる。そう言えば仕事終わりに里葉先生といっしょに飲みに行く予定があった。そんなことを漠然と思い出しながら直木は愛車のフェラーリに乗り込んだ。三年前に買ったばかりであるが、毎日乗っていると愛着が湧いてきたのである。フェラーリの柔らかい座席に座りシートベルトを締めた。胸元の名札を確認すると少しばかり気持ちが落ち着いた。

 直木は走り出した。アクセルを踏み込み車体が前進する。ここからは、里葉先生と約束をしている居酒屋に向かうつもりだ。あそこの居酒屋は中々安いのだが味はかなり良く、直木は非常に気に入っていた。国道をフェラーリでかっ飛ばすのは妙に爽快感があった。少し窓を開け、風を感じながら走っていると、通称 築山公園が見えてきた。築山公園はその名の通り、中央部に大きな築山を持つ。広くて自然が綺麗な割に人が少なく、直木は時々この公園に来るのだ。フェラーリを公園の脇に止め、公園を歩いていく。こうやって歩いていくだけでも心が浄化される気がする。直木は上を見ながら歩いた。唐紅の夕焼けが美しかった。

 その時だ。何処かから話し声が聞こえた。何だ、先客が居たのか。それにしても、聞き覚えのある声だな、と思いながら声のする方に目を向けて愕然とした。仇岡だ。頭にあの気に入らないアフロが揺れていた。おまけにまた直木の真似をしている。仇岡は癇に障るような声でこう言った。

「えー、犯人探しはしないけどなー……」

直木は頭に来た。そして彼の姿を見てもう一つの事実に気がついた。あいつは莫迦か。あれほど言ったにも関わらず何故名札をつけていない。まさか公園にいるからといって名札を着けなくて良いとでも思っているのか。奴には指導が必要だ。

 「仇岡、仇岡、仇岡ぁ!!」

 その声に気づいた仇岡は慌てて逃げ出した。直木は急いでフェラーリに乗り込んだ。仇岡への距離は少しずつ、だが確実に縮んでいる。必死で逃げているが、直木のフェラーリには及ばない……ように思われた。

 しかし、直木はまたもや重大な事実を見落としていた。仇岡はローラースケートを履いていたのだ。そして、眼の前の道は下り坂であった。いくらフェラーリが速くてもローラースケートに敵う(はず)はない。仇岡は傲岸にもこちらを振り向いて去っていった。あっと言う間に仇岡は見えなくなってしまった。直木は怒りに苛まれた。これ程言っても何故名札を着けないのだ。直木は狭い道を猛スピードで走った。そして築山公園の脇に車を止め、今度こそ自然を見ながら少し安らぐことが出来た。

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