第4話 再会フラッシュバック
フラッシュバック、ついこの間までは怖いイメージしかないんですが、書いたことで少しは怖くないとなりましたが、読んでてもやっぱり怖いイメージ拭えないねぇ…
「わっ…」
未来はいきなり開いたマンションのドアに驚いていた。
初めてではない。僕は知っている。緑髪でツインテール、黒い瞳に左には眼帯。茶色がかった制服を着て、今にも泣き出しそうな顔をして白いスマホを両手で持ったまま立ち尽くしているこの子は同級生の未来だ。
「あのっ…」
未来はスマホを片手に持ち、右手を少し前へ伸ばすが、彼に触れることを躊躇した。
オニオンヘアーの彼は、硬直した。アラームでふるえていたスマホはもう止めたが、足の震えは止まらない。
ここから逃げ出したかった。ぼくはこの子に取り返しのつかないことをした。だから…逃げたい。
右手でドアを開けたまま、手ぶらな左手は自分の左太ももを握る。正確にはダボついた黒いスラックスのしわを握った。
そう、左…左目。
未来を見てられなかった。俯く僕。
握る左手は強くなり、スラックスはより一層、しわが多く長くなる。
そう、君の左目はもう見えない。僕のせいで。
事の発端が起きたのは勿論、今から1ヶ月前の高校入学当時だ。
桜満開の門の前。入学式を前にして、事件は起きた。
「あっれ〜?新入生なのに金髪で登校してるやつがいるなー?」
自分より長身が高い先輩に絡まれてしまった。無理もない、僕の髪は太陽に照らされると、白く輝く金髪だ。目立たない訳がない。
(この地毛は、本当にめんどい…)
僕は目を右にそらし、右手で横髪をいじる。オニオンヘアーの毛先が横に垂れた。
こういう輩は相手しないに限る。横髪をいじるのを止め、僕は無視しようと決意するが、先輩はなかなか通してくれなかった。
「返事ぐらいしたらどうなんだよ?こーはい?…」
嫌な先輩がポケットに手を突っ込みながら、こちらの顔を覗き込む。先輩の髪はいつの時代?の少しツッパリな髪型で左に垂れ、髪半分から毛先だけ金髪だった。僕と同じ地毛ではない。ニヤニヤした顔が見えたが、その顔は少し驚く顔になる。
道ゆく他の生徒が僕たちを避ける中、ある女子高生だけは、僕らの間に割って入ってきた。
「先輩も金髪じゃないですか。校則違反だと言うなら、自分が黒髪にしてから言ってくれます?」
左手をすっと斜め下に伸ばし、右手をぎゅっと胸に握る緑髪の女子高生。小学校から同級生の未来だった。
「それと私も彼も地毛です。」
両目をぱっちりと開き、黒い瞳が映る。
先輩は後ろにのけ反ったが、こちらを指差し、背中を丸め腹を抱えて笑った。
「おまっ、緑…緑と金色、今年の新入生も不良ばっかだなー!ははは!きめぇー」
「気持ち悪いのはあなたの笑い声だけです先輩。行こっ」そう言い返すと、未来は踵を返して、こちらを向いた。
(やばい)
僕はとっさに、そっぽを向いた。目を合わせられない…
「目黒…くん?」
未来は心配そうにこちらを覗き込もうとしたが、先輩の手が未来の肩を掴む。
「そんな黙った玉ねぎは置いといてさ…俺と一緒行こうよ?緑の女子高生さん。割と顔いいじゃん?」
ニヤニヤした先輩の顔が、未来の左からにょきっと現れる。
(こいつ…)
未来は振り解こうとするが、先輩が掴む左手は離れなかった。未来の顔は見えないが、口元では息を吸って叫ぼうとするのが、見えた。
(許さない…お前なんか…)
後先のことを考えるよりも前に、体が動いた。
僕は先輩の胸ぐらを掴み、思いっきり前へ押し出した。
先輩が後ろによろける。
「痛っ」
未来を掴んだ手は離れたが、僕の後ろへバランスを崩して転んだ。ごめん。
「痛ってぇー…おい、後輩」
よろけていた先輩はいつの間にか、目の前にいた。
「調子乗ってんじゃ、ねぇ!」
先輩は腕を構えたか思えば、思いっきり蹴られた。僕も体を横にして身構えたが、正面からの蹴りに横っ腹で受けてしまった。
(んぐっ?!)
吹き飛ぶ。吹き飛ぶ先を見ると、未来が地べたで座り込んでいた。
「みぐ、避け…」
だが、僕の小柄な体は勢いが止まらず、未来に直撃した。
僕は未来の傍で、空を仰ぐように寝転んだ。
(青い空、桜の花…はぁ…)
こんないい天気なのに、何してるんだ。
青い空がみえ、未来が上から見下ろしてきた。緑髪が垂れ、顔が覗けた。あの黒い瞳の両目が見えると思ったら、違った。
右目は涙目だが左目が閉じ…まぶたが真っ赤だ。
真っ赤…まさか…
落ちる、血の雫が僕の頬に落ちる。
血?
「う、わぁぁぁあああ!!」
僕はその場から立ち去った。おぼつかない足を走らせ、教科書の入った鞄も置いていき、入学式も出ずに帰宅した。
玄関の下駄箱前。薄暗い中、息が上がるのを抑えるよう呼吸を整えるが、止まらない。あの表情、シーンが頭に焼きつく。
僕は、頬についた乾いた血を手で拭ったところで、過去から今に戻る。
ドアノブを掴む右手、太ももを握る左手。目の前に眼帯姿をした未来が立っている。あの時の面影が未来と重なる。怖い。でもそんなことを本人に言えるわけがない。好きな人を怖いだなんて…
息が上がる。
心配そうにこちらを見る未来は、声を掛けようとするが、どうしたらいいかわからない様子だった。
困らせたくない、せめて…
俯き、少し呼吸を整える。そして、一言。
「ごめん。帰って…」
バタン。
ゆっくりと扉を閉めた。未来を外に置いて。
私ながら良い出来だと思いました!
やっぱ悪役いると、立つよね…主人公。
いつもながら読んでくれてありがとう。
そしてDECO*27さんに感謝してます!




