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顔見知ラズ

作者: むみょう

この話は会社員であるSさんから聞いた体験談である。


 地方に住んでいたSさんは、大学入学を機に上京し、大手広告会社に新卒で入り、日々目まぐるしく働いていた。

 週6の勤務になることは当たり前。日曜は接待という名の飲み会。

自分の時間等は一切とれず心身共に疲弊していたそうだ。

 そんな会社で3年間も働いたが、そろそろ転職をと考えていたとき、家のポストに高校時代の友達から同窓会の手紙が届いた。

 実家に帰る時間なんかないと分かりつつも何気なく手紙に目を通すと、開催場所が都心であることを知った。また、奇跡的にも仕事の休みと重なったこともあり、同窓会には出席することを即効で決めたそうだ。



高校時代の友人とは会社に勤めてからは会っていなかったこともあり、緊張と楽しみを抱きSさんは会場に向かった。

会場はホテルの広間で行われ、受付を終えたSさんが部屋に入ると、

「おぉ~、Sじゃん!」

 と、懐かしい声がした。

 声の主は、Sさんと中高一緒のTさんであり、その横にはKさんとOさんがいた。

「久しぶり!」

 Sさんはそう返事をし、皆の輪の中に入っていた。

 Sさん達は時間を忘れて昔話を楽しんだ。

「K、覚えてるか?Sの教科書借りてそのまま夏休みに入っちゃって――」

「あれ?そんなことあったけ?」

「あったよ!それでさ――」


「え~、皆様。そろそろお時間の方が来たようで・・・」

 そんな司会の声が聞こえてきた。

「えっ、もう時間?」

 Kさんがそう言い、時計を見ると時間はあっという間に過ぎていた。

「思い出話してたらあっという間だったな」

 そう言ってTさんはスマホを出すと、

「この機会だし、ラインとか交換しとかない?」

 と言い出した。

 いいね、と誰かが言うと皆携帯を出し交換した。

「ごめん!今日携帯忘れちゃったんだよ。電車乗ってるときに気付いてさ」

 と言ったOさんとだけは交換できなかった。

「連絡先変わってないよね?」

 とSさんが聞くと、変わってないよ、となり後日又連絡をすることにし、その日は皆帰路についた。


 それから2週間程してSさんは体調を崩し、会社を辞め実家に戻った。

 実家に戻り、最初は療養していたが、さすがにただ実家にいるだけでは気まずいと感じ始めたSさんは、親の伝手で個人経営の小さな居酒屋のバイトをして暮らすようになった。


 居酒屋でバイトをしていた時、偶然にもKさんがお客として入ってきた。

「あれ、S、なんでこんなところにいるの?」

 驚いたKさんにSさんは同窓会後の経緯を説明した。

「そうなんだ。大変だったな。そうだ!今から呑もう。愚痴聞くからさ」

 と、Kさんは提案した。

 話しを聞いていた店長はSさんの勤務時間はあと少しと言うこともあり、また、お客さんも少なかったため、そのまま店で呑むことを気前よく許してくれた。


 最初はSさんの仕事の愚痴だったが、次第に話しはまた思い出話に戻り、あの同窓会の時ように2人は笑い合った。

 そんな中、ふとKさんは真顔になった。

「そうだ・・・。今思い出した。変なこと聞くかもしれないけど、いいか?」

 神妙な声で急に聞かれ、Sさんまでもが真顔になった。

「どうした、急に」

「いや、今思い出すと、気のせいというか、自分が忘れてるだけかもしれないんだけど・・・」

 Kさんはそこで言葉を区切り、じっとSさんの顔を見た。

「あの同窓会にいたOって、誰だ?」

「は?」

 Sさんは呆気にとられた。

「そんなもん、いつも一緒に遊んでた・・・」

 Sさんは自分心臓が高鳴るのを感じた。

 いくら思い出そうとしても、Oさんとの記憶が一切ない。

 寧ろ、同窓会であんなに長時間一緒にいたはずなのに、その時の顔すら思い出せない。

「な?」

 Kさんは真顔で聞いてきた。


 いや、そんなはずはない


 Sさんはスマホを取り出し連絡先を調べた。

 何往復スクロールしてもOさんの連絡先が見当たらない。


『連絡先変わってないよね?』


 そう確認したのは、誰であろうSさん自分自身である。

 しかし、自分のスマホに連絡先はなく、記憶の中にもOさんはいない・・・


「Tにも先日確認してみたら同じ反応だったよ」

 諦めのような、感情のない発言をしKさんはお酒を口にした。


 一体あの時、自分たちの近くにいたOは何者だったのか・・・



「――そんな不思議な体験をしたんですよ」

 と、Sさんは笑顔で私に語ってくれた。

 このような話しは時折耳にする怪談だ、と私は聞きながら感じた。

『ぬらりひょん』

 そんな妖怪の名がある通り、『それ』がいる時はその場にいる者は『それ』を認識し、意識し、昔からの知り合いのように感じ接することが出来る。しかし、『それ』がいなくなった途端、急に『それ』認識することが出来なくなる。

 古来より人はそういった体験をしているものだ。


 では、何故こんな時折耳にするような体験を私は書こうと思ったのか。


 私はこういった話しを聞く際必ず録音するようにしている。現にこれを書いている今も録音したデータを聞きながら文章に起こしている。

 しかし、Sさんとの連絡の痕跡はなく、顔すら思い出せない。

 録音された声は確かに存在しているのだが・・・


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