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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第二章 〜無法のスラム〜「ウェイシェム編」
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第7話:過去の清算

〜前回までのあらすじ〜

記憶を失った最強の男・ロアス。

少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。

辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。

そして現れたのは──

レオスを過去虐げてきた暴虐の巨人・エレゴレラであった


「おい、化け物。……久しぶりだな」


 レオスがそういう言うと、エレゴレラが動きを止めた。ぎし、と首が動き、ゆっくりと振り返る。


 しばらくの沈黙──だが、その瞳が、微かに細まった。


「……あァ? 誰だテメェ……。その銀髪……。ああ、思い出した。昔、無くしたと思ってた俺のサンドバックじゃねぇか」


 大男は口角を吊り上げた。


「レオス、トルナディス。お前らは兄弟共々、俺に歯が立たなかったよなぁ」


 レオスは静かに──2メートルの大剣を地に立て、柄を握った。


「ああ、そうだな。あん時は世話になったな最後ボロボロにされてから……6年くらいは経ったな」


 ぶわりと風が吹いた。

 レオスの体から、濁流のような闘気が吹き出す。

 それは、かつて小突かれていた少年のものではない。

 怒りも恐怖も呑み込んだその気迫は、信念だけを芯に宿した、まさに闘う者の咆哮だった。

 己を鍛えに鍛え上げた、確かな力。

 そしてその身体から、見えぬ奔流のような気が吹き上がる。それは後に“闘気”と呼ばれる力の萌芽だった。


「ッ……!」


 エレゴレラが大槌を振り上げる!


 ──ズドン!


 地が割れるような衝撃音。粉塵が舞い、視界が真っ白に染まる。

 その中を、ただ一人、レオスが跳び込んだ──

 巨体を利用して回り込み、大剣を振りかぶる。


 ギンッ!


 鉄と鉄がぶつかり合う音。

 だが今度は──レオスの力が上回っていた。


 衝撃でエレゴレラの巨体が半歩、のけぞる。

 観衆の間にざわめきが走る。


「お!?何……で……!?」


「こっちの台詞だよ」

 レオスは、静かに笑った。


「お前は何も変わってない。街で力を振り回してるだけ。……変わったのは、俺だ」


 踏み込み。

 大剣の斬撃。

 それは、速度も威力も、少年時代のレオスの比ではなかった。


 渾身の一撃が、エレゴレラの肩を裂く。

 黒鉄の鎧が割れ、血飛沫が上がる。


「ぐ、あァァァァッ!!」


 よろめき、膝をつくエレゴレラ。

 レオスは、なおも剣を構えていたが──


 ……次の一撃は、振るわなかった。


「殺しはしねぇ。昔のお返しだよ」


 そう言って、背を向ける。


「お前がこのまま、何も変わらないままなら──今度は殺す」


 その言葉には、かつてと違う確かな威厳があった。


「テメ…いつのまに“闘気”を……!?」


「あ?なんだそりゃ?」

 レオスは本気で首を傾げる。


 エレゴレラは、血の混じった唾を吐き捨てながら、レオスの背を睨みつける。


「でもな、レオスゥ〜……てめぇ……調子に乗ってんじゃねぇ……!」


 黒く光る瞳に、怒りと戸惑いが入り混じる。

 鼻を鳴らし、大槌の柄を地面に叩きつける。


「ブヒヒッ……おめぇがそんな強くなってんなんて知らなくて、油断しちまったぜ〜……!」


 唇が裂けるほどに口角を吊り上げると、身体を強張らせた。空気が震える。


「弱すぎるテメェには、見せたことはなかったな……」


 ゴギッ、と音を立てて肩を回し、オーラが漆黒に染まっていく。


「俺の極めた《闘気術》ッ! 展開するぜぇ……!」


 叫んだ瞬間、足元に黒紫の術式が走る。


邪気衝陣じゃきしょうじんッ!!」


 エレゴレラの体から、もやのような負の気が広がっていく。


「この技はなァ……“負のオーラ”を纏い、武器を打ち合ったもんの“闘志”や“精神”を削ぐッ!」


 重々しく語るその間も、大槌からじわじわと邪気が滲み出ていた。レオスはそれを正面から睨み据える。


「……説明ご苦労さんだ」


「ハッ、冗談言ってられるのも今のうちだァ!」


 エレゴレラが大槌を構え、闘気の圧力が広がっていく。


「言っとくが、周囲五メートル以内にいる奴は……徐々に精神を“削られて”いくぞォッ!」


 実際、遠巻きに見ていたフィンが足元をふらつかせた。


「うっ……あ、頭が……っ!」


 フィンはしゃがみ込み、額を押さえていた。


「フィン…」


 ロアスは反射的にフィンを抱き上げ、2、3mほど、後ろに退いた。


 レオスもまた、こめかみを押さえるようにして呻いた。


「ぐっ…………こんな……ッ!」


 エレゴレラが狂喜の声をあげる。


「へっへっへぇ……多少強くなったところでよォ……! てめぇは一生、俺に勝てねぇんだよォッ!!」


 怒声とともに、大槌が天高く振り上げられる。


「死ねぇぇッ!! レオスゥゥ!!」


 ――その瞬間。


 レオスの姿が、目にも留まらぬ速さで間合いを詰めていた。


「な──!?」


 大槌が振り下ろされる寸前、レオスの大剣が逆袈裟に閃く。


「──オラァッ!」


 ズバァァァァァァァッッ!!


 巨体のエレゴレラが、その場に膝を突く。

 真正面から、鈍い音とともに血飛沫が噴き上がった。


「お、おぉぉ……ぁぁ……ぐっ……は……」


 よろけるように一歩、二歩と後ずさり……やがて、地に崩れ落ちた。


 レオスは一歩踏み出し、地に伏したその巨体を見下ろして、冷ややかに吐き捨てた。


「……頭を抱えたのはな……」


 静かに剣を肩に担ぎ直す。


「“てめぇごとき”が、今の俺に勝てると思ってるその愚かさと──テメェの悪臭に、だ。クソ豚野郎」


 風が吹いた。黒紫の闘気は、何かを見失ったように霧散した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします


※7/23 ″闘気″についての文言微調整

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