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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第四章 〜交易の街〜「ノクティア編」
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第82話:飽くなき好奇心

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。

 ロアス一行は、攫われたフィンの手掛かりを追い、魔術師協会の報告会に出席していた。しかし突如として現れたのは、盗賊団ブラックペリル。彼らは魔導殿を襲撃し、魔力結晶を奪い去って逃亡する。追跡するロアスと、フェルヒト。やがて、ブラックペリルに追いつく。

 フェルヒトは城壁に降り立ち、焦燥も怒声もなく、ただ平坦な声で告げた。


「さぁさ、抵抗はしないでくださいよ」


「くそ、流石にまずい……。奴に《魔具フェルマ》系は効かない!」

 クラウスの叫びに、盗賊団がざわめく。


「どういうこと? あの糸で″ちょちょ″ってできないの? いつもの感じで」

 リリィの問いにクラウスが早口に答える。

「あいつは明らかに上級属性を扱う魔術師だ。そう言うやつには俺らの″魔具ニセモノの魔術″は通用しない」


 ロアスは静かに息を整え、一歩前に出た。フェルヒトの前へ立ち塞がる。


 ブラックペリルに緊張が走る。ダラスの眉がわずかに動く。


「……止めるつもりか」

「何の真似? アタシ達を倒しに来たんじゃないの?」


 フェルヒトが、細めた瞳でロアスを射抜いた。


「……ロアス君。君は何をしているんですか? まさか盗人を庇うなんて、言いませんよね」


 声は穏やか。しかし、その奥にいら立ちが渦巻いていた。

 ロアスは視線を逸らさず告げる。


「庇うわけじゃない。だが——今は裁く時じゃない」


「正義感か? 感傷か?」

「違う」


 短く、鋼のような即答だった。


「俺の目的と矛盾するだけだ」


 フェルヒトの口元がわずかに吊り上がる。沈黙が一拍。


「……ふーむ。なるほどですねぇ」


 困惑が消え、新たな好奇の光がその目に宿る。


「君は人質を取られている。あるいは取引を交わした。……違いますか?」


 魔力が収束し始める気配。ロアスは構えながら頷いた。


「そうだ。今見逃せば——今夜、フィンを返してもらえる」


 その名が出た瞬間、後方からフィンの叫びが重なる。


「私からもお願いしたんです! 今日までは見逃してって!

 その後は必ず、私が自首させますから! だから——!」


「はぁ? 自首ぅ!? てめぇそんな話——」

 ウォドンの声を、ダラスが遮った。


「……いいだろう。明日の午後でよければ自首してやる。そんなんで今までの罪が償われるのならな」


「な、ダラス!?」

 盗賊団がどよめく。


 だがフェルヒトは歓喜に震えた声を上げた。


「ぬるふふふふ……実にユニーク! では私も条件を出しましょう。

 私の問いに答えてください。それが“面白ければ”、見逃しましょう」


「……何を聞きたい」


「ズバリ。——その行動の“目的”です」


 興味で爛々と輝く瞳。

 ダラスは周囲を警戒するように視線を泳がせ、口を開いた。


「こいつらはグラファルの記憶改竄魔術で操られてきた。俺以外はな。

 今日、《メネスの瞳》を手に入れた今、呪いを断ち、グラファルに復讐する」


 フェルヒトの瞳孔が開く。


「『記憶改竄魔術』……! そんなレアな術があるんですか!? それも、こんな身近に!

そして創世記の《メネスの瞳》まで——! ……素晴らしい、もっと見たい!」


「……なんか〜、キモい」

 レシアが切り捨てる。


 フェルヒトは聞いていない。

収束していた魔力は霧散し、空気が静まり返る。

そして、彼は子供のように身を揺らしていた。


「発動を見たい! 観察したい! この目で!」


城壁下では、騒ぎを聞きつけた人々がざわめき始めていた。

「何だ、空で光が……!」という声がかすかに届く。


「ここでは目立ちますねぇ。——移動しましょう。続きを“観賞”できる場所へ」


 エルメルスは不安気な声を上げる。

「……それってどこですか?

 ギルドの施設内とかならお断りですよ。罠かも知れませんし」


 その言葉にリリィが続く。

「かと言ってウチらのアジトに招き入れるのもイヤよ」


 フェルヒトは軽く笑い、指先で空をなぞるように言った。

「ならば——メネルフィア洞窟にしましょう」


「メネルフィア?」とロアスが聞き返す。


「ノクティアから数刻ほど北西。古代の地殻魔脈が露出していて、魔力干渉が極めて少ない。

 周囲は断崖に囲まれ、外からの視線も届かない。何より、あの洞窟の内部は“共鳴石”で覆われている。魔力の揺らぎを吸収し、暴走や漏出を抑える性質があるのですよ。つまり——実験にも観察にも、最適な環境です」


 その説明に、盗賊団の中から小さなどよめきが起こった。

「……確かに、あそこなら人目はねぇし、洞窟の奥は一本道。追っ手も来にくい」とダラスが低く言う。

フェルヒトは満足げに頷いた。

「でしょう? あなた方にとっても都合が良い。外の干渉なしに“真実”を暴ける場所です。——さあ、参りますよ」


「……む!? ——身体が、軽い……」

 ふわりと風が足元を撫でる。ロアスは息を呑んだ。足が地を離れ、宙に浮かび上がる。魔導殿へ移動したときと同じ感覚だった。


「ロアス君は私の魔術で移動します。

 盗人たちはその飛竜で——私の後に続きなさい。道は開いておきますので」

 フェルヒトは土と風の魔術を合わせ、ゆるやかに浮上していく。


「ああ。行くぞ、リリィ!」


「はいはい。ダラスさんがそう仰るなら……いいんですよね? お姉様」


「ええ。ダラスの言う通りにしましょう。

 私たちは……知らないことが多すぎるのですから」


 リリィは頷き、口笛を鳴らす。

 よろけながらも、ワイバーンは彼女のもとへ戻ってきた。

 盗賊団は各々その背に身を預ける。


 ダラスの背中を見つめるアテネ。


(私たちはもう、彼についていくしかない。もう何が正しいのかわからなくなってしまった)


 それは、この盗賊団を『ペラーナ』という女が率いていた時に遡る――

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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