第82話:飽くなき好奇心
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。
ロアス一行は、攫われたフィンの手掛かりを追い、魔術師協会の報告会に出席していた。しかし突如として現れたのは、盗賊団ブラックペリル。彼らは魔導殿を襲撃し、魔力結晶を奪い去って逃亡する。追跡するロアスと、フェルヒト。やがて、ブラックペリルに追いつく。
フェルヒトは城壁に降り立ち、焦燥も怒声もなく、ただ平坦な声で告げた。
「さぁさ、抵抗はしないでくださいよ」
「くそ、流石にまずい……。奴に《魔具》系は効かない!」
クラウスの叫びに、盗賊団がざわめく。
「どういうこと? あの糸で″ちょちょ″ってできないの? いつもの感じで」
リリィの問いにクラウスが早口に答える。
「あいつは明らかに上級属性を扱う魔術師だ。そう言うやつには俺らの″魔具の魔術″は通用しない」
ロアスは静かに息を整え、一歩前に出た。フェルヒトの前へ立ち塞がる。
ブラックペリルに緊張が走る。ダラスの眉がわずかに動く。
「……止めるつもりか」
「何の真似? アタシ達を倒しに来たんじゃないの?」
フェルヒトが、細めた瞳でロアスを射抜いた。
「……ロアス君。君は何をしているんですか? まさか盗人を庇うなんて、言いませんよね」
声は穏やか。しかし、その奥にいら立ちが渦巻いていた。
ロアスは視線を逸らさず告げる。
「庇うわけじゃない。だが——今は裁く時じゃない」
「正義感か? 感傷か?」
「違う」
短く、鋼のような即答だった。
「俺の目的と矛盾するだけだ」
フェルヒトの口元がわずかに吊り上がる。沈黙が一拍。
「……ふーむ。なるほどですねぇ」
困惑が消え、新たな好奇の光がその目に宿る。
「君は人質を取られている。あるいは取引を交わした。……違いますか?」
魔力が収束し始める気配。ロアスは構えながら頷いた。
「そうだ。今見逃せば——今夜、フィンを返してもらえる」
その名が出た瞬間、後方からフィンの叫びが重なる。
「私からもお願いしたんです! 今日までは見逃してって!
その後は必ず、私が自首させますから! だから——!」
「はぁ? 自首ぅ!? てめぇそんな話——」
ウォドンの声を、ダラスが遮った。
「……いいだろう。明日の午後でよければ自首してやる。そんなんで今までの罪が償われるのならな」
「な、ダラス!?」
盗賊団がどよめく。
だがフェルヒトは歓喜に震えた声を上げた。
「ぬるふふふふ……実にユニーク! では私も条件を出しましょう。
私の問いに答えてください。それが“面白ければ”、見逃しましょう」
「……何を聞きたい」
「ズバリ。——その行動の“目的”です」
興味で爛々と輝く瞳。
ダラスは周囲を警戒するように視線を泳がせ、口を開いた。
「こいつらはグラファルの記憶改竄魔術で操られてきた。俺以外はな。
今日、《メネスの瞳》を手に入れた今、呪いを断ち、グラファルに復讐する」
フェルヒトの瞳孔が開く。
「『記憶改竄魔術』……! そんなレアな術があるんですか!? それも、こんな身近に!
そして創世記の《メネスの瞳》まで——! ……素晴らしい、もっと見たい!」
「……なんか〜、キモい」
レシアが切り捨てる。
フェルヒトは聞いていない。
収束していた魔力は霧散し、空気が静まり返る。
そして、彼は子供のように身を揺らしていた。
「発動を見たい! 観察したい! この目で!」
城壁下では、騒ぎを聞きつけた人々がざわめき始めていた。
「何だ、空で光が……!」という声がかすかに届く。
「ここでは目立ちますねぇ。——移動しましょう。続きを“観賞”できる場所へ」
エルメルスは不安気な声を上げる。
「……それってどこですか?
ギルドの施設内とかならお断りですよ。罠かも知れませんし」
その言葉にリリィが続く。
「かと言ってウチらのアジトに招き入れるのもイヤよ」
フェルヒトは軽く笑い、指先で空をなぞるように言った。
「ならば——メネルフィア洞窟にしましょう」
「メネルフィア?」とロアスが聞き返す。
「ノクティアから数刻ほど北西。古代の地殻魔脈が露出していて、魔力干渉が極めて少ない。
周囲は断崖に囲まれ、外からの視線も届かない。何より、あの洞窟の内部は“共鳴石”で覆われている。魔力の揺らぎを吸収し、暴走や漏出を抑える性質があるのですよ。つまり——実験にも観察にも、最適な環境です」
その説明に、盗賊団の中から小さなどよめきが起こった。
「……確かに、あそこなら人目はねぇし、洞窟の奥は一本道。追っ手も来にくい」とダラスが低く言う。
フェルヒトは満足げに頷いた。
「でしょう? あなた方にとっても都合が良い。外の干渉なしに“真実”を暴ける場所です。——さあ、参りますよ」
「……む!? ——身体が、軽い……」
ふわりと風が足元を撫でる。ロアスは息を呑んだ。足が地を離れ、宙に浮かび上がる。魔導殿へ移動したときと同じ感覚だった。
「ロアス君は私の魔術で移動します。
盗人たちはその飛竜で——私の後に続きなさい。道は開いておきますので」
フェルヒトは土と風の魔術を合わせ、ゆるやかに浮上していく。
「ああ。行くぞ、リリィ!」
「はいはい。ダラスさんがそう仰るなら……いいんですよね? お姉様」
「ええ。ダラスの言う通りにしましょう。
私たちは……知らないことが多すぎるのですから」
リリィは頷き、口笛を鳴らす。
よろけながらも、ワイバーンは彼女のもとへ戻ってきた。
盗賊団は各々その背に身を預ける。
ダラスの背中を見つめるアテネ。
(私たちはもう、彼についていくしかない。もう何が正しいのかわからなくなってしまった)
それは、この盗賊団を『ペラーナ』という女が率いていた時に遡る――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。
皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。




