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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第四章 〜交易の街〜「ノクティア編」
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第79話:狙われた魔導殿

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。

 ロアス一行は、攫われたフィンの手掛かりを追い、魔術師ギルドを訪れていた。思いがけぬ出来事から、彼らは魔術師協会の報告会に出席することになる。しかしその場に、突如として現れたのは――。

 粉塵が舞う中、全身に銀の装甲をまとう巨漢――ウォドン・タームが現れる。

 その肩には、人一人よりも大きな魔力結晶が担がれていた。

 砕け散る瓦礫の中、淡く光るその結晶は、まるで生きているように脈動している。


「あいつは……ブラックペリル!」


 レオスが叫ぶ。

 その名が響いた瞬間、魔導殿の重厚な空気が一気に切り裂かれた。

 ウォドンは歯を剥き、豪快に笑う。


「お? おめぇ、また会ったなぁ!」


 次の瞬間――


 天井が連鎖的に爆ぜた。


「さぁ、愉しい演目スペクタクル開始・コマンスの時間ですヨ!」


 轟音とともに瓦礫が降り注ぐ中、口元だけ露出する仮面をつけた奇術師風の男――リカールが朗々と声を張り上げる。

 その声に重なるように、無数の悲鳴が響いた。


「ブラックペリルじゃと……? なら、敵じゃな!」

 メルザーの声とともに素早く構えた弓の弦が鳴る。

 放たれた矢が一直線にウォドンの喉を狙った――が、


 ガァンッ!


 矢はウォドンの抱えた魔力結晶に塞がれ、金属のような音を立てて砕け散った。

 粉塵の中、光を弾く破片が宙を舞う。


『閃け――《雷光ライトニング》!』


 ノイエッタの素早く短い詠唱。彼女の杖先から、鋭い雷の矢が光閃く。


『土よ、壁を成せ――《土障壁グラン・バリア》!』


 姿は見えないが、上空から低く響く声――ダラスの詠唱だ。

 地面が唸りを上げ、分厚い土壁が瞬時に隆起した。


――ドンッ!


 光の矢が壁に突き立つが、光は掻き消え、煙だけが残る。


 フェルヒトは即座に詠唱――

『闇を裂き、原初の力をもって焼け

 ――《闇裂きの焔エクリプス・フレア》!』


 続いてダラスと同じく姿無しに、品のある女性の声が会場に響いた――アテネの声だ。

『闇を纏う氷よ、覆え――《深淵の氷膜アビス・フロスト》』


 フェルヒトの光の柱が放たれる。


――ゴオオオッ! ドガンッ!


 ダラスの土壁を吹き飛ばし、アテネの黒氷の膜にも炸裂。


――ゴオオオ……シュウ……


 火柱が上がるが、黒い氷片が光を吸い込み、魔術はお互いに霧散した。


「私の魔術を防ぐとは……! 奴らも相当手練の上位魔術師ですね!」

 フェルヒトが舌を打つ。

 その奥――煙の向こうから、新たな影が飛び出した。


「それっ! 行きますヨー!」


 軽やかな声とともに、リカールが宙を滑空する。

 手刀が光り、詠唱中の魔術師の腕を次々とはじく。

 暴発した魔術が、近くの仲間を巻き込み爆ぜた。


「やめろ! 詠唱を止め――ぐあっ!」


 戦闘慣れしていない術師たちは混乱に陥り、辺りは爆風、閃光、悲鳴に包まれる。

 リカールは耳に手を当て、うっとりと笑った。


「ん〜、この歓声! 楽しんでいただけてるようで何よりデース!」


 宙から糸を吊されたように黒い衣服を纏った白髪の男――クラウスが現れる。

「糸は張られた……あとは、踊り狂うのみ!」


「身体が……勝手に……!?」

 彼の指先がひらりと舞うたび、自らの意思と関係なく、勝手に四肢が動く。仲間へ杖を向ける者も現れた。


「私が皆さんの四肢に糸を張り付けまシタ!

 |さぁ、共に踊りましょう(ク・ル・バル・コマンス)!」


「――《四肢操糸フィルム・ドマンディ》」

 複数の魔術師――意識のない身体すらも糸に引かれたように起き上がる。

 意思とは関係なく動き出すその姿に、悲鳴が上がる。


 混乱はもはや戦闘ではなく災厄だった。


「なにが……起こってる……!」

 呆然とする術師たち。


「皆さん、落ち着いてください! これがブラックペリルの戦法です!

 上位魔術師の方であれば、魔術を練れば振り払えます!」

 エレカは負傷者を手当てしながら叫ぶ。


「くそ、なんでこんなところに奴らが……!」

 ネロは闘気を纏い、降りかかる瓦礫を拳で弾き飛ばした。


「さぁさ、此度はショートタイム! そろそろ、最後の締めル・グラン・フィナールデース!」

 リカールが宣言したその時、外から無数の羽ばたく音が鳴る。

 窓を突き破り、鴉の群れが雪崩れ込んできた。


「なんだ、コイツら――邪魔だ!」

 魔術師たちが応戦する。


「《氷針雨アイシクル・レイン》!」

「《火炎球ファイヤー・ボール》!」

「《風圧刃ウィンド・カッター》!」


 無数の魔術が空を焦がし、雷光が鴉たちを幾らか焼き払うが、その数は尋常ではない。

 だが煙が晴れたとき、ブラックペリルはすでに撤収の準備が整っていた。


――天空を切り裂く風。

――そして、瓦礫が落ちる音。

天井の裂け目から、ブラックペリルのメンバー――ウォドン、ダラス、アテネ、先頭にリリィを背に乗せ、巨大な影が舞い上がる。


 それは″ワイバーン″――鱗は深い瑠璃色、翼の先端には炎のように赤く輝く羽が散りばめられ、陽光を受けてキラキラと反射する。クラウスはその魔獣に吊されていた。

「ワイバちゃん、さっさと行くよ〜。鴉ちゃんたちも撤収!」

 リリィの合図で、ワイバーンは急上昇。翼を広げて風を切り、建物の間を滑るように旋回しながら飛び抜ける。羽ばたきごとに周囲の空気が渦巻き、風圧で瓦礫が巻き上がった。


 空の上では、彼女の楽しげな声とワイバーン、鴉の羽ばたきが、戦場の混乱を彩る華やかな旋律となる。


「逃さんぞ! これでも喰らえええい!」

 メルザーは一度に三本の弓を飛び去る影に正確に連射する。

 だが、鴉の群れに阻まれ、思うように届かない。

 何本かはワイバーンに突き刺さるも、その翼を止めるには至らなかった。


 その瞬間、フェルヒトの声が響いた。


「全員、皆々様、動揺しないでください!

 侵入者は撤退済み。深追いは辞めましょう。まずは人命最優先で!

 ジークリード君、状況報告を」


 ノイエッタはこの場においても淡々と、冷静にフェルヒトの言葉に対応した。


「既に集計中。――初期報告です。

 死者無し。重傷者七名、軽傷者多数。

 魔術暴発による構造損壊三カ所。一部の魔力結晶の窃盗被害を確認。

 総合すると、侵入者の主目的は魔力結晶の窃盗、その他は逃走を目的とした目眩ましと推測されます」


「うん、そうだね。僕もそう思うよ。

 一先ず、会の内容がほぼ終了していたのは不幸中の幸いだね。

 引き続き確認作業お願いできるかな?」


「承知しました。損壊箇所は封鎖、魔術治癒班を配置。

 魔力の残滓が強い区域は立ち入り禁止に。――フェルヒト様、指揮権を一時的に私にお任せいただけますか」


 ノイエッタは血のついた裾を払いながら、すでに現場を見渡していた。

 その手には、簡易魔術陣で構築された記録板。瓦礫の配置や魔力痕を瞬時に記録していく。


「おや……この場を任せてしまって、いいのかい?」


「ええ。だってフェルヒト様、報告会の時から、ずっとあの亜人のこと、気になっていますよね」


「え?」と驚くフェルヒトに、すかさず続けるノイエッタ。

「良いですよ。向かわれてください。

 この辺の対応と、協会と市への報告は、私が無難に済ませておきますので」


「……本当に、まったくもって……若いのに優秀だね、君は。ありがとね」

 フェルヒトが呟くと、ノイエッタは淡々と答える。


「そういうのは結構です。気持ち悪いので」


 バッサリ切り捨てるノイエッタに、フェルヒトは眉をひそめた。


「これは私のためです。あなたの好奇心が、私の知識欲を満たすので。

 それに、私も彼のこと気になります。なので、面倒ですが、この辺の後処理、対応しますよ」


 フェルヒトは頭を抱えながら彼女に言葉を投げた。


「はは、いいね。いいですとも!

 君の知識欲を満たすためにも、僕は彼を追って研究するよ」


 するとフェルヒトは、ここに来た時の魔術を詠唱し、あっという間に魔導殿から姿を消した。


 レオスが瓦礫の上に立ち、辺りを見渡す。


「くそ、アイツらを追っかけねぇと……」


 魔術師たちは負傷者が多く、場は騒然としていた。

 マイン、メルザーも辺りを見渡し、ネロとエレカは治療と救助を優先している。

 だが一人、この場において見つからない者がいた。


「あれ、ロアスは……?」


 その問いに、答えられる者はこの中にはいなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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