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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第四章 〜交易の街〜「ノクティア編」
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第78話:魔術師協会″緊急報告会″

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。

 彼らは旅の道中、盗賊団ブラックペリルの奇襲を受け、フィンが攫われてしまう。

 ロアス一行は、雇った冒険者と共にブラックペリルの手掛かりを追い、六門評議会の代表者の一人、魔術師ギルド長フェルヒトと話をするため、報告会に出席することになる――

 報告会が始まる少し前。

 ホールの前方では、職員たちが慌ただしく資料や水晶装置を運び込んでいる。

 ざわめきに包まれた空間の中、ロアスたちは一角の控え席で人の波をやり過ごしていた。


「人、多いな……。これ、ほとんどがギルド関係者で、魔術師なんか?」

 周りを見渡しながらその人の多さに感心するレオス。


「そうだね。でも、魔術師協会の緊急報告会って、どんな内容なんだろう。僕たちでも理解できる内容なんだろうか」

 ネロが腕を組みながら答える。


 そのとき――


「……ロアス君?」

 聞き覚えのある柔らかな声が背後から届いた。


 振り向いた先にいたのは、白いローブ姿の女性。

 流れるような青黒のロングヘア。優しくも凛とした瞳。

 ――エレカだった。


 ロアスの目が少しだけ見開かれた。

 彼女は軽く息をつき、安堵の笑みを浮かべた。


「無事、ノクティア市内に入れたのね。フィンちゃんは……まだ見つかってない?」


 その問いにロアスは無言のまま小さく頷いた。

 

 エレカはそんなロアスに申し訳なさそうに声をかける。

「そうなんだ。私もまだフィンちゃんに関する情報掴めてないの。ごめんね、ロアス君」

 エレカは少しだけ目を細めた。

 その横顔には、以前よりも張り詰めた気配がある。


 ロアスはエレカを見据える。

「俺たちは、あの胡散臭いギルド長からブラックペリルの情報を聞き出すため、なぜかこの報告会に出席させられ――彼と話せる時間になるまで待っている」


「あら? ってことは、あのフェルヒト副会長のこの後の予定抑えてるってこと!? それって結構すごいことよ」


 レオスが会話に割って入り、嫌悪感を丸出しにした表情で言う。

「そうなのか? あいつ、ただの変人野郎でどこが偉い奴なのかわからねぇけどな」


「こら、レオス君。そんな言い方しちゃダメよ! あの方は、魔術師界でもちょっとした有名人で憧れる人も多いんだから。誰かに聞かれたら酷い目合っちゃうかもよ」


「えー、信じられねぇなー」


 そして、マインとメルザーはお互いエレカと軽い挨拶と自己紹介をする。そんなやりとりの最中、場内の照明がゆっくりと落ちていく。

 やがて、報告会が始まった。



 魔導結晶が天井から垂れ下がり、青白い光が幾重にも交錯している。

 ノクティア魔導殿。そこには各地から集まった魔術師たちが整然と座し、息を潜めて視線を壇上へ向けた。

 光は静かに脈打ち、心臓の鼓動のように空間を震わせる。

 空気は濃密な魔力で満たされ、吸い込むたびに肺が痺れるほどだ。


「――これより、魔術師協会主催《緊急報告会》を開始します」


 司会者の声が響いた瞬間、ざわめきは霧のように消えた。

 結界が展開され、会場全体が外界から隔絶される。音も匂いも、ただ魔力の鼓動だけが残る。


 壇上に立つのは、細身で長髪を後ろで束ねた男――アルベルト・フェルヒト。

 いつもの軽薄さは微塵もなく、双眸には研ぎ澄まされた知性と覚悟が宿っていた。

 その隣では、ノイエッタ・ジークリードが記録水晶を操作しながら静かに控えている。


「まずは、遠路はるばる緊急招集の呼び声に集まってくださった各地の魔術師諸君に感謝を。

 この数年、我々は魔力汚染、結晶枯渇、帝国境界の戦乱……幾多の難題に直面してきた。

 だが――今日、我が口から伝えねばならぬのは、“ひとつの国”についてだ」


 重い沈黙が、波紋のように広がる。

 光の粒が空気中を漂い、天井の魔導灯がゆるやかに明滅する。


「なんか、朝の時と雰囲気違ぇな」

 レオスがぼそりと呟く。

 ロアスは曖昧に頷き、ただ壇上を見上げていた。


「――メッメドーサ魔導国。

 我ら魔術師の原初にして、すべてのことわりを紡いだ国だ」


 魔術によりホール中央に幻影の地図が浮かぶ。

 大陸南東、その果てに星のように光る一点。

 光の残滓が散り、そこには崩れかけた都――メッメドーサ魔導国の王都セグドネリアの投影された。


「今、その国が滅びようとしている。

 イーラディア帝国の侵攻によって――魔導国王都は、陥落の危機にある」


 観衆の間に走るざわめきは、すぐに押し殺された。

 “イーラディア帝国”――街の人々が時折耳にする国名。

 ロアスには馴染みのない言葉ばかりで、頭の中に何も映像が浮かばなかった。


 フェルヒトは一瞬だけ目を閉じ、静かに言葉を結んだ。

「先日、聖都にも同様の報告をした。だが、結果騎士団は動かぬ。しかし、彼らを責めることはできない。聖杯騎士団カリクスオルドも限られた戦力だ。自国防衛に手一杯ということであった。

 だからこそ、いまここで募る――己の誇りに従う者は、協会に名を届けてほしい」


 しばしの静寂。

 やがて、どこからともなく起こった拍手が、波のように広がる。

 その音は熱狂ではなく、決意と哀しみの混じった祈りのようだった。


 ロアスは、手を叩かなかった。

 ただ、壇上に立つフェルヒトの横顔を見つめていた。


(……よくわからんが、ただ事じゃなさそうだな)


 そんな程度の印象しかなかった。

 だが、壇上のフェルヒトの眼差しだけは、不思議と胸に残った。



 しばらく、フェルヒトによる話は続いた。

 真剣に聞きメモを取るエレカの横で、レオス、マイン、メルザーは眠気と戦い、ネロとロアスは膨大な情報量を聞き流していた。

 フェルヒトは一歩、壇上の中央へ進む。

 その声は震えながらも、確固とした力を帯びていた。


「我々が日々、術式を紡ぎ、呪文を唱えられるのは、彼らが“魔術という言語”を世界に与えたからだ。

 我々が杖を掲げるたび、その理を響かせるたびに、彼らの叡智は息づいている。

 メッメドーサは――この世界の“知”そのものだ!」


 ノイエッタが指先を弾くと、次の幻影が浮かぶ。

 炎に包まれる塔、崩れ落ちる書庫、血に染まる魔導陣。

 その中心で、帝国の旗が翻った。


「今、彼の国は崩壊の危機にある。勇気ある者は、我と共にメッメドーサへ向かおう。

 これは戦いではない。“恩義”の返礼だ。

 ……家族がいる者は、その胸に祈りを。

 我らは理を守る者として、己の誇りに従うだけだ」


 拍手が静かに満ちていく。

広がる。

 それは熱狂ではなく、沈痛な祈りの音だった。


 ロアスは手を叩かず、ただ光に照らされた壇上を見つめていた。

 そんなロアスに、レオスがヒソヒソと小声で話す。


「長いな……これ何時まで続くんだろうな」

 レオスがあくびを噛み殺しながらぼやく。


「つまり……魔術の祖の魔導国が攻められてるから、みんなで助けに行こうって話?」

 マインも確認するように小声で質問をする。


「よくわからんが、大変そうだな」

 ロアスがつぶやく。


「内容はともかく、フェルヒトさんって意外とちゃんとしてんだな」

 ネロもそんな感想を言う。


「もう……あなたたちが相変わらずで、逆に安心するわ」

 エレカが苦笑しつつも、真剣な瞳で壇上を見つめていた。

「でもね、これは本当に大変なことなのよ。

 魔導国が落ちたら、次はここ神政国が狙われるかも。……つまり、この国でも戦争が始まるかもしれない……」


 その言葉に、一行は静まり返った。



 「ここからは私――ノイエッタ・ジークリードが、現在確認されている戦況の詳細を報告いたします」


 壇上の光が再び強くなり、ノイエッタの背後に巨大な幻影が展開された。

 そこには、大陸南東部の立体地図。青い魔力の線が国境をなぞり、赤い光が侵攻地点を示す。


「まず、侵攻の発端は二ヶ月前。イーラディア帝国東方軍による《ローレル回廊》の制圧から始まりました。

 この地はメッメドーサ魔導国への唯一の陸路であり、同国が他国と結ぶ交易・情報の生命線でした」


 彼女の声は淡々としていた。だが、言葉を重ねるごとに場内の空気が沈んでいく。


「その後、帝国軍は《バレイア高原》を突破。

 これまで“魔導障壁”によって守られていた都市群が次々と陥落しています。

 現在、残る防衛拠点は王都セグドネリアを含む三都市のみ――」


 だがロアスは、もう話の流れについていけていなかった。

 聞いたこともない地名が並び、戦況図がいくつも浮かぶ。


(ローレル? バレイア? ……どこだそれ)

 まるで異世界の地図を眺めているようだった。



 老魔術師たちの議論、専門用語の飛び交う報告。

 ただ、ある名が聞こえたときだけ――場の空気が一瞬変わった。


「……また、帝国軍の中に、“危険人物”の存在も確認されています。

 ――アルビオン将軍。かつて″無魔むまの剣聖″と呼ばれた男。

 三十年前、五十万の死者を出した〈紅蓮大戦〉を生き延び、二十年前の〈北境戦争〉では、わずか三千の兵で十万の共和国軍を撃退し、数々の戦場で帝国に勝利をもたらしてきた者です。

 すでに齢八十近く、現役を退いていたと思っていましたが、前線に立つ姿が今一度、前線に立つ姿が確認されています」


「アルビオン将軍って、歴史の書物で見たことある」

 マインが言葉を漏らし、「俺も、流石に聞いたことあるな」とレオスも続けた。

 

 会場の誰もがその名を知っているようであった。


「でも、まさかまだ生きてて、“現役”だなんて知らなかった」

 ネロの言葉は会場の皆の反応を代弁するかのようだった。

 ノイエッタの声は、淡々としながらも、冷たい恐怖の余韻を残していた。


 それがどれほどの人物なのか、ロアスにはわからない。

 ただ、あの場にいた全員が息を呑んだことで、その重さだけは伝わった。



 終盤に差し掛かり、ノイエッタが報告会の締めに入る。


「……長かったな」

 レオスが椅子にもたれかかりながら呟く。

「でもまあ、なんとなく世界がヤバいってことはわかった」


 レオスの言葉に続き、ロアスは小さく頷いた。

 (しかし……俺たちに関係のある話ではない)

 ロアスはそんな風に思っていた。


「――以上が、現時点での報告内容です。最後に、現地より届いた映像記録を――」


 ノイエッタが指先を動かし、背後の幻影が揺らめいた――

 その瞬間だった。


 低い唸りが場内を満たす。

 魔力の波が震え、天井に吊られた巨大な魔力結晶がゆらりと揺れた。


 「……おい、結晶が……」


 次の瞬間――


 ドスンッ!!


 轟音と共に、数百キロはあろうかという結晶が地を打つ。

 床が軋み、光の粒が四散した。

 結晶の割れ目から、濃い魔力の煙が立ち上る。


「な、なんだ!?」「魔力暴走か!?」


 煙の向こう――人影がゆらりと動く。

 筋骨隆々の腕が、結晶の破片をどけながら現れた。


「へっ、いい落ち方したな。……この魔力の石、ちょっと拝借すんぜ?」


 ――スキンヘッドの大男、ウォドン・タームである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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