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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第二章 〜無法のスラム〜「ウェイシェム編」
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第6話:暴虐の再来

ロアスは記憶を求め旅を始める。

村の少女フィン、戦士レオスと話し合った結果、

選んだ行き先は、法も秩序もない犯罪都市ウェイシェム

腐臭漂う闇の街へと足を踏み入れた!!

 やがて、街の中心部へと近づくと、雰囲気はさらに一変した。

 広場らしき場所では、焼け焦げた屋台が並び、喧騒と怒号が交差している。


「この辺りが中心地……情報屋や密売人、殺し屋なんかも出入りしてる。まずは顔役に近づくな。そいつらに目をつけられたら詰みだ」


 レオスが言う“顔役”──それがゾディを指すことは明らかだった。


 フィンはますます不安そうに顔を曇らせ、ロアスの袖を小さく掴む。だがロアスは、ただ前を見据えたまま歩みを止めない。


 ──そのときだった。

 通りの奥から、重たい音が響いた。

 鉄を引きずるような音。何かが砕けるような音。そして、野太い怒声。


「邪魔なんだよ、クソがァァッ!!」


 叫びと同時に、粉塵が舞い上がる。

 ロアスが無言のまま音の方へ足を向けた。


 レオスが、その背中に反射的に手を伸ばしかけ──そこで凍りついた。


 耳に届いたあの声。

 腹の奥に残る、聞きたくもない記憶のこだま。


 (まさか……)


 彼の足が止まる。


 フィンが、不安げにロアスの後を追う。

 泥濘の路地を抜けた先、瓦礫だらけの広場に、それはいた。


 ──巨人。否、怪物。


 分厚い黒鉄の鎧に覆われた巨体。

 スキンヘッドの頭は、まるで血に濡れた石のように光り、その顔は──人間とは思えない。潰れた鼻、引き裂かれたような口、歯列は獣のように乱れていた。

 握られた大槌は、地面にめり込み、砕けた路石の破片が周囲に散っていた。


 それは、ただ立っているだけで、空気を圧迫する存在だった。

 叫び声を上げていた老人が倒れており、少女がその体を抱えて泣いている。


「ガタガタうるせぇ。オレの道を塞ぐからだァ」

「死にたくなきゃ、這ってどけ……できなきゃ、砕く」


 その声──まさしくあの声だった。


 レオスの背筋を、冷たいものが走る。


(エレゴレラ……)


 名前を口にするまでもない。

 かつて、まだウェイシェムの底辺にいた頃。

 何度も、何度も、殴られ、潰され、笑われた。


 どれだけ反抗しても、返ってくるのは鉄拳と大槌だけ。

 「弱い奴が文句を言うな」がルールだった。


 そうだ──あの時代の象徴。

 力こそすべて。暴力が支配する地獄。


(クソ……ここでまた、あいつと……!?)


 レオスの手が震えた。

 だが、ロアスは構わず歩を進める。まるで“あれ”を恐れていないかのように。


 そんなロアスに、エレゴレラの目が向いた。


 巨大な鼻が広がり、動物のように匂いを嗅ぐような仕草。

 そして、不気味に口角を吊り上げる。


「なんだァ、お前……気に食わねぇ目しやがって。どこの王様気取りだ、テメェ……」


 地を踏み鳴らすだけで、空気が揺れる。


「この街で、オレよりデカい面して歩いていい奴は、誰もいねぇんだよ!!」


 肩に担いだ大槌が、ギィ、と音を立てる。

 ただの威嚇ではない。

 次の瞬間、闘気が渦巻いた。


 ロアスの金の瞳が、それを見据えていた。

 だが、恐怖ではなかった。

 ただ、観察するように、静かに、真っ直ぐに。


(この男……何者だ? この重苦しい圧力、これは″闘気″というのか……)


 レオスの中で、悪夢がよみがえる。


 ──俺がここにいたのは、生まれてから14歳までの間だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 暗く、汚れた通り。

 誰も助けてくれない。誰も信じられない。

 ただ、一つの影が笑っていた。


「ブヒヒヒヒヒッ、また来たかレオス坊やァ!

 骨が砕けるまでやんねぇと学ばねぇなァ!」


 ――ドグンッ!


 大槌が振り下ろされる。地面が揺れ、視界がひしゃげる。

 口から血があふれ、指が泥の中に沈んでいく。


(……もうやめろ。やめてくれ……)


 見て見ぬふりの通行人。

 せせら笑う娼婦。

 その中心で、エレゴレラはまるで王のように嗤っていた。


(──こんな世界、二度と戻ってたまるか)


 ──次の瞬間、エレゴレラの叫びと共に、大槌が振り下ろされた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 視界が現実に戻る。


 レオスは、ロアスの横に立ち静かに伝える。


「お前に教えといてやる。男にはな、生き残るための戦いとテメェの信念を守るための戦いがあるんだ」

 

 レオスはゆっくりと前に出た。その身体はわずかに震えていた。


「で、この戦いは後者だ。その場合、外野からの手出しは無用だ。そこで見ておいてくれ」


 後方にいたフィンは、不安そうにレオスとロアスを見つめていた。


「…わかった」

 

 ロアスはそれだけ言うとフィンの横まで退いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。


〈修正履歴〉

※9/6 「」や場面転換のフォーマット統一

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