第65話:ノクティア関門街、到着
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。
彼らはウェイシェムを後にし、キャラバンと共に交易都市ノクティアを目指すが、その道中で盗賊団ブラックペリルの奇襲を受ける。
ロアスとレオスは、攫われたフィンを救うため、ノクティアの関門街でブラックペリルの跡を追うのだった。
ブラックペリルの襲撃――フィンが攫われてから三日が過ぎた。砂漠を越え、果てしなく続く荒野を踏みしめたキャラバンは、ついにノクティアの関門街へと辿り着いた。
都市の外壁は砂嵐の爪痕のある堅牢な石造りで、高くそびえる塔や見張り台が街を取り囲む。街の象徴とも言えるその壁を、誰もが見上げずにはいられなかった。その中央に穿たれた巨大な関門は、遠くからでも威容を示し、訪れる者に街の力を誇示していた。近づくにつれ、門前には人々の喧騒が渦を巻く。
隊商の荷車が列をなし、傭兵が剣を休め、旅芸人が芸を披露する。大門を中心に芽吹いた集落は、やがて小都市のように膨れ上がり、旅人にとっては最初に触れるノクティアの顔となっていた。
「これが……ノクティアか」
ロアスは馬車の天蓋を押し上げ、外を見渡す。街全体が交易都市らしい喧騒と熱気に包まれている。
「広いな……。砂漠の果てに、こんな場所があるなんて」
レオスは大きく息を吸い込み、砂塵混じりの空気を感じ取った。
マルバスは馬車を停め、ロアスの言葉に付け加える。
「正確には、ここはノクティアの関門街だ。
本領へ至るには、あの巨大な関所で正式な手続きを踏む必要がある。その手続きを待つ人々と、それを相手に商売をする人々で通りは賑わっている。
あの門を抜けた先が本都市だが、まずは奴らが″どちら側″にいるのかを見極めねぇとな。あの盗賊団が簡単に通行許可をもらえるとは思えねぇが……」
辺りを見渡しながら続けるマルバス。
「ノクティアは交易都市だ。色んなもんが集まる。ほら見ろ、あの白い塔は聖杯教会の礼拝堂だ。祈りを求める奴はあそこへ向かう。
で、石造りの建物が並んでるあの辺の通り。あそこを抜けると力で金を稼ぎたい奴らの集まり、冒険者ギルドがある。
あとは、あの一際高い時計台あるだろ。ありゃ、エレカみてぇな知識に飢えた奴が集まる魔術師ギルドだ。
……そんでまあ、俺ら商人は商人ギルドってわけだ」
ロアスは目を凝らし、周りを隈無く観察していた。
(この街のどこかに、フィンが……!)
そんな中、レオスは感心するように見渡す。
「関門街ってだけでもこれだからな。すごい街だ。
だが、人が多けりゃ街は荒れる。争いや揉め事も多そうだよな」
エレカがすかさず言葉を付け加える。
「そんな街の揉め事の仲裁をし、治安を守ってくれる強力な自警組織『栄砂団』。その建物すら観光で人が押し寄せるらしいわ。よくわからないわよね」
ロアスがつぶやく。
「そのトップが、マルバスの元部下……」
そして、キャラバンが商店が立ち並ぶ通りに差し掛かったところで、マルバスは団員たちに向けて声をかける。
「さ、目的地には着いた! ここで解散だ。負傷者の手当てを優先し、各自自由行動で休養を取れ」
大声を出した途端、毒が残る身体に痛みが走り、思わず顔をしかめた。そこにエレカが言い聞かすようにマルバスに声を投げる。
「マルバス団長。まだ完治してないんですから、あまり大きな声を張り上げないでください。また様子を見に来ますから、それまで安静になさってください」
団員たちは互いに別れを告げ、街の中へと散らばっていった。
「ロアスたち〜、絶対フィンちゃん見つけろよ!」
「人混み入る時はちゃんと獣耳フードで角隠しな!」
そんな彼らに手を振りかえし、見送る。
ロアスは一瞬だけ胸が詰まる。けれど、その気持ちをどう言葉にすればいいのか、ロアスにはまだ分からなかった。
エレカは馬車を降り、荷物をまとめながら告げた。
「私は魔術師ギルドに行くわ。緊急招集なんて異例のことだから、しばらく忙しいかもしれないけど、合間に抜けて怪我人の看護をしに団長たちを探しにくるわ。もちろん、フィンちゃんの情報も探るつもり」
視線をロアスに向け、軽く微笑む。
「情報を得たら、必ず皆に伝える。
……フィンちゃん、必ず無事でいてほしい。
私もできる限り探すわ。
だから――必ず、また会いましょう」
ロアス、レオス、マルバスは小さくうなずき、エレカの背中を見送る。
続いて、マルバス自身も団員の一部と共に商人として街に残ることを告げる。
「俺もキャラバンの面倒と、商売の手も回さねばな。
しばらくは商人ギルドを出入りする。
何かあったら顔を出してくれ。力になる」
ネロはにやりと笑い、ロアスとレオスに視線を向けた。
「さ、君たちはこれから、僕と一緒に冒険者ギルド関門外支部に向かおうね。
手掛かりを探すなら、そっちが一番だ」
軽やかに歩き出す彼の後ろ姿に、ロアスは少し肩の力を抜く。
三人は冒険者ギルドのある通りへと歩き出した。
⸻
「冒険者ギルドか……俺も昔、随分世話になった……」
レオスがぽつりと口にすると、ネロがすかさず身を乗り出した。
「へぇ? それは気になるね。どんな冒険者だったんだい?」
「お、興味あるか? まあ、そんな大した話じゃねぇが……」
すると、ロアスが話に入る。
「レオスの過去……″暁鋼の牙″の頃か。ウェイシェムの時もその詳細は聞いてなかったな」
ロアスの意外な言葉に、レオスは思わず目を丸くした。
「げ……、ロアスから話しかけてくるってだけでも珍しいのに、まさかそのこと覚えていやがるとは……」
ネロが思い出そうと人差し指を側頭部にくっつける。
「暁鋼の牙……三、四年前くらいに聞いたことあるかも。確かもっと南側の都市で有名だったパーティ名だよね……」
「マジか……よく知ってるな」
ネロのその言葉にレオスは驚いた。
そして、少し遠くを見るように語り出した。
「活動の拠点としてたのは、鉱都ベルナディアだ。
ここからもっと南西にある街だ。資源が多く出る発掘できる土地でな、代わりに魔物の巣が多くあって、討伐依頼が絶えないところだった。
俺は十四の時、ビビりの弟トルナディスと、幼馴染の凶暴女レイヤを連れて、ウェイシェムから旅に出て、ようやく見つけた居場所さ」
「そんな子供時代に……ウェイシェムから鉱都まで行けたの!?」
ネロは苦笑しながらも感心した。
「たまたまだ。旅の途中、馬車引いたウォルターっていう意地汚ねぇ魔術師のオッサンが俺らを拾ったんだ。
″そこの臭そうなガキ共、馬車に乗りてぇのか?なら乗せてやる代わりに、俺の護衛として働いてくれ″なんて言いやがってな。
そん時、マジぶっ殺してやろうかと思ったぜ」
ロアスは純粋に疑問に思い聞いた。
「……なら、なぜそうしなかった」
「そりゃな、殺して馬車奪ったところで誰も馬を引けねぇ。そもそもな、そいつ。すげぇ強かったのよ。実際、三人で仕掛けたら返り討ちにあった」
ネロは呆れながらツッコミを入れた。
「いや、本気で襲ったんかよ」
「まぁ、なんやかんやあって、ベルナディアに着いてその四人で冒険者パーティ組んでよろしくやってたのよ。あん時は楽しかったな……」
昔に耽るレオスに、ロアスがふと尋ねた。
「……そんな想い出ってのは、やっぱ大事なもんなのか?」
レオスは少し微笑みながら答える。
「ああ、そうだな」
しかしロアスは淡々と続けた。
「でも結局、そのパーティは壊滅して……仲間は皆死んだろう」
不用意な言葉に、レオスの表情が一気に険しくなる。
ネロは空気が凍りつくのを感じて慌てて口を挟んだ。
「ちょ、ちょっとロアスさん! そういうの、本当にあったことなら……聞き方ってもんが――」
拳を握りしめたレオスは、深呼吸をしてからネロの肩に手を置いた。
「ネロ、悪い。気を遣わせちまったな。……コイツに悪気がないのはわかってる」
低く絞り出す声はまだ震えていた。
「振り返っても戻らねぇ過去だ。トラウマになるくらいの記憶だ。……だからよ、その答えは……まだ俺の中にねぇ」
ロアスは小さく頷いた。
「……そうか。気分を害したなら悪かった」
「へぇ……お前の口からそんな言葉が出るようになるとはな。キャラバンで少しは“空気を読む”ってのを学んだか?」
レオスが皮肉めいて笑いながらロアスの肩を小突いた。
「でもま、冒険者稼業やってると色々あるよな。
僕もね――」
ネロは話題を変え、楽しそうに談話を再開した。
重かった空気は少しずつ和らぎ、街の喧騒を背景に、三人は肩を並べて再び歩き出した。
到着した地はノクティア関門街。
そして、目指すは冒険者ギルド――この街での情報の要衝だ。
ここから、彼らの新たな舞台が始まろうとしていた。
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