第64話:カエデちゃん、カルネリア村にて★
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、自らの記憶を探す旅に出た。
彼らはウェイシェムを後にし、キャラバンと共に交易都市ノクティアを目指すが、その道中で盗賊団ブラックペリルの奇襲を受ける。
ロアスとレオスは、攫われたフィンを救うため、ノクティアの関門街でブラックペリルの跡を追うのだった。
あたしの名前は――
カエデ・ツジアラシ!
カエデちゃんって呼んでね!
え? 自己紹介は二回目だって?
じゃあ、遠慮しないで。
減るもんじゃなし、何回でもしてあげるわよ★
可愛くて強い世にも元気なクノイチ!
武術は苦手。忍術は好き♪
今日も元気に旅の空♪
今、あたしはカルネリア村ってところに来てるの。
店は思った以上に繁盛していて、可愛らしい小物も並んでいる。見ているだけでなんだか癒される〜。
孤独な砂漠を抜けて、こういう小さな集落にたどり着くと、やっぱりホッとするよね。
……とはいえ、暑すぎて喉はカラカラ、汗も止まらなくて、ちょっと匂ってきそう〜。
「どこ行こっかなー」
雑貨屋に、香辛料に、飲み物の屋台……
いろいろあって迷っちゃう。
興味津々に周囲をキョロキョロ見回して歩いていると、元気な声が耳に飛び込んできた。
「安いよ安いよ! バナナ一本、今日だけ銅貨一枚だよ!」
声の方を見ると、果物を扱う屋台で、恰幅のいいオジさんが威勢よく呼び込みをしている。
「ねぇねぇオジさん、この村って何が有名なの?」
オジさんは愛想よく答えた。
「お、嬢ちゃん。ちょいと変わった風貌してるな。
その刀……他の大陸から来た旅人かい?」
「はは、まぁそんなとこ! 旅武芸者って感じ!
あたし、可愛いけど結構強いんだから!」
「へぇ、若いのに大したもんだ!
そんな嬢ちゃんに勧めなのは、カルネリアで有名な《剣鎧横丁》だな。
ノクティアから鉄を仕入れて鍛え直し、武具にして輸出してるんだ。
あとは果物も名物だ! バナナなら銅貨一枚、マンゴーは四枚、ライチはちょっと高めで七枚だな!」
「ふーん、剣鎧横丁か。行ってみよっかなー」
″ハイカラ″な果物を眺めていたらお腹空いちゃったな〜。どんな味か気になる。
ここ数日、山菜や雑草ばっかで、まともな食べ物を口にしてないし、ちょっと味見したいかも!
「あ、オジさん。果物なんだけど、やっぱお金って必要? あたし、持ち合わせがないんだけどさ〜――」
その一言に、オジさんの表情は一変。
さっきまでの愛想笑いが嘘みたいに、露骨に冷え切った目になる。
「あ? 金がねぇのか。じゃあただの冷やかしだ。時間の無駄だ、ほら行った行った!」
しっし、と追い払われ、別の客を呼び込む声がすぐ後ろで響いた。
「えー、なんなのその変わりよう〜。
結局金なの。商売人ってみんなこんななの〜!?」
ちょっと傷つきながら、カエデは肩を落として横丁へ向かう。
⸻
着いたのは剣鎧横丁――
……なんか、この通り、ちょっと変?
昼間なのに、道端で寝転がってる人が何人かいる。
屋台の兄ちゃんもさっきまで寝てたのか、頭をかきながら準備してる。
「そういう風習の村?」
あ、思ったことをつい、大きな声で言葉にしちゃった。
そんな私の疑問を聞いていた武具屋のオジさんが説明してくれた。
「いやぁ、お嬢ちゃん。ついさっき不思議なことがあってよ。村中の人間がいきなり眠りこけちまったのよ。まあほとんどの人はすぐ起きたから大事にはならなかったけど……一体何だったんだろうな」
――なんてオジさんは笑ってるけど……。
うーん、なんか怪しくない?
「それで、あの人たちが?」
あたしの視線の先、なんかカッコいい人たち――銀色に輝く甲冑を纏い、馬を引いている。
寝転がってる人に声を掛けながら事情を聞いて回っていた。
「ああ、あの方々は聖杯騎士団。
怪しい盗賊団がこの辺に出没してるって聞いて、治安維持のために、通りすがったみたいだよ。
ほら、あそこにおられるのが聖銀騎士のボリナーク様だ。お目にかかれるなんて、今日は運が良い」
「ふーん。……凄い人なんだ。
教えてくれてありがとね、オジさん!」
町奉行所のお偉いさんってところなのかな。
どこも大変だな〜。
……ま、色々気にはなるけど、考えてもお腹は満たされないし。それは一旦置いといて……
やっぱ武具屋が並ぶ一角はやっぱりわくわくするね〜。剣に盾、胸当てに籠手。あ、忍具はあんまり見かけないなあ、残念。
すると、マントを羽織った青髪の青年と、店主が口論しているのを見つけた。
「刀身は薄く、片刃でよく斬れる刀ですよ!」
「いやいや、知ってるよ。サムライブレードの話だろ? そんな刀を作れる鍛冶はそうはいねぇ。アルセディアかノクティアくらいだ」
「ノクティアも品切れで、ここまで来たんです! 無駄足じゃないですか!」
めんどくさそうな店主と食い下がる旅人風青年。なんか熱いな――喧嘩は止めたほうがいいよね。
「まあまあ、お二方共、落ち着いて。
なにがあったの?
喧嘩は良くないですよ〜」
青年の目が突然、カエデの腰の刀に釘付けになった。
そして、大きな声を上げた。
「あー、これだ! ″サムライブレード″!」
「うわ〜、ビックリした〜! なになに?」
「貴方、これ、どこで手に入れたんですか!?
教えてください!」
「あー……あたし、この辺の人間じゃないんだよね〜。
なんていうか、とても遠いところ。だから、この辺でこういう刀どこに売っているかわかんないの。ごめんね!」
だが、青年は負けじと食らいつき、真剣な眼差しを向けてくる。
「で、では、それをお譲りいただくことはできないでしょうか!? もちろん、タダでとは言いません!」
うわ〜。この人すごい熱意だ〜。グイグイくる〜。
これは父上からもらった代々の刀で、なんだか上等なモンらしいけど、正直あたしはよく知らない。
「いやー、でもぉ、これは売るつもりなくって〜」
「金貨十二枚! どうですか!」
青年の声が響いた瞬間、武具屋の空気がぴりりと張り詰めた。
「な、なんだと!? 正気か兄ちゃん!」
店主が思わず身を乗り出す。
「サムライブレードが珍しいのは確かだが、その娘の刀がそこまでの価値かどうかは――」
「いいえ、見ればわかります!」
青年は食い気味に遮った。
「その鞘の造り……細工の精巧さ。間違いなく業物です! どうか、その刀身を一目、拝見させていただけないでしょうか!」
――見せるだけなら、まぁいいか。
「え? あ、はい。どうぞ」
カエデは軽い調子で刀を差し出した。
「おおっ……!」
青年は息を呑み、瞳を輝かせる。
「やはり! この反り、この鍛え、刃文の冴え……まさに匠の技! これほどの出来、滅多にお目にかかれるものではない!」
「あー、ははは。そりゃどうも〜」
カエデは肩をすくめる。
一応、名刀とは呼ばれてる刀らしいけど……。
父上からもらったときも、正直よくわかんなかったんだよねー。
「無理を承知でお願いします!」
青年の声は熱に浮かされたように強くなる。
「金貨十四、いや、十五枚で! お譲りいただけないでしょうか!」
その瞬間、周囲がざわめきに包まれた。
「すごい! こんな高額取引が目の前で……!」
「おい見ろよ、金貨十五枚だってよ!」
「姉ちゃん、どうするんだ!? そんな大金――」
「え? それってどれくらいの価値なの?」
カエデが首をかしげると、群衆のざわめきはさらに膨れ上がった。
「金貨十五枚あれば、まともな家が買えるぞ!」
「十年以上は食えるだろ」
……父上からもらった大事な刀だけど……。
うう、食べ物には勝てないな!
「じゃあ……売ります! この刀、売ります!」
ま、あたしにはもう一振り、忍者刀もあるし、そもそも剣術苦手だったし。
父上には悪いけど、生きるためには仕方ないよね!
即決に周囲はどよめき、青年は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。私はトルナディス・リオ。
兄を探す旅をしている者です」
「えー、奇遇だね!
あたしもお兄さんを探して旅してるの〜!
あたし、カエデ・ツジアラシ! よろしくね!」
金貨の重みを感じて、思わず背伸び。お腹もグゥと鳴った。
「よーし! これでしばらく食べ放題だ〜!」
「この刀は、間違いなく名刀です。必ず大切にしますよ」
「そっか。ならよかった!
お互い、お兄さん見つかるといいね!
んじゃ、またどっかで逢ったら声かけてな!
さらばさらば〜★」
カエデはぱっと手を振り、羽のように軽い笑みを残した。
その胸には、ほんの少しだけ、誇らしい気持ちが灯っていた。
「ええ、カエデさん。兄を探す者同士、また機会があれば会いましょう! それでは!」
――旅は人と人を結び、新しい物語を紡いでいくんだな、なーんて、あたしらしくもなく詩的なこと、ちょっと思っちゃった。
⸻
「よーし! まずは果物だー!」
金貨を高々と掲げ、あたしはさっきの果物屋に突っ込んでいった。
「オジさーん、金持って来たよ〜。
さぁ、さっきのやたら黄色い果物、一本くださいな!
金貨で!」
「金貨だと!?
そんな高価な金、こんなとこで使うな……!」
あまりに場違いな硬貨を出され、周囲のざわめきが、一気に悲鳴に変わり騒然となった――。
……けれど、それはまた別のお話である。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。
皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。




