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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第63話:歩を刻む想い

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムから脱した後、キャラバンのメンバーとして行動し、交易都市ノクティアを目指す。

 そんな中、盗賊団ブラックペリルの奇襲により、一行は魔具『メネスの瞳』を奪われ、フィンを攫われた。

「……これで、俺のどうしようもない物語は、ひとまず終わりだ」


 静まり返った天幕の中で、エレカが口を開いた。

「カルネリア村で、あなたとダラスが言い争っているのを見かけたわ。あれは……メネスの瞳の件だったのね」


 マルバスは頭をかきながら苦笑する。

「……ああ、そうだ。あいつは二人きりになるたびに、取引を持ちかけてきたが、それを断っていた」


 ネロが納得したように小さく頷いた。

「父上の形見であり、バルトグランデ家にとって秘宝……そんなもの、簡単に手放せるわけがありませんよね」


 マルバスは首を振り、言葉を継いだ。

「ネロの言う通りだが、魔具フェルマが惜しかっただけではない。私は……恐れていたのだ」


 レオスが眉をひそめる。

「恐れていた?」


「ダラスは、『メネスの瞳』をアテネ様に使おうとしていると言っていた。だが、もしまた白目を剥き、死にかけるようなことが起きれば……次は助からないかもしれない」


 声を落とし、彼はさらに告げる。


「伝承にはこうある。『記憶を真に欲する者にしか力は及ばない』と。だが、私にはアテネ様が過去を求めているようには見えなかった。客と価格交渉し、金勘定に熱心で、楽しげに笑う姿こそ、本来のアテネ様なのではないか、と……」


 ロアスが口を開いた。

「昨日、アテネと話した。彼女がどこまで本音を語ったのかは分からない。だが、『過去を知るのが怖い』と、そう言っていた」


 マルバスは頭を抱え、呻くように呟いた。

「だから渡せなかったのだ……そんなアテネ様に、あれを使うなど到底できなかった」


 レオスは顔を背け、苛立ちを隠さず吐き出す。

「……気持ちはわかる。だが、潔く渡していたら――仲間を危険に晒すことも、フィンが攫われることもなかった。違ぇか?」


 深く頭を下げるマルバスの姿があった。

「レオス君の言う通りだ。俺の選択が甘かった。本当に申し訳ない」


 レオスは舌打ちし、肩を揺らした。

「……謝れって言ってるわけじゃねぇ。ただ……ちくしょう」


 苛立ちの行き場を失う少年の姿に、天幕の空気は重く沈む。

 やがて、ネロが慎重に口を開いた。


「整理したいんだけど……今わかっている限りでは、ブラックペリルという組織はペラーナさんという、団長の妹さんが率いていたんだよね。だとしたら、彼女が何かしらの行動で悪事と見なされ、自警団に追われて処刑された……そういうことになる」


 マルバスは首を振る。

「ペラーナが悪事を働くとは思えない。必ず裏があるはずだ」


 ロアスがふと思い出したようにマルバスに告げる。


「その妹と直接関係があるかはわからないが……。

 気になったことがある」


「なんだ、兄弟」


「アテネから聞いた話だ。これから向かうノクティアには『栄砂団』という強力な自衛組織があると聞く。聞き違いでなければ、一年前に就任した団長の名が『グラファル』というらしい……。さっきアンタの過去話に出た名と一致するな」


 マルバスが目を見開く。

「……なんだと。ファラス近衛兵団にいたグラファルか……同一人物であれば、ファラスのその後について、なにか聞けるかもしれんな」


 エレカも思い出すようにして言葉を継いだ。

「確かに、ファラス家の今については謎が多いわね。

 公の場で話題に上る家ではないけれど……本当に、その名を耳にしなくなったもの」


 しばし沈黙が落ちる。


 やがて、ロアスが切り出した。


「これからのことを考えたい。

 キャラバンはすぐに出発できそうか?

 負傷者も多数だ。停泊するのなら……俺はキャラバンを降りてでもノクティアに向かう」


 マルバスはきっぱりと答えた。

「いや、フィン嬢ちゃんのこともある。

 怪我人の手当ては最優先するが、停泊はしない。

 もし、ここで停泊すれば、また別の賊や魔物に襲われかねん。

 幸い、馬車は無傷だ。予定通り三日後、ノクティア関門街まで送り届けてやる」


 レオスが腕を組み、息を吐いた。

「そこに着いたら、俺とロアスでフィンを探す。

 ブラックペリルの居場所を突き止めてな。

 ……アンタらは?」


 マルバスは目を閉じ、一度だけ深く息をついた。

「フィンの件は胸が痛む。だが、俺は団長だ。今はキャラバンを率い、ノクティア関門街に滞在するのが務めだ。団員の治療と休養を取りつつ、少しばかり商売もするつもりだ」


 彼は小さく息を呑み、言葉を足した。

「個人的なことだが、ブラックペリルの情報も探るつもりだ。兄として何もしてやれなかった償いに……アイツの周りで何が起きたのか、知っておきたい。

 ……グラファルと話す機会がもし得られるなら、ファラス家についても聞いてみたい。何か掴めたら、共有する。気が向いたら顔を出してくれ」


 エレカは複雑そうな表情を浮かべながらも、言葉を選んだ。

「私もフィンちゃんのことは気になるけど、ノクティア支部の魔術師ギルドから召集を受けているの。それに、怪我人の看病も手伝いたい。だから、情報を得られたら皆に伝えるわ」


 ネロは二人に目を向け、にやりと笑った。

「レオス君、ロアス君。ボクは冒険者ギルドに顔を出さなきゃならないんだ。手掛かりを探すなら、そこに来るといい」


 ロアスが首を傾げる。

「ギルド……?」


「冒険者たちが集まって、依頼を受けたり情報を回したりする組織さ。怪しい連中の噂も流れやすい。要は、酒場兼役所みたいなもんと思ってくれればいい」

 ネロは簡潔に答えた。


 レオスが手を叩く。

「なるほどな! ロアス、まずはそこに寄ろうぜ」


「ま、着いたら詳しく紹介してあげるよ」

 ネロが続け、場の空気は少しだけ和らいだ。


 天幕の外には、嵐の残り香がまだ漂っている。

だが、その荒れ果てた空気の下で、キャラバンはすでに進発の支度を整えつつあった。


 キャラバンの旅路はいよいよ終着へと近づく。

 その先に待つのは、交易都市ノクティア。


 ロアスは拳を握りしめる。

 昨日、アテネが俺に告げた言葉。

 ――私……怖いんですの。過去を知ってしまったら、今の自分が壊れてしまう気がするから。だから、記憶なんてなくていいって、ずっと思ってきましたわ。今持っている記憶ですら、無くしてしまいたいくらいに――

 あれは俺を足止めするための嘘なのか。だが、彼女がブラックペリルの団長と知ってもなお、ただの嘘とは思えない。


 さらに、攫われたフィン。

 ――この方たちの悩み、困難……それらを解決し、救います!――

 本当に彼ら……アテネたちを救えるのか?

 死んでしまったら意味がない。フィンを必ず取り戻す。

 

 そして、『メネスの瞳』。

 それは、俺の記憶すら取り戻すことができるのか……。


 アテネへの疑念、フィン救出の誓い、そして記憶を取り戻せるかという期待。

 様々な想いが混ぜこぜになる。

 風が砂を運び、鈴音に混じって鳴り響く。

 それは、新たなる戦いの幕開けを告げるものだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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