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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第56話:裏切りの後奏曲

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムから脱出し放浪中、キャラバンのメンバーとしてに迎え入れられ、新たな仲間たちとノクティアへと向かう。そんな中、ロアスとアテネは夜の砂丘で語らう一方、盗賊団ブラックペリルはキャラバンを急襲し、交戦状態となっていた。

「それでいい。最初からそう言っている」


 ダラスの声は淡々としていたが、砂漠の夜に張り詰めた空気を裂く冷たさがあった。

 毒の短剣が刺さったまま拘束されたマルバスが、その視線を必死にダラスに向ける。

 そして、震える声で告げる。


「『メネスの瞳』……そいつの発動条件は、魔術因子を持たぬ者の生命力に加え……“ある力”が必要だ」


「ある力? 具体的にはなんだ」


「穢れなき魂を持つ処女の魔力……」


 マルバスの声は低く震えていた。

「……一度だけ、発動を試みたことがある。だが、失敗した。対象は泡を吹き……死にかけた」


「その時は、どういう奴で発動した」


「……妹の、ペラーナだ。白魔術に長け、男気もなかった。肉体的には条件を満たしていたはずだ。だが……結果は失敗に終わった」


 ダラスは吐血しながら話すマルバスに、冷血な瞳で答えを求める。


「お前がペラーナさんの……。なぜ失敗した。言え」

 

 一瞬ダラスは顔に緩みを生じたかに見えた。だが、すぐに冷徹な表情に戻る。

 マルバスは苦々しく言葉を継ぐ。


「ハッキリしない。だが、考えられる理由は四つ。どれかだろう。

 一つ――ペラーナは仕事柄剣を取り、人を殺めている。その罪で、″穢れなき魂″には届かなかったのかもしれん。

 二つ――年齢だ。当時、三十を目前にしていた。成人から離れれば離れるほど力は薄まるのかもしれん。

 三つ――対象者が記憶を求めていなかった。求めぬ者には瞳は応えぬ。

 四つ――その記憶が魔力で失われたものでなかった。自然に喪った記憶には、効果はないのだろう」


「……クソッ、色々と挙げてやがるが、要は、わからねぇってことだな」

 ダラスの顔が歪む。


 その瞬間。


 ――バァンッ!


 砂丘の向こうで火弾が夜空に咲き、眩い光を散らす。


「団長からだ! 時間切れだ、ダラス!」

 ウォドンが吠える。

 その合図を受け、ブラックペリルメンバーが一斉に動き出す。ウォドンは巨斧を背負い、リリィを肩に担ぎ上げ、リカールのもとへと駆ける。

 歩を進めていたエルメルスがふと立ち止まる。


「ん〜? 待って……なんかコレ、誰かに反応してるかも」


 蒼い球体が淡く脈打つ。その視線の先――荷台の物陰に小さな影があった。

「あれあれ、見〜つけた!」


「きゃっ……!」

 掴み出されたのは、フィンだった。


「この子だ」

 エルメルスは愉快そうに笑い、握った瞳を掲げる。

「この魔具フェルマ、この子に強く反応してる!」


「なんだと……!?」


 ダラスの瞳が鋭く光る。

 その時、キャラバンの時の話を思い出し、合点が言ったように口角を吊り上げるダラス。


「神子様……か。確かに、″穢れなき魂″っぽいな」


 その刹那、光弾が飛来し、マルバスを縛っていた土の鎖を吹き飛ばした。


「マルバス団長、今です!」

 砂丘の上から声が響く。ネロだった。


「状況はわかりませんが……加勢します!」


 しかし、自由になったマルバスは膝から崩れ落ちた。


「ぐっ……毒が……もう……」


 血泡を吐き、動くことすらままならない。


「ぬぅん!」


 ネロに応じるように、レオスがクラウスに斬りかかるが、大剣は何かに阻まれた。

 操られる団員との間に張り巡らされた糸が、クラウスを守る結界のように煌めいていた。


「無駄だ。貴様に俺は斬れん」

「クソっ……!」


 ダラスはすぐさま声を張り上げる。

「レシア、その少女も連れて来い! それで任務完了だ、撤収する!」


「ちょ、ダラス!? どういうことだよ!」

 状況を飲み込めていないネロの動揺をよそに、ウォドンは慣れた手つきでリリィに続き、片腕でリカールを担ぎ、巨大なコットンエレファントに駆け寄る。


 そして、レシアが音もなくフィンに近づいた。手には細い注射器。


「ひっ……やめっ……!」


 レシアはにこりと笑った。

「あは、大丈夫だよ。怖くないって。これはただの睡眠薬」


 プスリと白い腕に針を差し込む。


「んんっ……やっ……」


 抵抗する声も虚しく、瞼が重くなる。フィンの身体がふっと力を失いレシアの背に預けられた。


「おやすみ、可愛いお姫様」

 レシアは軽やかに背負い上げ、エルメルスと共にコットンエレファントへ駆け戻る。


「覇ッ!」

 ネロは、エレカを拘束していた土壁を掌で破壊する。


「あ゛……かはっ……」


エレカは咳き込みながら解放される。


「フィンを返しやがれッ!」

 レオスは闘気を込め、淡い光を放つ大剣を押し付ける。

 ーーすると、プツプツと糸が切れる感覚がする。


「何ぃ!? ドラゴンの鱗を繊維化して、魔力で編んだ糸だぞ!? 剣如きで切れるわけが」


 糸が切れるたびに、操られていた団員の四肢が垂れ、崩れ落ちる。


「抗う足を大地に返せ……捕えろ!

《土膝枷クラスト・カフス》!」


 地面が盛り上がり、太い土の縄が蛇のようにうねってレオス両足を縛り上げる。


「クソッ、離せ!」


 レオスは大剣を足を縛る土に突き立て、脱出を試みる。


「クラウス、ヤツら、適当に傷を負わせてから撤退だ。殿は俺に任せろ」


 クラウスは無言のまま頷き、両手の指をぎりっとひねる。

 団員たちの腕が痙攣するように震え、意志と無関係に短剣を逆手に構える。虚ろな瞳のまま、その刃を自らの腹に突き立てた。鈍い音と共に血が噴き出す。

 断末魔の声を上げることもなく、眠りの底についたまま。

 そしてクラウスが身を翻した瞬間、操り糸を断たれた操り人形のように、その躯は力なく地に崩れ落ちた。


「エルさん、リリィを起こしてくだせぇ。目覚めの曲、お願いしやす!」


「はいはーい。今すぐ」


 コットンエレファントの背に乗ったメンバーは配置に付く。気を失っているリリィを起こすべく、エルメルスは『メネスの瞳』をポーチにしまいこみ、ハープを構える。


「ダラス! 今までよくも騙してたな! フィンちゃんを返せぇ!」

 エレカは魔法陣を展開し、大型魔術の詠唱を始める。


「ブラックペリルッ! 逃がさないっ! ーー《操錬金弾》!」

 ネロは、疲労困憊の身体を突き動かし、立ち塞がるダラスに鋭く気弾を放つ。


 一方、隣の砂丘の頂から光が奔った。光の帯が一筋、闇を裂き、砂を白く凍てつかせる。

 そこを一条の影が滑り落ちる。人の形をしていながら、速すぎて目が追いつかない。

 まるで夜の闇から放たれた矢が、ブラックペリルを乗せる魔物へと一直線に迫るように――。


 竪琴の音色が闇夜に響き、錬金の弾丸が迫る。その狭間で――裏切りの後奏曲は最高潮を迎えようとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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