第55話:ブラックペリルが狙うモノ
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムから脱出し放浪中、キャラバンのメンバーとしてに迎え入れられ、新たな仲間たちとノクティアへと向かう。そんな中、ロアスとアテネは夜の砂丘で語らう一方、盗賊団ブラックペリルはキャラバンを急襲し、交戦状態となっていた。
しかしその静寂を切り裂くように、空から轟音が響き渡った。
ドシャアァァァンッ!!
巨大な影が戦場に墜ちる。土煙を巻き上げ、頭蓋を砕かれたグリフォンの死骸が砂地に叩きつけられたのだ。
返り血と羽毛が宙に舞い、砂漠の夜風に散る。
「な、なんだッ!?」
「なにごと!?」
マルバスとエレカが思わず目を見開く。
「レオスさんです!」
全体を俯瞰していたフィンはいち早くそれが誰かを理解していた。
その亡骸の上から、二つの人影が転がり落ちる。
片手で大剣を担ぎ、もう片手で少女を抱えたレオス。その腕の中で、涙を滲ませ、気を失っていたのは――リリィだった。
「……はぁ、死ぬかと思った」
レオスが大剣を突き立て、呼吸を整える。
マルバスは安堵したように笑いかける。
「はは、レオス。また随分と派手な登場――」
しかし、その言葉が言い終わる前に。
ドスッ、ドスッ!
「……ぐはっ!」
背中に走った衝撃。短剣が二本、マルバスの背を容赦なく貫いた。
振り返る余裕もなく、甲高い声が戦場に響く。
「皆、準備OKだよ〜」
キャラバンの荷台から、レシアが姿を現した。
同時に、低く響く呪詠が重なった。
「……大地よ、我が声に応え、拘束を成せ」
ダラスの詠唱。次の瞬間、マルバスの身体を土の鎖が絡め取り、地へ縫い付けるように拘束した。
「団長ッ!」
エレカが駆け寄ろうとするが、クラウスがふらつきながら立ち上がり、両手を広げ指先を巧みに操る。
ぞわり、と悪寒が走った。
砂に伏していたキャラバンの人間たちが次々と立ち上がる。眠ったままの虚ろな顔で、十人余り。その全員が自らの短刀を首に押し当てていた。
「きゃああああ!」
フィンの悲鳴が戦場に木霊する。
「エレカ、レオス……動くんじゃねぇぞ」
ダラスが冷酷な声で命じた。
「マルバス、お前もだ。もっとも……オメェはもう動けねぇかもしれねぇがな。抵抗すれば、こいつら全員、ここで死ぬ」
振り返ったエレカの目に映ったのは、荷台の上で薄笑いを浮かべるレシアの姿。
その背後には、土に刻まれた拘束痕――ダラスが「縛ったはず」の跡が残っていた。
(……ダラス……最初から……!)
エレカの胸に冷たいものが走る。
「明浄の閃きよ、全てを清めよ――」
必死に白魔術を紡ごうとするエレカ。
「捕えよ、《土牢壁》!」
ダラスの呪が走り、先程まで彼女を守っていた三枚の土壁がその身体を一気に拘束する。
さらに、壁から伸びる土の触手が彼女の口元へと伸びる。詠唱が中断される。
「ちょ、ダラス!? 何すーーんんんっ!」
無理やり岩の塊が口内に押し込まれ、詠唱も喋ることも封じられる。
「大人しくしていろ。死にたくなければな」
冷徹な声。
「はっ! まだわかんねぇのかよ、女!」
血を拭いながら立ち上がったウォドンが笑う。
「てめぇら、最初から騙されてたんだよ。なぁ、ダラス!」
「……!?」「ダラス……お前」「テメェ……」
エレカ、マルバス、レオスの声が重なる。
ダラスは感情を欠いた目で仲間を見据え、吐き捨てるように言った。
「俺は端から、ある魔具を狙って潜り込んでいた。……ブラックペリルの一員としてな」
「そうだ!」
ウォドンが吠える。
「そんでいただくぜ! 寿命の伸びる魔具を――」
「いや、ウォドン」
ダラスの冷たい声が遮る。
「そんなもの、この世には存在しねぇ」
「な……に……?」
クラウスの顔から血の気が引いた。
「俺たちはずっとそれを……」
「まさか……」
マルバスの呻き。
ダラスの視線が、血に染まる団長へと突き刺さる。
「マルバス……お前がずっと俺に譲るのを拒んでいた『メネスの瞳』――記憶を回復させる魔具だ。俺はそれをいただく」
「くっ……それは……!」
そこへ、涼しげな声が割り込んだ。
「ダラスさ〜ん、見つけましたよ」
キャラバンのテントから現れたのはエルメルスだった。
彼女の手には拳大の蒼い球体。『鑑定レンズ』を通して覗き込みながら、愉快そうに笑う。
「これ、一際濃い特質魔力を持ってる。きっとコレが『メネスの瞳』ですね」
「あのハープの女、いつの間に……」
レオスが歯噛みする。
「でもですね〜」
エルメルスは球体を弄びながら肩を竦める。
「この魔具、特殊な発動条件がありそうです。どうやら私一人の力じゃ発動できなさそうですよ〜。どうします?」
「教えろ。テメェなら知ってんだろ――『メネスの瞳』の発動条件をよ」
ダラスの眼差しは氷のように冷たく、拘束されたマルバスを射抜く。
呻きながらも、マルバスは歯を食いしばった。
「お前……誰に使う気だ……? 失敗すれば、その者は――ぐッ!」
傷口に鈍痛が走る。土の鎖がさらに締め上げたのだ。
「余計なことを喋るな。質問以外は許さん。次は団員の命を奪う」
ダラスの指がひらりと上がると、虚ろな目をしたキャラバンの団員が一人、短刀を逆手に握り、自らの腹に突き立てた。
「やめろッ!!」
マルバスの絶叫が夜を裂く。赤黒い鮮血が砂に滲み、空気が一瞬凍りついた。
「くっ……」
レオスはリリィを盾に取るように大剣を構えたが、冷たい殺気に腕が止まった。
ダラスが鼻で笑う。
「殺したければ勝手に殺せ。だがその瞬間、俺はお前ら全員を皆殺しにする。それだけのことだ」
レオスは舌打ちし、リリィを地面に横たえた。
「……わかった。条件を言う」
マルバスが絞り出すように言った。
「だが、その代わり――全員を解放してもらう」
マルバスの声が、乾いた砂漠の夜に凍りついたように響いた。その瞬間、戦場の全てが息を潜め、夜風すら止まったかのようだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。
皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。




