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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第52話:死闘の果ての終曲

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムから脱出し放浪中、キャラバンのメンバーとしてに迎え入れられ、新たな仲間たちとノクティアへと向かう。そんな中、ロアスとアテネは夜の砂丘で語らう一方、盗賊団ブラックペリルはキャラバンを急襲し、交戦状態となっていた。

 ネロとリカールは互いに血と汗にまみれていた。

 息をするだけで肺が焼け、周囲の喧騒も、今は遠い。リカールが投擲すれば、ネロが気弾で撃ち落とす。リカールが舞うように斬りかかれば、ネロが掌で迎撃する。

 互いに致命傷は与えられず、それでも確実に身体は削れていった。


「キミ、その刃が分裂して見えるような技や投擲……どこから教わった?」


「おや? 興味ありますカネ?」


 口角を吊り上げ、リカールが嗤う。


「これは私自ら編み出クレエした――幻想イリュジュオン殺法さっぽうデース!」


「……なるほど。自作の技か」


「アナタ様のその怪しい光の技……まさか、それもオリジナルですカ?」

 

 仰々しい振る舞いでネロを示す。


「いや。これは教わったものだ」


「oh! では、オリジナルを持つ私の方がすごいデスネ〜!」


「確かにそうかもしれないな」


 互いの唇に、血と笑みが浮かぶ。

 すでに体力は限界。だが――最後の一撃だけは放てる。


「お互い、体力の限界リミットが近いご様子……」


「そのようだ」


 ネロが拳を握り、静かに構え直す。

 リカールがマントを広げ、血走った瞳で叫んだ。


「愉しい時間もそろそろ、終幕フィナーレと行きまショウカ!」


「……来い」


 ネロが静かに頷いた。その姿には自然と闘気と気迫が溢れ出す。


「アデュー――《短剣死雨プリュイ・ド・ダグ》ッ!!」


 マントを翻した瞬間、空間が裂け、刃の奔流が溢れ出す。

 無数の短剣が星屑のように瞬き、やがて戦場全体を覆い尽くした。

 刃の豪雨ではない――刃の牢獄。逃げ場も光も、全てを閉ざす銀の世界。


「……アーデンベル流は――武術だ。見せ物ではない」


 ネロの両掌から迸る闘気。

 音速を超える掌撃が連打され、次々と短剣を弾き砕く。

 炸裂の衝撃が土を穿ち、戦場は雷鳴と火花に呑まれた。


「覇ああぁぁぁぁッ!! 百烈練掌ひゃくれつれんしょうッ!」


 閃光と轟音。短剣の雨は打ち破られ、残響だけが夜を震わせる。


そんなバカなスチュピードゥ……!」


「確かに、お前のオリジナルは立派だ」


 ネロは両掌を胸元で合わせ、爆ぜる闘気を押し固めていく。


「だが、アーデンベル流は三百年受け継がれた闘気術――その重みで押し潰す!」


「奥義――《練気流星群れんきりゅうせいぐん》ッ!」


 炸裂と共に、無数の気弾が流星の群れとなり放たれた。

 大地が爆ぜ、石塊が宙を舞い、光の奔流が空を焦がす。

 戦場は流星群の只中に叩き込まれたかのようだった。



「Oh……なんて(セ・ユヌ・)素晴らしい(メルヴェイユ)……!」



 瞬間、リカールは動きを止め、その光景に見惚れる。



「ああ、初公演の夜……皆で見た流星群メテオールのようだネ……見事ブラーヴォッ!」



 リカールはクス、と笑みを零すと、光の奔流にその身を委ねた。


 戦場を埋め尽くす光の後に現れたのは砂埃。そして、残ったのは砕けた地面と幾つものクレーター。

 その中央に、満足そうな表情のままリカールは倒れていた。


「……もぉ、無理」


 砂埃の中で、ネロもまた限界を迎え、仰向けに崩れ落ちる。


 二人の舞台は閉じ、拍手も歓声もない。

 ただ二人の戦いの証だけが、戦場に残されていた――。


 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓


 一方その頃、別の戦場――

 リリィの鞭と、グリフォンの翼撃、さらにサンドウォームの顎門がレオスを挟み撃ちにしていた。

 砂塵が巻き上がり、天地そのものが牙を剥くような三重の圧力。

 レオスは鞭と牙の軌道を巧みに読み、跳躍と反転を繰り返す。

 鋭い牙が大地を噛み砕き、鞭が空を叩き、巨大な翼が嵐を巻き起こす。

 砂煙の中で二人と二体の魔物が交錯する。刃と鞭、そして牙――交わるたびに火花と砂塵となり、夜空に爆ぜて消えた。


「ったく、しぶといわねぇ」


 そう呟くと、リリィが口笛を吹き鳴らす。

 ピュイイイイッ! 合図と共に砂の下からさらに現れ、レオスに襲いかかるサンドウォーム、戦場は次第に混沌を増していった。


「くっ……一体だけじゃないのか!」


 レオスは地面に大剣を突き刺し、一気に跳ね上がり、次の敵を確認する。


「バカね。空に逃れようなんて」


 すかさず、グリフォンの牙とリリィの鞭が襲う。

 レオスは渾身の力で大剣を振るう。


「――っのガキ!」


 その鋼の刃が空気を切り裂き、鞭の軌道と魔物の牙を同時に断ち、その攻撃から逃れる。

 地上に着地し、砂塵が舞い上がり、一瞬視界が真っ白になる。

 すると下からサンドウォームが地中から姿を現す。


「出たな! まずはこのミミズからだッ!」


 迎え打つようにサンドウォームに鋭く大剣を突き立てる。


 ガキィンッ!


「なにィ……! 斬れねぇ!?」


 分厚い鱗が火花を散らし、刃を弾き返した。


「ねぇ、オッサン! ギャルのアタシをガキ扱いした罪は重いわよ」


 空からリリィの鞭が振るわれ、グリフォンが軌道を変えて急降下。


「フフン♪ 覚悟してね、オッサン!」


バシィンッ!


 鋭い鞭が砂煙を裂き、レオスの肩をかすめる。痛みが走り、思わず息を詰めた。

 リリィが挑発混じりに叫び、指を弾く。


「キャハ、――食っちまいなァッ!」


 サンドウォームが砂を割り、顎門を開く。

 地中と上空の、死の波状攻撃がレオスを押し潰さんと迫る。


「オラァァッ!」


 瞬間――。

 無意識に闘気を刃へ込めた一撃が、轟音と共にサンドウォームの口を裂いた。

 鱗が弾け飛び、巨体を震わせる断裂音が砂漠を揺らす。


「な、なんだ今の……これが……闘気ってやつか!?」


 驚愕と興奮が入り混じった声。


「なら――もっと試させてもらうぜッ!!」


 雄叫びと共に振り抜いた大剣が、煌めく弧を描く。

 次の瞬間、サンドウォームの胴体は輪切りにされ、巨躯が砂上に崩れ落ちた。

 砂漠全体を揺るがす衝撃と、噴き上がる血潮。飛び散る肉片すら、烈風に舞う。


「ちょっ、なにそれ、聞いてないんですケド!?」


 リリィが目を剥き、グリフォンが怯んだように旋回して上空へ逃れる。

「よくもアタシの“友達”を……!」


 リリィが怒りの声を響かせ、口笛を鋭く吹き鳴らす。

 ピュイイイイッ! 合図と共に、鞭が閃き、グリフォンの背を打った。

 応じるように巨鳥が旋回し、サンドウォームの残骸を踏み越える。


「武器に頼らなきゃ何もできない分際で……!」


 リリィの声が空に響く。


「このグリフォンとアタシの鞭で、今度こそ引き裂いてやる!」


 サンドウォームの亡骸を越え、地と空から迫る新たな連携。

 しかし――。


「フッ……悪くねぇ!」


 レオスは口の端を吊り上げた。


「闘気のコツ……ちょいと掴めてきたぜ! 来いよ、メスガキ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 キャラバンで休憩中のある日、キャラバンのざわめきから少し離れた木陰で、レオスが黙々と剣を振るっていた。その姿を見つけたネロは、思わず足を止める。


「あ、レオス、まだケガ完治してないのに、素振りなんてしたらエレカさんに怒られるよ?」


「うぉ、なんだ。ネロかよ。びびらせやがって」


「それにしても、今微量だけど闘気を纏ってるよ!」


「あ? そうなのか?」

 レオスは、大剣を握った手をまじまじと見る。


「うん。さっきボクが話しかけたらすぐ消えちゃったけど。やっぱり無意識だったんだね」


「武器を使いながらでも闘気って纏えんだな……あ、ネロ、稽古つけてくれよ」


「いやぁ、ボクの闘気武闘術は門外不出、一族以外の人間には教えられないんだ」


「大丈夫! 教えなくていい! 盗むから手合わせしてくれ!」


「レオス、まだケガ完治してないんだろ? 闘いなんかしてたら、エレカさんに怒られちゃうよ。でも、そうだな。安静にしたままでもできる闘気の″扱い方″くらいなら教えてあげてもいいよ」


「闘気の扱い方?」


「そう。呼吸と体内の流れを意識するんだ」

 ネロは荷馬車の陰に腰を下ろし、草を一本摘み取った。


「ほら、この草の茎の中を水が通ってるの、想像できる?」


「……ん〜、まぁ、なんとなく?」


「それと同じで、体の中にも《マナ》と《生命力》が通ってるんだよ。闘気っていうのは、その生命力の流れを呼吸で増幅して、筋肉や武器にまとわせる力のことさ」


 レオスは腕を組み、眉をひそめた。


「……抽象的すぎてわからん」


「じゃあ実践ね」


 ネロは立ち上がり、両足を大地に深く踏み込む。すうっと息を吸い込み、丹田に空気を落とすようにして――吐き出す瞬間、拳を突き出した。


 空気が震え、草地が「バシッ」と鳴った。

「おおっ!」


「これが闘気を練る基本。呼吸と意識の一致だよ」


 レオスも見よう見まねで呼吸を整え、拳を振るう。だが風はわずかに揺れる程度だった。


「……ちっとも出ねぇ」


「はは、最初はそんなもんさ。コツは“力むな、でも緩めるな”。その境目を探すんだ」


 ネロは柔らかく笑い、拳をレオスの胸に軽く当てる。


「君には素質がある。剣を振るうとき、自然に闘気が漏れてるんだから」


「……でも使いたい時に使えなきゃ意味がねぇな」


「うん。だからこそ、意識して練ればすぐに掴めるよ」


「闘気を武器に纏わせるとどうなるんだ?」


「術者にもよるけど、基本的にはその切れ味や破壊力が数段階上がる」


 レオスはぐっと拳を握り直し、唇を噛んだ。


「マジか! なら絶対に掴んでやる。……もっと強くなるんだ」


 その眼差しに、ネロは一瞬だけ懐かしさを覚える。


 やがて休憩の合図が終わり、キャラバンは再び進み出す。

二人の小さな稽古は、誰に知られることもなく、ひっそりと始まっていった――


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 レオスの元に急降下。


(さっきのをマグレにさせるな。腰を落とし、深く呼吸をし――)


 サンドウォームの牙が覗いた口が飛び出る。

 その動きを捉え、レオスは大剣に闘気を込める。


「ドリャアッ!! 喰らえぇぇぇッ!!!」


 大剣を振り抜くその瞬間、鋭い光を放ったッ!

 しかし、サンドウォームはレオスの動きを見透かしていたかのように、飛び出すタイミング一拍置いた。

 そして、瞬間的に光を放った大剣は、空を切った。


 (――フェイントッ!?)


 サンドウォームが一度縮こまり、バネのようにレオスに飛び掛かる!


「――剥ぎ取れ、《鞭鉤絡パイツェンハーケン》!」


 同時に、しなる鞭がその大剣を絡め取り、強引に引き剥がす。

 レオスは武器を奪われ、サンドウォームに足を食いちぎられる――そうなって終わるはずだった。


「あれ? どこ? いや、重っ!」


 だが、レオスはその大剣を決して手放さなかった。

 尋常ならざる握力で握られた大剣は、レオスごと空中へと引きずり上げられる。

 レオスは宙吊りの状態から、背筋と腹筋の力で身体を反転させ――グリフォンの背に鮮やかに飛び乗る。


「なッ――!」


 驚くリリィへ、レオスは低く笑った。

 鞭が絡まった大剣を構える。


「ちょっ……てか、降りなさいよぉ!」


「おう、ガキんちょ。俺はまだ二十一歳になったばかりだ。オッサン呼ばわりした落とし前つけさせてやるぜ」


 鞭が絡まったまま構わず大剣を振りかぶるレオス。


「しまっ――」


 大剣を引き寄せようとしたリリィは逆に引き寄せられ、鞭を手放してしまう。


 キエェェェェーーーッ!


 グリフォンは鋭く甲高い鳴き声を上げ、猛然と翼を翻しながらレオスを振り落とそうと身を大きく揺さぶった。


「ちょ、アタシも落ちちゃうッ!」


 だが、体幹の違いか、レオスにその揺れは通用しなかった。


「脳天、ぶち撒けろやッ!!」


 刹那、大剣が閃光を描き、グリフォンの頭を一刀で断ち切った。

 鮮烈な閃撃。血飛沫と羽根が舞い散り、魔物は断末魔を上げた。

 それを見たリリィは悲痛の叫びを上げた!


「いやぁッ!!! くそっ、殺す! アンタ、殺してやる! きゃっ」


 リリィは素手で殴りかかろうとするが墜落するグリフォンの背でバランスを崩す。レオスもまた、リリィとそのまま落下。

 

「い、いやぁ、助けて……!」


「あ? さっきまで殺す殺す言ってたクセに」


 無言のまま目を閉じ、レオスの衣服にすがるように掴みつくリリィ。「助けて……」と誰にいうでもなく、か細く呟く。


「……ったく。自分勝手なガキは世話が焼ける」


 レオスは息を荒げ、落下地点を確認しつつリリィを抱き寄せる。


 落下地点――そこには大の字で倒れるクラウスと、それに相対するエレカの姿。

 そして、跪くウォドンの顔前に戦斧を突き付けるマルバスの姿があった。

 戦場の中央は……異様な静寂に包まれていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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