第49話:開幕!キャラバンvsブラックペリル
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムから脱出し放浪中、キャラバンのメンバーとして迎えられ、新たな仲間たちとノクティアへと向かう。そんな中、ロアスとアテネは夜の砂丘で語らう一方、盗賊団ブラックペリルはキャラバンを急襲し、交戦状態となっていた。
砂塵が舞い上がる戦場。乾いた風が耳を刺す。ネロが脚を大きく広げ、大地を踏み締め、目を閉じ、武道の構えを見せながら、長く深呼吸をする。
「すぅーーーーーーー……………………」
そして、静かに闘気を練り上げる。ネロの身体から青白い靄を激らせ周囲の砂と共に巻き上げる。
リカールは二本の短剣を握り、空中を滑空しながら刃を交差させ、ネロに高速で突進――
「準備はいいかい?」
手前数メートルのところで更に加速。
そして、ネロはカッと目を見開く。
「――《幻影双刃》!!」
「――《掌っ・波っ》!!!」
ドォン!!!
瞬きすら許されぬ速さで交錯した。そのままの勢いを保ちリカールは飛び去る。
ネロは大地にそびえ、片手の掌を真っ直ぐに突き出していた。刹那、ネロの腕から鮮血が飛び散り、夜の大地を赤黒く染めた。衝撃で砂塵が舞い、ネロは視界が一瞬歪む。
リカールの両手に握られていた短剣は柄の部分より上が粉々に弾け飛んでいた。リカールはそれに気付くと、両手からポイッと投げ捨て、手品のように新たな二本の短剣を取り出した。
そして、離れた距離で、互いに振り向き様に遠距離の攻撃を一発撃ち合う。
ネロの掌から放たれる闘気による気弾。
リカールの正確無比な短剣による投擲。
それが空中で交錯――衝撃波が砂を吹き飛ばし、光と影が渦を巻き、短剣を弾いた気弾がリカールへと向かう。
リカールは軌道を変え、身体をひねって難なく気弾をかわす。
「……いい反応だ。だがこれはどうだ」ネロの低い声。
「覇、覇、覇ぁーー! ――《操練気弾》!!」
気合いを入れる度、掌から新たな気弾が三発放たれる。リカールはその気弾の軌道から逃れようと高度を上昇すると、三つの気弾もリカールを追尾し、距離を詰める。
リカールは投擲でその気弾を弾こうとするが、器用に避ける気弾に当たらず、振り切れない。
「……厄介ですネ!」
進行方向を変え身を翻し、気弾を直接斬りつけに行く。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!と首尾良く操錬気弾に斬撃を叩き込み、ダメージを最小限に抑える。
そして、舞うように身体を翻し、ネロに突進――
「――《幻影双刃》!!」
「――《掌っ・波っ》!!!」
――ブシュッ!
――パリン!
肉を裂き音と硬質な破砕音が重なり合う。
リカールの二本の刃がネロの腕を引き裂き、赤い血が飛び散り、それと同時に闘気の波が二本の刃に叩き込まれ、粉々に割れていた。
そのコンマ数秒後、ネロの背中から突如現れた青白く光の弾――《操錬気弾》が、リカールの顔面に命中し、ドミノマスクを弾き飛ばす。
ドガン!
「――グォッ!」
リカールは大きく仰反る態勢となる。顔から流れる血を手で抑えた。
「《気血功》!」
ネロは傷付けられた腕を即座に闘気で塞ぎ、出血を止めた。
「操錬気弾は自在に動かせる気弾。四発放った内の一発は自分の背後に隠しておいたのさ」
「……オ・ラ・ラ〜、トレビアン! この私の顔面に攻撃を叩き込むだなんて、実に素晴らシイ。しかし、あなた様も私の刃、見切れていないようデスガ?」
(確かにアイツの言う通り、その刃は二本しかないはずなのに、斬られる間際四本の刃に襲われるかのような幻影を見てしまい対処に遅れる。しかし、腕が動かなくなるほどの致命傷にはならない。……ならば、臆するな! 攻撃あるのみ!)
ネロは傷付いた腕から再び気弾の連打。
「……技の撃ち合い。スペクタクルとしては単調ではありますが、いいでショウ。あなたの血肉、とことん削り切ってあげマス!」
滴る血を手で拭い取り、再び飛び出し加速するリカール。砂塵の中、跳躍から回転、跳ね返り、斬撃で気弾をかわす。《幻影双刃》の連撃。ネロは掌波と気弾を駆使し、攻撃の軌道を予測して反応する。
鋭い衝撃と砂の匂い、筋肉の張りと血の熱。戦場の空気が二人の存在を押し合う。
一撃一撃が互いの身体感覚と意志を削り合っていた。
ネロが心の中で冷静に計算する。
「速度、重心、軌道……逃げ場を作らせない。狙いは一点だ」
リカールもまた、跳躍の角度と刃の角度を微調整し、即座に防御と反撃を繰り返す。刃が空を切るたび、砂が舞い、光が乱反射する。
「はぁっ、はぁっ……!」
互いに荒い息を吐きながらも、攻撃は止まらない。
闘気と刃がぶつかり、一撃ごとに空気が裂け、衝撃が爆ぜ、砂塵が舞い上がる。
――先に崩れるのはどちらか。
今や二人の戦いは、命を削り合う消耗戦に突入していた。
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同じ頃、戦場の一角――
砂塵が渦巻き、二つの影が激しく対峙していた。
「テメェ、変なのに乗ってねぇで、さっさと降りて来い!」
上空を旋回している魔物。その背に乗る人影に対し、大剣を構えたレオスが、苛立ちを隠さず叫ぶ。
「は? 飛べないのはそっちの問題でしょ?」
リリィは魔物の翼を広げ、背上から余裕の笑みで見下ろす。
「つーか、変なのじゃないし。アンタ大人のクセに知んないのぉ? この子はグリフォンって言うの!」
リリィは胸を張り、指先で翼を撫でるようにしながら解説する。
「四肢の胴体と鷲の翼を持つ魔物。俊敏さと獰猛さを兼ね備えた希少種なのよ!」
言いながら、リリィは軽やかに翼を羽ばたかせ、レオスの頭上近くまで降下。リリィのしなる鞭が稲妻のように閃き、空からレオス目掛け叩きつけられる。
バチィンッ!!
レオスは大剣を横薙ぎに振り、火花を散らして軌道を逸らす。回避は紙一重だった。
リリィは再び高度を上げ旋回する。
「ほら見て、この翼の広さと羽ばたきの速さ! 単純な生物とは格が違うんだから!」
レオスは地面で踏ん張りながら、目を細めてリリィを見上げた。リリィの顔を捉え――思わずつぶやく。
「ん? 遠目だったから気付かなかったが、よく見ると……まだフィンと同じくらいのガキんちょじゃねぇか」
「……はぁ? 今何つった?」
その瞬間、リリィは顔を歪め、瞳を光らせながら、鞭を両手で引き、「バシィン!」と鋭く張り詰めさせた。
その音に、グリフォンが一瞬耳を伏せ、翼を小さく震わせた。
「ガキじゃなくてギャルよ! 見りゃわかるっしょ!? 目ぇ腐ってんの? オッサン!」
「いやいや、まだギャルって歳じゃねぇだろ」
「ぷっつーん、マジギレ」
そう言い放たれた途端、リリィは怒りのままグリフォンに鞭打ち、レオスのもとへ目にも止まらぬ速度で急降下――
「殺すわ――《鞭連撃》!」
バチッ バチッ バチィンッ!
グリフォンの背から鞭が勢いよく伸び、連続で襲いかかる。レオスは大剣で受け流し、砂塵が舞う中で徐々に後退する。鞭が体をかすめるたびに痛みと疲労が重なり、汗と血が滲む。
「キャハハ、オッサン、防戦一方じゃん。このまま一生続けてやんよ!」
鞭の連撃は止まらない。砂塵に紛れて軌道を見極めるのも困難で、レオスは一瞬の判断で剣を振り、地を蹴る。
その声と同時に地面が低く唸った。砂が盛り上がり、爆ぜるようにして巨大な影が飛び出す。
胴体だけで家屋を押し潰せそうな巨躯。節くれだった環状鱗が蠢き、砂を削るたびに金属が擦れるような耳障りな音を立てる。先端は蕾のように開き、内側には幾重もの牙が螺旋を描いて並ぶ。奥底からは粘液が滴り落ち、見る者の胃をぞっとさせた。
「なんだ?コイツ……!」
レオスの口から思わず漏れた。
その反応に機嫌をよくしたリリィはころっと表情を変え、笑みを溢した。
「ふふーん♪ ビビった? 魔物についてな〜んも知んないのね。この子は《サンドウォーム》。砂漠じゃ最上位の捕食者よ。硬い鱗は並の刃じゃ通らないし、地面下から獲物を丸呑み。あの螺旋状の牙に呑まれたら、出てくる頃にはミンチになるんだから♡」
リリィはグリフォンの背で鞭を弄びながら、余裕綽々に解説する。
だが説明を聞く暇もなく、足元の砂が盛り上がり、二体目のサンドウォームが地を割って飛び出した。砂塵と轟音が戦場を震わせ、夜空にまで波紋が広がる。
「ッ……危ねえ!まだいんのかよ」
レオスは咄嗟に後方へ跳躍し、巨大な牙の直撃をかわす。着地と同時に闘気を全身に集める。
「……上等だ。このクソガキ」
大剣を握る手に力を込め、レオスは空中から鞭と地面からの牙を次々と閃かせ、巨躯に似合わぬ速度で受け流しながら反撃態勢を取る。
鞭と牙の軌道を読んだ瞬間、足元の砂を蹴り、体勢を反転させ――次の攻撃へつなぐ。
「……こんだけ楽しめりゃ歳なんて関係ねぇわな。テメェも俺の力の糧にしてやんぜ」
血と汗が混ざる顔に笑みが滲み、戦意を昂らせる。
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