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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第47話:平穏を裂く序曲

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。

 放浪中、キャラバンのメンバーとして迎えられ、苦手だった人と交流をすること学びながらノクティアへと向かう。

 一方、盗賊団ブラックペリルがキャラバンを虎視眈々と狙っていた。

 夜も更け、砂丘の尾根を歩くアテネとロアスの姿は、キャラバンからは見えなくなっていた。

 荷馬車の傍に座るフィンは、辺りを見回しながら怪訝そうにつぶやく。


「おかしいですね。どなたか、ロアスさん……知りませんか? どこにも見当たらないんです」


 明日の準備をしていたマルバスにその声が届き、肩を竦める。


「いや、見てねぇな。悪いが他を当たってくれるか?」


「そうですか……」


 胸の奥にざらつくような不安を覚えたフィンは、思わず荷馬車の陰へ駆け寄った。そこでは、自分の魔術書を整理しているダラスの姿があった。


「ダラスさん、ロアスさん見ませんでした?」


 ダラスは難しそうな魔術書を手に取りながら答える。


「ああ、アテネのやつがこの世界についての説明がてら散歩したいんだってよ」


 フィンはほっとした笑みを浮かべるが、すぐに顔を曇らせた。


「あ、そうなんですね! それはとてもありがたいです! でも、二人きりで……」


 ダラスは眉をひそめ、怪訝そうに問いかける。


「ん? なんか二人きりだとマズいか?」


「え? いや……べ、別にそんな、マズいなんてことは……」


 フィンの頬がわずかに赤く染まる。

 そこに、たまたまその近くを通りがかったエレカ。その会話を耳にすると、まるで少女のように悪戯っぽく笑う。


「あらあら? それはまさかの展開ね。そことそこがくっついちゃうのかしら? フィンちゃんもダラスくんも気が気じゃないわね〜」


 フィンは顔をさらに赤くしながら、エレカの肩をポカポカと叩く。


「そ、そんなじゃないですってば」


 ダラスは面倒くさそうな目で放つ。


「だる絡みすんなよ。アイツとはそんなんじゃねぇさ……」


〜♪


 その瞬間、静寂を破るように、柔らかなハープの調べがキャラバン全体に広がった。

 穏やかさの奥に、得体の知れぬ異界の響きが潜んでいる。心地よさと薄気味悪さが同居する音色だった。

 聞き惚れる者もいれば、身を硬くする者もいた。


 フィンの心臓が小さく跳ねる。

 音色に誘われるように、眠気がキャラバンの人々を包み込む。目を閉じれば、まるで砂漠の夜に溶け込むような夢の感覚。


 しかし、その安らぎは長くは続かなかった。

 遠くで、荒々しく重たい衝撃音。低く響く声。一つの四足歩行の巨体が遠くから砂塵を巻き上げながら迫る。そのシルエットが大きくなるにつれ、その背中の上に幾つかの人影があることがわかる。

 

「……巨大な像、あれは南方地域に生息する魔物、コットンエレファント。その上に、六つの人影。それが、こっちに接近してる!」


 見張りをしていたネロからの報告が鋭く走った。

 すると、いち早くマルバスが飛び出て装備の支度をしながら指示を飛ばす。


「そいつぁ、噂の『ブラックペリル』移動用の魔物だ! 各員、緊急防衛態勢に移れ!」


 荷馬車の者たちは眠気から覚め、咄嗟に武器を手にする。

 砂漠の夜は、一瞬で緊張に染まった。


「……何か私たちにご用なんでしょうか」


 そんなことをつぶやくフィンの横を、大剣を担ぎ戦闘態勢に入ったレオスが通り過ぎ、言葉を投げる。


「阿呆か! 盗賊団の用なんて″盗み″か″殺し″ぐれぇしかねぇだろ。フィンはどこかに身を隠せ!」


 突如、キャラバンの広場に異様な音が満ちた。

 甲高いハープの調べ──だがそれはただの音楽ではない。

 澄んだ弦の響きが空気に溶け込み、聴く者の意識を絡め取るように広がっていく。


「皆々様!」


 声が響いた。ひときわ大きな荷馬の背の上に立つ影。

 派手な燕尾服をまとい、赤い薔薇を胸に飾った男が、大仰に一礼する。


「大変長らくお待たせしまシタ。私は、当団の大スター、リカール・バルビエでございマス。ようこそ、この旅の果てに出会った奇跡の舞台へ!」


 笑みは道化師のように広がり、仮面の下から覗くかのような双眸には、冷ややかで鋭い光がぎらついていた。


「今宵は夢と幻の境界にて──我ら《ブラックペリル》が贈る奇跡の舞台、大スペクタクルを!」


 その声の主は魔物の背を蹴り、両手に短剣を握ると、宙を裂く弾丸のごとく迫った突進してきた。


「さぁ、刮目せヨ!」


直後、リカールの背後からハープの旋律が奔流のごとく広がり、その声を包み込む。星屑が音になって降り注ぐように、キャラバン全域を震わせた。

その響きを拡張しているのは、コットンエレファントの背に据えられた箱型の魔具フェルマであった。


「なんだ……この音……意識が……」


 最初は戸惑っていたキャラバンの仲間たちも、次第にその音色に酔わされ、まぶたが重くなり、バタッと倒れ込み眠りについていく。

 急いで外に出た仲間たちが目の前で眠りにつく姿を目の当たりにしながら、エレカも視界が揺らぎ、耳鳴りのような音が混じり、思考がぼやけていった。


「これは……魔術による、催眠!」


 エレカがいち早く異変に気づく。


「みなさん、私の傍へ! 光の環よ、聖を宿し、真実を現せ、心を澄ませ――《光明澄ルミナ・クラリタス》!」


 金色の環が空気を切り裂き、近くの仲間たち――マルバス、レオス、ダラス、フィンを包み込むように守った。

 その中に立つ者だけは、意識を保つことができた。

 そして、もう一人。


「僕は大丈夫……!闘気を練り上げていれば、この程度の魔術は防げる!」

 ネロは構えながら仲間に呼びかける。


 マルバスは頷き、起きているメンバーに指示をする。

「ネロ、ハープの術者を狙え! レオス、ダラスは新たな敵に備え警戒を怠るな! エレカ嬢はみんなの身体能力を高めてくれ!」


 レオスは気合を入れるかのように大剣を大きく素振りし、構える。

「おうよ! 俺らを拾ってくれた恩、ここで返してやんぜ!」


 エレカは、そのまま、魔術を行使する。

「黄金の光輪よ、我らを抱き、疾き足と揺るがぬ力を与えよ。天の加護を受け、運命をも凌駕せん

──《光環ルミナ・サークル》!」


 次の瞬間、闘気を練り上げたネロは、即座にハープを奏でるエルメルスへと掌を突き出す。


「覇ぁ!」


 ハープを奏でる少女――エルメルス目掛け、鋭い光弾が一直線に飛び、炸裂音。

 ――が、その軌跡を遮った影があった。


「Oh!」


 リカールが二刀を翻し、気弾を十字に切り裂く。

 火花のような残滓が散り、広場を白く照らす。

 そして軽やかにネロを指差すと、にやりと笑った。


「舞台裏を荒らすのはご遠慮願おうカ! さぁ、君と私で一曲踊りまショウ!」


 リカールの両足が宙を蹴った。

 燕尾服の裾が翻り、二刀が閃光を描いてネロへ迫る。


 さらに、左からは宙を浮く人形ペラ。カタカタと音を鳴らしながら多くの者が眠るキャラバンに突進。

 右からは、獅子の身体、鷲の頭と翼を持つ魔物グリフォンが滑空し、レオスへ急接近。


「昼はよくも『友達』を殺ってくれたわね〜。許さないんだから!」

 その背の上で、鞭をピシッと両手で伸ばし、恨み節を叫ぶ少女――リリィ。


 そして、コットンエレファントから飛び降り、ゆっくり歩いてくる三つの人影。


「ヘッ、どこの誰だか知んねぇが、この《讐斬アダギリ》の試し斬りに付き合ってもらおうじゃねぇか」

 二メートルあるその刀を肩に担がながら笑みを浮かべる――ウォドン。


「ねぇクラウス、本当に大鎌の人はいないんだよね? 大丈夫なんだよね……?」

 紫に淀む短剣を片手に、華奢身体を震わせる少女――レシア。


「ああ、その代わり長引かせるな。″団長″の指示通りに遂行するんだ」

 遠見筒を顔に装着し、両手を広げながら指を巧みに動かす青年――クラウス。


 白光と砂塵、喧騒と旋律が入り乱れる中、舞台は整った。

 こうして、平穏を裂く乱戦の幕が切って落とされた──。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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