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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第45話:這い寄る魔の手

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。

 放浪中、キャラバンのメンバーとして迎えられ、苦手だった人と交流をすること学びながらノクティアへと向かう。

 一方、盗賊団ブラックペリルがキャラバンを虎視眈々と狙っていた。

 キャラバンから五キロほど隔たった砂丘の上――そこには、巨大なコットンエレファントの背に腰を下ろした六つの影が揺れていた。

 象のような体躯を持つ魔獣は、全身がふわりとした白い綿毛に覆われ、昼光を受けて淡く輝く。毛に触れれば弾むように柔らかく、太い足先から舞い上がる砂が地面を揺らす。長く巻き上がった鼻をゆっくり振り、低くうなる声は、遠くまで響きつつも不思議と温かみを感じさせた。風が吹くたびに毛が揺れ、その隙間から砂丘の向こうに小さな隊列の砂煙がちらりと見えた。


「――あぁんもう! アタシの『友達』、やられちゃったんですけど〜。も〜マジサイヤク〜」


 ピンクの髪を乱し、リリィは鞭の先で魔獣の毛混じりの皮を軽く叩く。金属音のような響きが乾いた空気に散った。


「え〜、リリィちゃん、今どんな状況? 最後の作戦もダメだったの? ねぇ、もっと詳しく〜」


 エルメルスは興味津々と身を乗り出す。指先が無意識に弦を撫で、風に紛れて小さな旋律が零れる。その音に、遠くで眠る魔獣の皮膚が微かに震えた。


「……最後も失敗に終わった。本命だった後方側は、例の大鎌の男に瞬殺された」


 クラウスは遠見筒と呼ばれる魔具フェルマを覗き込み、淡々と報告する。遠見筒のレンズははるか彼方を薄く切り取り、指先から冷たい確信が伝わる。


「じゃあ、情報通り大鎌の男、めちゃくちゃ強いじゃん。あーあ、そいつが同乗する前に仕掛けられればよかったのに〜。そんなところに入るの嫌〜」


 警戒心を垂らすレシア。声が少し震え、手が膝の上でぎゅっと握り締められた。


「まー、そう言わんでくだせぇ! リリィさん、お友達を捨て駒にするようなマネさせちまって、すいやせん。レシアさん、何かあったら俺様が守るんで心配しないでくだせぇ。だろ、クラウス」


 太い声を張り上げるウォドン。大斧を軽々と振り上げ、髪のない頭が光を反射する。

 クラウスは頷いた。


「皆さん、パ・ドゥ・プロブレム! 此度の公演も必ずや成功させまショウ。我らが『団長』がまた何か、アン・プラン・ジェニアルな作戦を用意してることでショウ!」


 集団の中心に立つリカールが指を鳴らすと、六人の会話は一瞬静まった。


「大丈夫かな。『団長』……この前会った時、少し思い詰めてる気がしたから」


 レシアはポツリとつぶやく。陽光が彼女の横顔に明るく当たり、不安な表情を際立たせていた。


「はぁ? アンタ、バカ? そんなん気にしたってしょうがないでしょう? アンタ、『団長』の何がわかんのよ! 何、理解した風気取ってんの?」


 リリィは怒りで顔を赤くし、コットンエレファントの背にバシンと打ちつけた。柔毛が少し逆立ち、魔獣は微かにビクッと震えた。


「え? な、何をそんな怒ってんのよ。わ、私、そんなつもりで言ってないじゃない……」


「もーっ、言い訳してんじゃないわよ! 大体ね、レシアのいつもそういう発言が一々、腹が立つんだから――!」


 リリィの言葉に、風が毛を巻き上げ、小さな綿毛の竜巻のように舞った。


 エルメルスはそっとハープを弾き、柔らかな旋律を空気に流す。その音色が風に溶け、ざわめく感情を静めていった。


〜♪〜♫


「はーい、はい、落ち着いて! 私たち″家族″が生き残るためには、やるしかない。それだけで十分でしょ〜?」


 エルメルスはにこやかに笑い、肩の力を抜くように声をかけた。


「セ・サ。私たちは、ただ『クライアント』さんの依頼をこなすしかありマセン」


 リカールは小さく頷き、背筋を伸ばす。風が外套をはためかせ、舞い上がる砂粒が昼光に反射して煌めいた。


「まあ、そういうことですな! ウチらは手足。脳からの信号をもらって動くしかねぇってことっすね!」


 ウォドンは大斧を軽く揺らし、砂を払い落とすように動作した。


「……このあと指令が来たら、改めて作戦を伝え――」


 クラウスの声が遠く揺れる風にかき消されかける。リリィがすかさず被せる。コットンエレファントの背が低く揺れ、体が微かに沈み、舞い上がる綿毛が昼光に反射した。


「レシア、さっきの発言、謝るわよ。ちょっと言い方悪かったわ。ごめんなさいね」


 リリィは跳ねるように体を揺らし、鞭先で砂と綿毛を巻き上げ、照れ隠しの薄笑いを浮かべた。


「うん! えへへ」


 揺れる背の上で必死にバランスを取るレシア。頬が赤く染まり、手が砂の上で小さく動いた。


「あと、バカなのは聞くまでもなかったわ。ごめんなさいね」


 リリィは鞭を軽く振るたびに舞い上がる砂粒と綿毛が、強い昼光にきらきらと反射した。


「うん! ……え? なに? それ、どういうこと? リリィちゃん!」


 レシアは背の揺れに小さく身をすくめ、目をまん丸にしてリリィを見つめる。


 エルメルスはハープを手に奏で、微かに歌を呟く。旋律が風に溶け、揺れるコットンエレファントの背の上に柔らかく広がった。

 ウォドンは肩の力を抜き、斬馬刀や戦斧を確認する。

 クラウスは荷台からおもむろにペラを取り出し、片腕に嵌めようとしていた。


 広い砂丘の昼光に照らされ、風が巻き上がる中――ブラックペリルの影は、コットンエレファントの背で揺れながらも、静かに動き出した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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